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59 悪あがき 決着

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 わたくし達の反撃が開始されました。
 成りたてながらも勇者と聖女が揃っているのです、熟練とはいえ相手勇者一人ではさぞ大変でしょうね。
 それに加えてレッドは3色持ち、マットとケイは1色ですが連携の取れた仲間です。

 一旦回り始めた歯車は止まりません。
 すでにわたくし達は言葉を口にする必要もなく、仲間の考えていることが分かります。
 ああ、そうだったのですね。【先見の明せんけんのめい】を使う必要もなく、みんなの次の行動が読めます。
 
 マットがブラックの真正面から切りかかります。
 普段ならば悪手ですが、その意図が分かっているので問題ありません。
 
 当たり前のようにブラックは【後の先ごのせん】でカウンターを返してきますが、それをわたくしが【先見の明】で予測して防御します。
 それをさらにブラックはカウンター返しをしようとしますが、そこにロビーが割り込みます。

 ブラックの【後の先】をわたくしの【先見の明】で受けた事で、ブラックはロビーへの【後の先】でのカウンターが発動しませんでした。
 つまりロビーの攻撃は……。

「ぐあぁ!」

 ロビーの剣はブラックの右肩に突き刺さりました。
 休む間もなくレッドが追撃をし、ひるむブラックの右足に深手を負わせます。
 それでもブラックは倒れる事なく、剣を落とす事もなく距離を取りました。

「貴様らの様なひよっこに、俺が負けるはずが無いだろうが!!!」

 まともに動かない右手から左手に剣を持ち換え、聖職者クレリックのスキルで治療をしようとしています。
 そんな事はさせません!

 わたくし射手シュータースキルでナイフを投げ、ロビーとレッドが魔法使いウィザードスキルで魔力弾を放つと、ナイフに魔力弾がまとわりつき、一閃の光となってブラックの左肩を貫通しました。

 聖職者クレリックスキルの詠唱が止まり、うめき声と共に剣を床に落とします。
 剣を拾おうとしていますが、その両手は剣を掴む握力を無くしているようです。
 これで……終わりでしょうか。

 !!! まだです!
 剣を持てないのなら魔法があります。【先見の明】で悪あがきをするブラックが見えました。
 ブラックは歯を食いしばり、恐ろしい顔でわたくし達を睨みつけると、広範囲魔法の詠唱を開始します。
 何という人なのでしょうか、ここはあなたの店、バーリントン商会の一室なのですよ? あなたの仲間が沢山いる場所なのですよ?
 先ほどからずっと遠巻きに見ていますが、この戦いに参加できるはずがないので当たり前なのです。

 その仲間を殺そうというのですか?

 そんな人間に、勇者を名乗る資格はありません!

 その思いは皆も同じようで、特に勇者になりたくてもなれなかったレッドの怒りは凄まじいモノです。

「貴様が……貴様が身内だと思うとヘドが出る! 親父たちには言わないでおいてやる、だからこの場で死ね!」

 ロビー・レッド・マットが剣で切りかかり、わたくしとケイは被害を抑えるべく部屋に防御フィールドを展開させます。
 魔法を止められればヨシ、止められなければ……わたくし達もろとも大爆発でしょう。
 今回は【先見の明】でのビジョンが見えません。
 勇者2人の【後の先】と聖女の【先見の明】が同時に発動している事で、未来が全く定まらないのでしょう。

 部屋の中が大爆発しました。
 炎、煙、衝撃……防御フィールドのせいで全てのエネルギーが内側に封じ込まれます。
 ああ、失敗したのですね……このままわたくし達は炭となって消えてしまうのでしょうか。

 新しいビジョンが見えました。

 全てのエネルギーが一か所に収束し、何者かがソコに立っています。
 あれは一体……?

 エネルギーが収束し、ブラックの背後に何者かの姿が見えてきました。
 黒く波打つような影……あれは?

「エステバン……?」

 ロビーの中に入り込み、勇者の力を与えたエステバンが再び現れました。

「ケジメくらいは……自分でつけないとな」

 それだけ言って、エステバンの姿は消えて無くなりました。
 助けてくれたのですか? 自らの、自分を捨てたブラックよりもわたくし達を?

 考えが追いつかない状況ではありますが、今は優先させることがあります。
 ブラックはどうなったのでしょうか。

 しっかりと立っていました。
 その2本の足で、そして体に突き刺された3本の剣で支えられるように。
 首はうな垂れ、口から血を流してピクリとも動きません。

「せめて弟の手で討たれた事、ありがたく思うといい」

 3本の剣が引き抜かれると、ブラックの体は後ろに倒れました。
 ビジョンは……見えません。
 完全に終わったようです。
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