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15 勇者 聖女
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「俺はレッド・ローズ。勇者だ」
盗賊に襲われ、間一髪で助けてくれた人物は以前出会った怪しい剣士。
助かりました……しかし、なぜこんな場所に居るのでしょうか。
「助けていただきありがとうございます。あの時は―――」
「話はいい。今はそんな場合ではない」
そうでした。今は盗賊に襲われている最中です。
しかし盗賊も、レッド・ローズさんが来たことで動きが止まっていますね。
今のうちです!
「マット! ロビー! ケイ! 態勢を立て直します!」
3人は直ぐに反応し盗賊の手から逃げました。いえ、私達に構っている暇は無くなった、と言った方が良いでしょう。
レッド・ローズさんの装備や、音もなく接近する技術は間違いなく一級品です。
盗賊達はゆっくりと動き出しますが、まさか正面から戦うつもりなのでしょうか?
しかしレッド・ローズさんは剣を下にさげたまま、構えを取ろうとしません。
戦う気はない、という意思表示でしょうか。
しかし理由は直ぐにわかりました。
突風が吹き一瞬顔を背けましたが、前を見た時には……盗賊は全員倒れていました。
まさか今の突風の間に? いえひょっとしたら、突風を起こしたのかもしれません。
どちらにせよ、レッド・ローズさんの腕は桁外れです。
「やりたいようにやる、などと言っておきながら、随分とノンキなものだな」
剣を鞘に納め、見下したように私に辛らつな言葉を浴びせます。
確かにやりたいようにやると言いましたが、この方に文句を言われる筋合いはないと思うのですが。
「おいお前! 助けてもらった事は感謝するけど、フランになんて事いってやがんだ!」
「マット、良いのです。レッド・ローズさん、助けていただき感謝いたします。お礼もかねて、食事などはいかがでしょうか? よろしければ、ですが」
断られるでしょうか。しかし今の私達に出来る事といえば、食事をご馳走する位です。
借りを作ったまま別れても良いのですが、出来ればその場で借りは返したいですね。
レッド・ローズさんは私の目を見ています。
何でしょうか、まるで私の心を読もうとしているようですね。
「ご馳走になろう」
「ありがとうございます。ケイ、1人分追加でお願いします」
「はぁ~い」
マットがケイのお手伝いを始め、私とロビーはイスとテーブルの用意をします。
レッド・ローズさんにはイスを用意して、少々お待ち願いましょう。
「ねぇフラン、どうしてあの人を食事に誘ったの?」
「お礼をしたいのは本当です。それに、私達には手本となるべき人物が必要だとは思いませんか?」
「手本? 冒険者としての師匠って事?」
「ええ。私達は順調に成長しているとは思いますが、今回のようなことはこの先も起こるでしょう。ならば、それに必要な知識・実力を身につけねばなりません」
「そうだけど……フランはいいの? あんなこと言われてさ」
「ふふふ、私はあの程度の事は気にしません。自分の利益になるのなら、もっと言われても構いませんし」
「それは……僕が我慢できなくなるから止めて」
「そうですね、ほどほどにしておきましょう」
焚き火にかけておいたヤカンを取り、カップにお湯を注いでコーヒーを入れます。
ロビーにはマットとケイに話をしておいてもらいます。
イスに座り、腕を組んで下を向いているレッド・ローズさんにコーヒーを渡します。
「どうぞ。砂糖はいりますか?」
「少し貰おう」
スプーン一杯分の砂糖を入れ、カップを渡します。
取っ手を持って口に運び、熱かったようで体がピクリと動きました。
「レッド・ローズさんは、私には役目があるとおっしゃっていました。どのような役目なのでしょうか」
「聖女という職業は、勇者と組んで人ではたどり着くことのできない、遥かな高みに行かねばならん。そのためには無駄な時間などすごす暇はないのだ」
とても不愛想に、ぶっきらぼうに喋ってはいますが、この方には確かな目標があるのでしょう。
私は聖女とはいえ、その様な高みに行けと言われても困ってしまいます。
レッド・ローズさんの向かいのイスに座り、少し話を進めましょう。
「しかし私は聖女とはいえ、冒険者になったばかり。そのような高みなど、想像もつきません」
「だから俺と共に来いと言ったのだ」
「しかしそれでは、今の仲間を捨てる事になってしまいます。あなたは、その様な人間を仲間として信用できますか?」
何も言わずにコーヒーを飲んでいます。
どうやらそれは理解しているようですね。ならばもう一押ししてみましょう。
「あなたは共に来いという、私は仲間を捨てられない。それならば、選択肢が一つ増えるのではありませんか?」
「? どういう意味だ?」
「レッド・ローズさん、私達と共に冒険をしましょう」
盗賊に襲われ、間一髪で助けてくれた人物は以前出会った怪しい剣士。
助かりました……しかし、なぜこんな場所に居るのでしょうか。
「助けていただきありがとうございます。あの時は―――」
「話はいい。今はそんな場合ではない」
そうでした。今は盗賊に襲われている最中です。
しかし盗賊も、レッド・ローズさんが来たことで動きが止まっていますね。
今のうちです!
「マット! ロビー! ケイ! 態勢を立て直します!」
3人は直ぐに反応し盗賊の手から逃げました。いえ、私達に構っている暇は無くなった、と言った方が良いでしょう。
レッド・ローズさんの装備や、音もなく接近する技術は間違いなく一級品です。
盗賊達はゆっくりと動き出しますが、まさか正面から戦うつもりなのでしょうか?
しかしレッド・ローズさんは剣を下にさげたまま、構えを取ろうとしません。
戦う気はない、という意思表示でしょうか。
しかし理由は直ぐにわかりました。
突風が吹き一瞬顔を背けましたが、前を見た時には……盗賊は全員倒れていました。
まさか今の突風の間に? いえひょっとしたら、突風を起こしたのかもしれません。
どちらにせよ、レッド・ローズさんの腕は桁外れです。
「やりたいようにやる、などと言っておきながら、随分とノンキなものだな」
剣を鞘に納め、見下したように私に辛らつな言葉を浴びせます。
確かにやりたいようにやると言いましたが、この方に文句を言われる筋合いはないと思うのですが。
「おいお前! 助けてもらった事は感謝するけど、フランになんて事いってやがんだ!」
「マット、良いのです。レッド・ローズさん、助けていただき感謝いたします。お礼もかねて、食事などはいかがでしょうか? よろしければ、ですが」
断られるでしょうか。しかし今の私達に出来る事といえば、食事をご馳走する位です。
借りを作ったまま別れても良いのですが、出来ればその場で借りは返したいですね。
レッド・ローズさんは私の目を見ています。
何でしょうか、まるで私の心を読もうとしているようですね。
「ご馳走になろう」
「ありがとうございます。ケイ、1人分追加でお願いします」
「はぁ~い」
マットがケイのお手伝いを始め、私とロビーはイスとテーブルの用意をします。
レッド・ローズさんにはイスを用意して、少々お待ち願いましょう。
「ねぇフラン、どうしてあの人を食事に誘ったの?」
「お礼をしたいのは本当です。それに、私達には手本となるべき人物が必要だとは思いませんか?」
「手本? 冒険者としての師匠って事?」
「ええ。私達は順調に成長しているとは思いますが、今回のようなことはこの先も起こるでしょう。ならば、それに必要な知識・実力を身につけねばなりません」
「そうだけど……フランはいいの? あんなこと言われてさ」
「ふふふ、私はあの程度の事は気にしません。自分の利益になるのなら、もっと言われても構いませんし」
「それは……僕が我慢できなくなるから止めて」
「そうですね、ほどほどにしておきましょう」
焚き火にかけておいたヤカンを取り、カップにお湯を注いでコーヒーを入れます。
ロビーにはマットとケイに話をしておいてもらいます。
イスに座り、腕を組んで下を向いているレッド・ローズさんにコーヒーを渡します。
「どうぞ。砂糖はいりますか?」
「少し貰おう」
スプーン一杯分の砂糖を入れ、カップを渡します。
取っ手を持って口に運び、熱かったようで体がピクリと動きました。
「レッド・ローズさんは、私には役目があるとおっしゃっていました。どのような役目なのでしょうか」
「聖女という職業は、勇者と組んで人ではたどり着くことのできない、遥かな高みに行かねばならん。そのためには無駄な時間などすごす暇はないのだ」
とても不愛想に、ぶっきらぼうに喋ってはいますが、この方には確かな目標があるのでしょう。
私は聖女とはいえ、その様な高みに行けと言われても困ってしまいます。
レッド・ローズさんの向かいのイスに座り、少し話を進めましょう。
「しかし私は聖女とはいえ、冒険者になったばかり。そのような高みなど、想像もつきません」
「だから俺と共に来いと言ったのだ」
「しかしそれでは、今の仲間を捨てる事になってしまいます。あなたは、その様な人間を仲間として信用できますか?」
何も言わずにコーヒーを飲んでいます。
どうやらそれは理解しているようですね。ならばもう一押ししてみましょう。
「あなたは共に来いという、私は仲間を捨てられない。それならば、選択肢が一つ増えるのではありませんか?」
「? どういう意味だ?」
「レッド・ローズさん、私達と共に冒険をしましょう」
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