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34 ウワサ 暗躍
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「ま、まてまて。誰が帰っていいといった?」
「たった今、デイヴィット王太子、あなたがおっしゃいました」
この人の事ですから勢いで言ってしまったのでしょうが、さっきの言葉はここに居る全員が聞いています。
流石のヴィヴィアン姫ですら天を仰いでいます。
それにしてもこんなに簡単に挑発に乗る人だったでしょうか?
誘導にも簡単に引っ掛かりますし、ここまで簡単に御せるとは思いませんでした。
「いいから戻るんだ! まだ話は終わっていない!」
終わっていないと言われましても、これ以上話をするとアナタが危ないのではないでしょうか。
それを伝えようかと悩みましたが、私が言う必要はありませんでした。
「もうよいデイヴィット、その者達を出て行かせよ」
「し、しかし父上! 我が国には聖女の力がーーー」
「それ以上は言うな! これ以上続けるなら、お前の王位継承権を下げねばならんぞ」
「そんな! ……分かりました」
国王自らが王太子を止めました。
どうやらこれ以上やれば、息子のボロが沢山出てくるのが分かったのでしょう。
挑発に乗らず、ヴィヴィアン姫に任せておけば希望はあったのに。
「それでは皆様、私達はこれにて失礼させていただきます」
頭を下げて謁見の間を出て行きます。
さて、これで第2段階までは成功と言えるでしょう。
このままでもいいのですが、どうやらグラストリム帝国は聖女の力が必要な様子。
その希望すら摘み取ってしまいましょう。
城を出る時も堂々と、真ん中を大げさに歩いて出て行きます。
2~3日はこの街に滞在し、用事が終わったら帰るとしましょうか。
「次ので止めになるのか? な~んかあの王太子、バカっぽかったぜ?」
「大丈夫じゃないかな~」
「多分、いや9割がた問題は無いかな。あの王太子の言葉は誰も信じないだろうから」
「そうですね、デイヴィット王太子は以前よりも色々な部分が弱くなっていましたし、国王とヴィヴィアン姫の出方次第でしょう」
「それでも問題は無いだろう。アイツは王になれないかもしれないが」
私がこの国に居た時はもう少しまともだった気がしますが、何かあったのでしょうか。
「それでは私は宿で休むとしましょう」
その日の晩、両親の……私の住んでいた家へと赴きました。
あそこまで王太子を馬鹿にした態度を取ったので、追い返されるのではないかと心配していましたが、温かく迎え入れてくれました。
3年以上ぶりの再会です。
爵位を取り上げられる事はありませんでしたが、やはり罰金は払ったそうです。
今の私では到底返せる額ではありませし、両親は要らないと言ってくれます。
が、せめてこの家に幸あれと祈りを捧げました。
翌日からは宿に戻り、いくつかの施設を訪れました。
冒険者ギルドや教会、以前お世話になった方々にも会いに行きました。
それこそ思いつく限り。
この街に来て4日目、あるウワサが流れ始めました。
曰く、王太子様はフランチェスカ様を聖女とは知らずに処刑しようとした。
曰く、聖女様を自分の物にしようと誘拐を試みた。
曰く、聖女様に許しを請うために城に案内した。
などなど、概ね事実ですが少しのウソを混ぜました。
しかしそのウソも、私達があまりに堂々と入城し、出てくる時も堂々としていたため嘘には見えないでしょう。
躍起になってウワサを消しにかかるでしょうが、それこそがウソを真実に変えるのです。
街中でウワサについて聞かれますが、全て笑って流します。
もう何もする必要はありません。
堂々と街を出れば完了です。
デイヴィット王太子が私達に手出しをする事は無いでしょう。
私達に何かあれば、真っ先に疑われるのはデイヴィット王太子ですから。
少なくとも表立って聖女を頼る事は出来ないでしょう。
それにしても、聖女の力が必要な理由とは何だったのでしょうか。
そこまでは調べていませんでした。
国が亡びる訳でもないですし、後になれば理由もわかるでしょう。
来る時とは違い、帰りはゆっくりとした物です。
乗合馬車でのんびりと移動し、半分観光旅行みたいな気分でした。
サザンクロス聖国に戻り冒険者ギルドに顔を出した時でした、グラストリム帝国が聖女の力を欲しがった理由が分かりました。
どうやらグラストリム帝国には虫が発生しているようです。
人を襲う虫らしく帝都の街中でも突然発生し、人々を襲っているとか。
その出現場所が毎回違うため、聖女の先見の明が必要だったようですね。
親指くらいの虫のようですが素早く飛び回り、鋭く毒のあるアゴで襲い掛かるため、鎧もあまり効果が無いのだとか。
それで被害が増大し、大きな問題になっているようです。
なるほど、それならそうと素直に話せばいいのに……指名手配までした私に助けを求める事など出来なかったのでしょうか。
プライドと国民、一体どちらが大切なのやら。
一件落着したように見えた今回の事件ですが、私の知らない所では話が進んでいたようです。
「たった今、デイヴィット王太子、あなたがおっしゃいました」
この人の事ですから勢いで言ってしまったのでしょうが、さっきの言葉はここに居る全員が聞いています。
流石のヴィヴィアン姫ですら天を仰いでいます。
それにしてもこんなに簡単に挑発に乗る人だったでしょうか?
誘導にも簡単に引っ掛かりますし、ここまで簡単に御せるとは思いませんでした。
「いいから戻るんだ! まだ話は終わっていない!」
終わっていないと言われましても、これ以上話をするとアナタが危ないのではないでしょうか。
それを伝えようかと悩みましたが、私が言う必要はありませんでした。
「もうよいデイヴィット、その者達を出て行かせよ」
「し、しかし父上! 我が国には聖女の力がーーー」
「それ以上は言うな! これ以上続けるなら、お前の王位継承権を下げねばならんぞ」
「そんな! ……分かりました」
国王自らが王太子を止めました。
どうやらこれ以上やれば、息子のボロが沢山出てくるのが分かったのでしょう。
挑発に乗らず、ヴィヴィアン姫に任せておけば希望はあったのに。
「それでは皆様、私達はこれにて失礼させていただきます」
頭を下げて謁見の間を出て行きます。
さて、これで第2段階までは成功と言えるでしょう。
このままでもいいのですが、どうやらグラストリム帝国は聖女の力が必要な様子。
その希望すら摘み取ってしまいましょう。
城を出る時も堂々と、真ん中を大げさに歩いて出て行きます。
2~3日はこの街に滞在し、用事が終わったら帰るとしましょうか。
「次ので止めになるのか? な~んかあの王太子、バカっぽかったぜ?」
「大丈夫じゃないかな~」
「多分、いや9割がた問題は無いかな。あの王太子の言葉は誰も信じないだろうから」
「そうですね、デイヴィット王太子は以前よりも色々な部分が弱くなっていましたし、国王とヴィヴィアン姫の出方次第でしょう」
「それでも問題は無いだろう。アイツは王になれないかもしれないが」
私がこの国に居た時はもう少しまともだった気がしますが、何かあったのでしょうか。
「それでは私は宿で休むとしましょう」
その日の晩、両親の……私の住んでいた家へと赴きました。
あそこまで王太子を馬鹿にした態度を取ったので、追い返されるのではないかと心配していましたが、温かく迎え入れてくれました。
3年以上ぶりの再会です。
爵位を取り上げられる事はありませんでしたが、やはり罰金は払ったそうです。
今の私では到底返せる額ではありませし、両親は要らないと言ってくれます。
が、せめてこの家に幸あれと祈りを捧げました。
翌日からは宿に戻り、いくつかの施設を訪れました。
冒険者ギルドや教会、以前お世話になった方々にも会いに行きました。
それこそ思いつく限り。
この街に来て4日目、あるウワサが流れ始めました。
曰く、王太子様はフランチェスカ様を聖女とは知らずに処刑しようとした。
曰く、聖女様を自分の物にしようと誘拐を試みた。
曰く、聖女様に許しを請うために城に案内した。
などなど、概ね事実ですが少しのウソを混ぜました。
しかしそのウソも、私達があまりに堂々と入城し、出てくる時も堂々としていたため嘘には見えないでしょう。
躍起になってウワサを消しにかかるでしょうが、それこそがウソを真実に変えるのです。
街中でウワサについて聞かれますが、全て笑って流します。
もう何もする必要はありません。
堂々と街を出れば完了です。
デイヴィット王太子が私達に手出しをする事は無いでしょう。
私達に何かあれば、真っ先に疑われるのはデイヴィット王太子ですから。
少なくとも表立って聖女を頼る事は出来ないでしょう。
それにしても、聖女の力が必要な理由とは何だったのでしょうか。
そこまでは調べていませんでした。
国が亡びる訳でもないですし、後になれば理由もわかるでしょう。
来る時とは違い、帰りはゆっくりとした物です。
乗合馬車でのんびりと移動し、半分観光旅行みたいな気分でした。
サザンクロス聖国に戻り冒険者ギルドに顔を出した時でした、グラストリム帝国が聖女の力を欲しがった理由が分かりました。
どうやらグラストリム帝国には虫が発生しているようです。
人を襲う虫らしく帝都の街中でも突然発生し、人々を襲っているとか。
その出現場所が毎回違うため、聖女の先見の明が必要だったようですね。
親指くらいの虫のようですが素早く飛び回り、鋭く毒のあるアゴで襲い掛かるため、鎧もあまり効果が無いのだとか。
それで被害が増大し、大きな問題になっているようです。
なるほど、それならそうと素直に話せばいいのに……指名手配までした私に助けを求める事など出来なかったのでしょうか。
プライドと国民、一体どちらが大切なのやら。
一件落着したように見えた今回の事件ですが、私の知らない所では話が進んでいたようです。
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