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21 もう一人の王太子
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とにかく情報を集めるべく、私は街に出てある店へと向かった。
ここはアクセサリーショップ。そう、私の店の商品を卸している店だ。
「こんにちは。お久しぶりですね店長さん」
「おお! イングリッドさんではありませんか、お久しぶりです。わざわざどうされたので?」
私の服装は街で活動してもおかしくない私服だし、まだ国民には他国の姫だとは知られていない。
「ちょっと私的な旅行をしているので寄ってみたんです。それでですね、確か今週は商品の仕入れがありましたよね?」
「ええ、週末前には注文した品が届くはずです」
「その時に手紙を渡して欲しいんです。急ぎでは無いのですが、店員たちに伝え忘れた事があったので、それを手紙にしたためてきました」
「お安い御用ですとも。届けてくれた人にお渡ししたらいいのですね?」
「はい、お願いします」
しばらくお店で雑談をして、私は城へと戻ってきた。
どうやら街の中では戦争が始まるって話は広まってないみたい。
流石にすぐに開戦って訳じゃないし、商人達も行動には出ていないんだろう。
それから数日後、ユリアが商品の打ち合わせをしに城に来てくれた。
「ごめんねユリア、わざわざ国を跨いで呼んでしまって」
「構わないよ。それよりもどうしたんだい? 仕事の打ち合わせなんて、随分と熱心じゃないか」
「そんな事ないわよ? 私は真面目ですもの」
そんな会話をしながらユリアを城内へと案内する。
まずは私の部屋で話を続けよう。
「それで? どうして仕事の打ち合わせなんてデタラメを言ってまで、僕を呼んだんだい?」
「ユリアは知ってる? 戦争になるかもしれないって話」
「リシア連邦とシチーナ共和国の事かい?」
「やっぱり知ってたのね。もう、私ったら情報収集を怠り過ぎよ」
「それで三国同盟を進めたと思っていたけど、違うのかい?」
「……それは本当に偶然だったの。私が嫁がなくても武器をロイツェン=バッハに輸出できる方法を考えて、三国同盟を作っただけ。ってあれ? どうして私が考えたって知ってるの?」
「クリスティーヌ様がおっしゃっていたよ、イングリッドが面白い事を始めそうだって」
「お姉様……他の人は知らないわよね?」
「もちろんさ、あの方は口が堅いからね。僕に伝えたのだって、この事を予想しての事だろう」
お姉様って本当に不思議な人。私が困ってることを先回りして手助けをしてくれる。
リチャードを紹介してくれたのだって、私を心配しての事だったし。
「それでね、今の私の状況だと、街で情報収集をするのが精いっぱいで」
「ああ、それで僕に情報を集めさせようって魂胆だね」
「お願いできる? 出来るかどうか分からないけど、戦争を回避できる糸口が欲しいの」
「そうだね……僕が長期間店を離れるのはマズイから、数名の店員をこっちに移そう。その者達から情報を集めさせれば良いかな」
「て、店員に? 今から教育するの?」
「ああ言っていなかったね。ウチの店員の中には、城からそのまま移動してきた者が沢山いるのさ。もちろん諜報活動に長けた者もいる」
知らなかった! 店が小さい頃に店員募集したらホイホイと集まるわけだわ!
でもそっか、本当に私は友人に恵まれてる。
「それじゃあお願いできる? ちょっと危ない事もあると思うけど」
「構わないだろう。逆に腕が鳴ると喜ぶはずだよ」
「ありがとう。恩に着るわ」
「恩なんて大げさだね。そう思うなら早めに終わらせて帰って来ておくれ、みんなが会いたがっている」
「がんばるわ」
ユリアと別れて数日後、部屋の窓から1枚の紙が舞い込んできた。
どこから飛んできたのかと拾ってみると、なんとリシア連邦とシチーナ共和国の情報が書かれていた。
え? もう? もう情報を集めてきて、私の所に持ってきたの???
あ、よく見るとこの書式、ロイツェン=バッハ国の物と同じだわ。
城に忍び込んで調べたのかしら……ゆ、優秀な人材が居て嬉しいわね。
そっか、顔を合わせてしまうと、スパイの素性がバレてしまう危険があるものね。それはダメ。
紙の最後には、今後の情報のやり取りの方法と、秘密の暗号の使い方が書いてある。
そして、この紙は直ぐに破棄する事、と。
う……急いで覚えなきゃ。
何とか内容を覚えきり、ローソクの火にかざして紙を燃やした。
燃え切ったところで灰を窓から外に捨てると、そのまま霧散する。
これで必要な情報が入ってくるようになった。
後は私が考える番ね。
まずは今入った情報をまとめて、対策を考えよう。
色々と考えてはみたけど、そんな簡単にいい案が浮かぶはずもなく、私は窓からボーと外を見ていた。
「簡単に思いつく事なんて、国で誰かが実行済みよね……」
黄昏ていると、何やら城の中が騒々しくなっていた。
どうしたんだろう? 何かあったのかしら。
部屋を出て騒々しい方へと向かっていくと、どうやら何かの一団が城に来ていたようだ。
何かしら、随分と豪華な馬車と、沢山の人が集まってる。
廊下の小窓から何とか外を見ているけど、ここからじゃよく見えない。
よし、外に出て確認しよう。
正門にいくと、何やら大きな声で話す声が聞えて来る。
といっても聞こえるのは1人の声だけ。声が大きな人みたいね。
もう少し近づくと馬車が良く見える場所に来た。
えーっと、馬車に紋様が刻まれているわね、あれは……あれは!?
「はーっはっは! 久しぶりだなフィリップ王太子!」
「相変わらず騒々しいなアーロン王太子。もう少ししずかに来てくれ」
イースター国とシュタット国の間にある国、セックトンの紋章だわ!
ここはアクセサリーショップ。そう、私の店の商品を卸している店だ。
「こんにちは。お久しぶりですね店長さん」
「おお! イングリッドさんではありませんか、お久しぶりです。わざわざどうされたので?」
私の服装は街で活動してもおかしくない私服だし、まだ国民には他国の姫だとは知られていない。
「ちょっと私的な旅行をしているので寄ってみたんです。それでですね、確か今週は商品の仕入れがありましたよね?」
「ええ、週末前には注文した品が届くはずです」
「その時に手紙を渡して欲しいんです。急ぎでは無いのですが、店員たちに伝え忘れた事があったので、それを手紙にしたためてきました」
「お安い御用ですとも。届けてくれた人にお渡ししたらいいのですね?」
「はい、お願いします」
しばらくお店で雑談をして、私は城へと戻ってきた。
どうやら街の中では戦争が始まるって話は広まってないみたい。
流石にすぐに開戦って訳じゃないし、商人達も行動には出ていないんだろう。
それから数日後、ユリアが商品の打ち合わせをしに城に来てくれた。
「ごめんねユリア、わざわざ国を跨いで呼んでしまって」
「構わないよ。それよりもどうしたんだい? 仕事の打ち合わせなんて、随分と熱心じゃないか」
「そんな事ないわよ? 私は真面目ですもの」
そんな会話をしながらユリアを城内へと案内する。
まずは私の部屋で話を続けよう。
「それで? どうして仕事の打ち合わせなんてデタラメを言ってまで、僕を呼んだんだい?」
「ユリアは知ってる? 戦争になるかもしれないって話」
「リシア連邦とシチーナ共和国の事かい?」
「やっぱり知ってたのね。もう、私ったら情報収集を怠り過ぎよ」
「それで三国同盟を進めたと思っていたけど、違うのかい?」
「……それは本当に偶然だったの。私が嫁がなくても武器をロイツェン=バッハに輸出できる方法を考えて、三国同盟を作っただけ。ってあれ? どうして私が考えたって知ってるの?」
「クリスティーヌ様がおっしゃっていたよ、イングリッドが面白い事を始めそうだって」
「お姉様……他の人は知らないわよね?」
「もちろんさ、あの方は口が堅いからね。僕に伝えたのだって、この事を予想しての事だろう」
お姉様って本当に不思議な人。私が困ってることを先回りして手助けをしてくれる。
リチャードを紹介してくれたのだって、私を心配しての事だったし。
「それでね、今の私の状況だと、街で情報収集をするのが精いっぱいで」
「ああ、それで僕に情報を集めさせようって魂胆だね」
「お願いできる? 出来るかどうか分からないけど、戦争を回避できる糸口が欲しいの」
「そうだね……僕が長期間店を離れるのはマズイから、数名の店員をこっちに移そう。その者達から情報を集めさせれば良いかな」
「て、店員に? 今から教育するの?」
「ああ言っていなかったね。ウチの店員の中には、城からそのまま移動してきた者が沢山いるのさ。もちろん諜報活動に長けた者もいる」
知らなかった! 店が小さい頃に店員募集したらホイホイと集まるわけだわ!
でもそっか、本当に私は友人に恵まれてる。
「それじゃあお願いできる? ちょっと危ない事もあると思うけど」
「構わないだろう。逆に腕が鳴ると喜ぶはずだよ」
「ありがとう。恩に着るわ」
「恩なんて大げさだね。そう思うなら早めに終わらせて帰って来ておくれ、みんなが会いたがっている」
「がんばるわ」
ユリアと別れて数日後、部屋の窓から1枚の紙が舞い込んできた。
どこから飛んできたのかと拾ってみると、なんとリシア連邦とシチーナ共和国の情報が書かれていた。
え? もう? もう情報を集めてきて、私の所に持ってきたの???
あ、よく見るとこの書式、ロイツェン=バッハ国の物と同じだわ。
城に忍び込んで調べたのかしら……ゆ、優秀な人材が居て嬉しいわね。
そっか、顔を合わせてしまうと、スパイの素性がバレてしまう危険があるものね。それはダメ。
紙の最後には、今後の情報のやり取りの方法と、秘密の暗号の使い方が書いてある。
そして、この紙は直ぐに破棄する事、と。
う……急いで覚えなきゃ。
何とか内容を覚えきり、ローソクの火にかざして紙を燃やした。
燃え切ったところで灰を窓から外に捨てると、そのまま霧散する。
これで必要な情報が入ってくるようになった。
後は私が考える番ね。
まずは今入った情報をまとめて、対策を考えよう。
色々と考えてはみたけど、そんな簡単にいい案が浮かぶはずもなく、私は窓からボーと外を見ていた。
「簡単に思いつく事なんて、国で誰かが実行済みよね……」
黄昏ていると、何やら城の中が騒々しくなっていた。
どうしたんだろう? 何かあったのかしら。
部屋を出て騒々しい方へと向かっていくと、どうやら何かの一団が城に来ていたようだ。
何かしら、随分と豪華な馬車と、沢山の人が集まってる。
廊下の小窓から何とか外を見ているけど、ここからじゃよく見えない。
よし、外に出て確認しよう。
正門にいくと、何やら大きな声で話す声が聞えて来る。
といっても聞こえるのは1人の声だけ。声が大きな人みたいね。
もう少し近づくと馬車が良く見える場所に来た。
えーっと、馬車に紋様が刻まれているわね、あれは……あれは!?
「はーっはっは! 久しぶりだなフィリップ王太子!」
「相変わらず騒々しいなアーロン王太子。もう少ししずかに来てくれ」
イースター国とシュタット国の間にある国、セックトンの紋章だわ!
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