【完結】婚約破棄された令嬢が冒険者になったら超レア職業:聖女でした!勧誘されまくって困っています

如月ぐるぐる

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 城へ任務終了の報告を終え、今はニルスの部屋に来ています。
 
「え~、お姉ちゃんたち帰っちゃうの?」

「そうだよ~。残念だけど、お仕事が終わっちゃったんだ~」

「遠い国でもありませんし、機会があれば遊びに参ります」

 そんな事を話に来たわけではありません。
 エステバンが……ニルスはエステバンと仲が良かったので、もう会う事は出来ないと話に来たのです。
 しかし無邪気な顔を見ていると、中々言い出す事が出来ません。

 そんなわたくしを見かねたのか、レッドが口を開きます。

「ニルス、お前はエステバンと仲が良かったな」

「うん! エステバンは良く遊びに来てくれたから大好きだよ!」

 心が重くなりますね……しかもその正体はニルスを誘拐すると犯行予告をしていた人物、しかも呪いの片割れなのです。
 一体何と説明をするのでしょうか。

「あいつはもう来れない。お前も分かってたと思うが、アレは人間じゃないからな」

「……エステバン、居なくなっちゃったの?」

 ニルスの前でしゃがみ込み、頭を撫でながら話を続けます。

「あいつはお前を守る為に出てきたんだ。もうお前は安全だからな、役目を果たしたんだ」

「じゃあ、もう会えないの?」

「残念だが会えない」

 よ、容赦ありませんねレッドは。
 もう少し優しく言えない物でしょうか。

「そっか……どこか行っちゃったんだ……元気だったらいいな」

「あいつはよく分からない奴だからな、そう簡単にくたばる事は無いだろう」

「そうだね、変な人だったもん、大丈夫……だよね」

 少し涙目になっています。
 ああ、ダメですね、我慢できなくなってしまいます。

「ニルス、わたくし達は友人です。会おうと思えば会えますし、離れていても心は繋がっています。泣かないでください」

 ニルスを抱きしめ、涙をそっとぬぐいます。
 胸の中でしくしくと泣くニルスは、少しだけ震えています。

「よっしゃニルス! 訓練所に行くぞ! そこで稽古をつけてやるぜ!」

 突然のマットの申し出に、ニルスも戸惑って……!?

「本当マット兄ちゃん!? 行く行く!」

 突然元気になり、レッドとロビーも付いて行きます。
 え? どういう事ですか? ケイの顔を見るとケイも首をひねっています。
 男性にしか分からない事なのでしょうか。

 訓練所では木剣を持った4人が、順番順番に剣を合わせています。
 ニルスは……とても楽しそうです。
 ここは3人に任せておきましょう。

 訓練? はそれなりの時間やっていましたが、流石にニルスの体力が尽きてしまいました。
 今はロビーの背中で寝ています。

「あの、何故訓練なのでしょうか」

「ん? そうだね……僕にもよくわかって無いんだ」

「え? ではなぜ?」

「さっきはそれが一番いいって思ったんだ。涙でお別れするよりも、楽しい思い出で別れた方が良いかなって」

 本人たちもよくわかっていないようです。
 そんな物をわたくしとケイが理解できるはずもありません。

 しかし翌日になり、ニルスとは笑顔でお別れする事が出来ました。
 男性というのは理解が出来ませんが、悪いモノでもありません。

「あ~、結構時間のかかる依頼だったな。しかも色々あったしな~」

「本当だね。エステバンなんて変わった存在や、憂国騎士団なんて連中とやり合ったり」

「違うわ! お前だお前! ロビーが一番色々あった原因だろーが!!!」

「え? そ、そうなの?」

 帰りの馬車の中で、マットとロビーがじゃれ合っています。
 確かに一番の驚きはロビーが勇者になった事ですね。そこはマットに賛同します。

 いつも通り賑やかに馬車を進めていましたが、レッドが真剣な顔をしてわたくし達を呼びました。

「すまん、一か所寄りたい所があるんだが、いいか?」

「かまわねーよー」

「むしろ僕が行きたいよ」

「放っておくわけにもいかないもんね~」

わたくしも会ってみたいですね」

「そうか、すまん」

 そしてサザンクロスに戻る前に寄った場所は、レッドの生家……代々勇者を生み出し、聖女と共に暮らしている場所です。

 レッドの実の兄であるホワイトが、双子の兄弟であるブラックに呪い殺された事実、そしてレッドがブラックを討った事実を、伝えないわけにはいきません。




「ああそれか、知ってたぞ」

 レッドが重い口を開けて伝えた事実を、ご老人は当たり前に知っていたようです。

「はぁ!? だって爺ちゃんそんな事一言も言って無かったじゃないか!」

「当たり前だ。子供だったお前にそんな事を言うはずが無いだろう」

 それはごもっともです。
  
 勇者の家だから貴族みたいな家を想像していましたが、少し裕福な家庭程度の家でした。
 そしてわたくし達が着いた時には、全員が出迎えてくれていました。
 ああ、【先見の明せんけんのめい】を使える人が2人も居るのでしたね。

「まぁまぁ! 今回の聖女様は美人さんだわね~アナタ」

「何を言っているんだ、お前の方が美人に決まってるじゃないか」

「もうアナタったら」

 レッドのご両親でしょうか、恐らくは40代のはずですが、随分と仲が良いようです。

「親父とお袋は気にしなくていい。いつまでたっても新婚気分が抜けないんだ」

 それにしても考えてみれば凄いメンバーが揃っていますね。
 3代の勇者と聖女が一堂に会しているなど、そうそう見れるものではありません。

「そんで? ブラックはどうだった」

 お爺さんがレッドに真剣な顔つきで聞いてきました。
 ブラックは……わたくし達が討ちとりました。それをどう伝えれば……。

「ああ、弱かったよ。俺達が簡単に倒してやったぜ」

「……そうか、アイツは弱かったか」

「弱かったよ。あれじゃ勇者は務まらないな」

「そうじゃったか……それは仕方がないな」

「それはそうとキミ、随分と変わった力を持っているね、どうやって使うんだい?」

 お父さんがロビーに興味を持ちました。
 変わった力……勇者の力をスキルとして使用できることでしょうか。

「えと、こうやると……」

 ロビーの目が赤く光りました。
 勇者スキルが発動したようです。

「おおー凄いな! どれどれちょっとこっちにおいで」

 何やら勇者組が集まって話を始めました。
 そして次は聖女組が呼ばれて一か所に集まりました。

 そこで聞いた話しは……衝撃の一言でした。
 聖女の力、この力を使える人物はランダムに選ばれるのではなく、聖女の力を持つ者が、ある程度自由に選ぶことが出来るそうなのです。
 完全に個人を指名できませんが、思い描いた人物に適合するものが居たら、その人物に聖女の力が宿るのだとか。

 だからわたくしがこの力を授かったのは偶然ではなく、必然だったようです。

「ではなぜわたくしに?」

「完全にランダムになると、それこそ探せなくなるもの。かといって近すぎると血が濃くなって正常に継承できないし、外の力を取り入れるためには必要な事なの。フランチェスカさんを選んだ理由はね―――」

 慈愛に満ち、賢く行動力があり、それでいて美貌を兼ね備えた女性……らしいです。
 適合しているのか、はなはだ疑問ですが。

 驚き過ぎて驚けなくなってしまいました。
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