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18 やり残した事
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「こんばんは、ユリアいる?」
私は家を出た後、少しだけやり残したことをするために友人の家を訪ねた。
手紙は渡してもらったけど、手紙では書ききれなかったことが沢山ある。
「やぁイングリッド。こんな時間にどうしたんだい?」
「あなたに挨拶をしていなかったから。それにお店の事でちょっとね」
ユリアは城に居た時は私付きのメイド、城を飛び出した時に一緒について来てくれて、今では友人として接している。
正直ユリアには頭が上がらない。
ユリアの家に入ると、テーブルの上には細工道具がたくさん置いてあった。
きっと仕事をしていたんだろう。
「ユリア? 私が言うのも何だけど、家ではしっかり休んでよ」
「何を言っているんだ、コレは僕の趣味みたいなものだからね、自由にさせてもらうよ」
まぁ……確かに城に居る時から物を作るのが好きだったけど。
「まあいいけど。それよりも、アントンさんが店でお金を取ろうとした事、本当にごめんなさい」
「……へぇ、区切りでもついたのかい? イングリッドがあの旦那の事を名前で呼ぶなんて、良い報告でも聞けたらいいんだけど」
「うん、ユリアにも心配をかけたもんね。ついさっき別れてきたわ」
「はっはっは。そうかい、やっとか。それなら店のお金のことは気にする事は無いさ、もっと嬉しい報告が聞けたからね、それでチャラだ」
「ユリアってば昔から私に甘すぎない?」
「そんな事は無いさ。甘ければいまだにお姫様扱いをするさ」
「それもそうか。ああ、それと、お店の新商品なんだけどね?」
「気にしなくても、順調に進んでいるよ」
「そうじゃないの、新しい案が浮かんだから、それを伝えようと思って」
「……よくその口で家では休め、なんて言えたものだね」
「う……ま、まあそれは置いといて」
そう言って新商品の案をいくつも出してメモを渡した。
色々な事があったけど、何故か不意に案が浮かぶものだから、それを覚えておいた。
話をしながら書きだして、気が付くと20個近い案が出て行った。
「……キミ、家では休んでいるのかい?」
「休んで……るわよ?」
「まあいいさ。お陰で暫らくは困る事が無いからね。それで? いつぐらいにそっちはケリがつきそうなんだい?」
「分からないの。本当は半年ほどで戻ってくる予定だったけど、多分1年から2年はかかると思う」
「そうか。じゃあ今日は久しぶりに2人で夜を明かすとしよう」
「そうね、昔はよく2人で話をしてたわね」
そうして夜は更けて、ゆっくりと朝を迎える事が出来た。
シュタット国に着いたのは数日後。
お姉様が居るはずだから、私が居なくても誰も心配はしていないと思う。
けど、流石に色々な人に謝りに行かないといけない。
「ああ聞いたよ。謝る必要は無い、むしろこちらにとっては嬉しい事だからね」
と、みんながこんな事を言ってくれた。
それはそうよね、一応は結婚していたんだし、どれだけ王族が婚姻話を進めても、相手と別れさせる手間がかかる。
その手間が省けた上に、後腐れなく話を進める事が出来るんだから。
一応は一区切りがついたけど、それでも譲れない信念は残ってる。
『命令されての結婚なんてイヤ!!!』
こればっかりは譲れない。
だから今回のフィリップ王太子との話は、全力で阻止するわ。
その為に必死に考えたんだもの、何としても成功させたい。
「イングリッド、いるかしら」
「はい、何かしらお姉様」
部屋で最終的な案を詰めていると、お姉様が部屋を訪れた。
お姉様はいつも笑顔だし、時々何を考えているのか分からない時がある。
「私はそろそろ戻るわ。あなたも辛いと思うけど。あまり無理はしないようにね」
「大丈夫よお姉様。いま私、とってもやる気が出ているの。お姉様、私はずっと盲目的だったけど、やっぱり譲れないものがあるの。その為の努力は惜しまないつもり」
「あなたはいつもそうよね。でも今度は間違えないと思うし、それについては応援するわ。できれば、リチャードを選んでもらえると、私は嬉しいのだけど?」
ああ、お姉様はもう分かってる。ほんと、かなわない。
「それは今後のリチャード次第ね。でも一番近いのはリチャードだと思うわ」
「ふふふ、リチャードが聞いたら喜ぶわね」
そうしてお姉様は国へと戻っていった。
さて、私はコレを完成させましょう!
翌日になり、完成した作戦を実行すべくリチャードとフィリップ王太子を部屋に呼んだ。
2人はきっと結婚の話をすると思っているだろう。
でも……違うの。
「リチャード、フィリップ王太子、わざわざ呼びつけて申し訳ありません」
「いや構いませよ。それよりもイングリッドさん、あなたが国に戻った直後の呼び出しですが、期待してよろしいですか?」
「ある意味では、ご期待に添えると思います」
そう、ある意味では、だけど。
「随分と含んだ言い方だけど、別の意味では期待に沿えないのかい?」
「どう思うかは任せるわ。コレを見て欲しいの」
私は作った資料を取り出して2人に渡す。
50ページほどの資料だけど、それを2人が読んでいくと……手が震えている。
ど、どっちの震えかしら。
「イングリッド……本当にこんな事が可能なのかい?」
「そう考えているわ」
「イングリッドさん、これが事実ならば、我が国としては是非お願いしたい」
「お二人とも、この案には賛成という事でよろしいですね?」
「もちろん!」
「ああ!」
「それではこれより、【三国同盟】の締結に向けて行動を開始します」
私は家を出た後、少しだけやり残したことをするために友人の家を訪ねた。
手紙は渡してもらったけど、手紙では書ききれなかったことが沢山ある。
「やぁイングリッド。こんな時間にどうしたんだい?」
「あなたに挨拶をしていなかったから。それにお店の事でちょっとね」
ユリアは城に居た時は私付きのメイド、城を飛び出した時に一緒について来てくれて、今では友人として接している。
正直ユリアには頭が上がらない。
ユリアの家に入ると、テーブルの上には細工道具がたくさん置いてあった。
きっと仕事をしていたんだろう。
「ユリア? 私が言うのも何だけど、家ではしっかり休んでよ」
「何を言っているんだ、コレは僕の趣味みたいなものだからね、自由にさせてもらうよ」
まぁ……確かに城に居る時から物を作るのが好きだったけど。
「まあいいけど。それよりも、アントンさんが店でお金を取ろうとした事、本当にごめんなさい」
「……へぇ、区切りでもついたのかい? イングリッドがあの旦那の事を名前で呼ぶなんて、良い報告でも聞けたらいいんだけど」
「うん、ユリアにも心配をかけたもんね。ついさっき別れてきたわ」
「はっはっは。そうかい、やっとか。それなら店のお金のことは気にする事は無いさ、もっと嬉しい報告が聞けたからね、それでチャラだ」
「ユリアってば昔から私に甘すぎない?」
「そんな事は無いさ。甘ければいまだにお姫様扱いをするさ」
「それもそうか。ああ、それと、お店の新商品なんだけどね?」
「気にしなくても、順調に進んでいるよ」
「そうじゃないの、新しい案が浮かんだから、それを伝えようと思って」
「……よくその口で家では休め、なんて言えたものだね」
「う……ま、まあそれは置いといて」
そう言って新商品の案をいくつも出してメモを渡した。
色々な事があったけど、何故か不意に案が浮かぶものだから、それを覚えておいた。
話をしながら書きだして、気が付くと20個近い案が出て行った。
「……キミ、家では休んでいるのかい?」
「休んで……るわよ?」
「まあいいさ。お陰で暫らくは困る事が無いからね。それで? いつぐらいにそっちはケリがつきそうなんだい?」
「分からないの。本当は半年ほどで戻ってくる予定だったけど、多分1年から2年はかかると思う」
「そうか。じゃあ今日は久しぶりに2人で夜を明かすとしよう」
「そうね、昔はよく2人で話をしてたわね」
そうして夜は更けて、ゆっくりと朝を迎える事が出来た。
シュタット国に着いたのは数日後。
お姉様が居るはずだから、私が居なくても誰も心配はしていないと思う。
けど、流石に色々な人に謝りに行かないといけない。
「ああ聞いたよ。謝る必要は無い、むしろこちらにとっては嬉しい事だからね」
と、みんながこんな事を言ってくれた。
それはそうよね、一応は結婚していたんだし、どれだけ王族が婚姻話を進めても、相手と別れさせる手間がかかる。
その手間が省けた上に、後腐れなく話を進める事が出来るんだから。
一応は一区切りがついたけど、それでも譲れない信念は残ってる。
『命令されての結婚なんてイヤ!!!』
こればっかりは譲れない。
だから今回のフィリップ王太子との話は、全力で阻止するわ。
その為に必死に考えたんだもの、何としても成功させたい。
「イングリッド、いるかしら」
「はい、何かしらお姉様」
部屋で最終的な案を詰めていると、お姉様が部屋を訪れた。
お姉様はいつも笑顔だし、時々何を考えているのか分からない時がある。
「私はそろそろ戻るわ。あなたも辛いと思うけど。あまり無理はしないようにね」
「大丈夫よお姉様。いま私、とってもやる気が出ているの。お姉様、私はずっと盲目的だったけど、やっぱり譲れないものがあるの。その為の努力は惜しまないつもり」
「あなたはいつもそうよね。でも今度は間違えないと思うし、それについては応援するわ。できれば、リチャードを選んでもらえると、私は嬉しいのだけど?」
ああ、お姉様はもう分かってる。ほんと、かなわない。
「それは今後のリチャード次第ね。でも一番近いのはリチャードだと思うわ」
「ふふふ、リチャードが聞いたら喜ぶわね」
そうしてお姉様は国へと戻っていった。
さて、私はコレを完成させましょう!
翌日になり、完成した作戦を実行すべくリチャードとフィリップ王太子を部屋に呼んだ。
2人はきっと結婚の話をすると思っているだろう。
でも……違うの。
「リチャード、フィリップ王太子、わざわざ呼びつけて申し訳ありません」
「いや構いませよ。それよりもイングリッドさん、あなたが国に戻った直後の呼び出しですが、期待してよろしいですか?」
「ある意味では、ご期待に添えると思います」
そう、ある意味では、だけど。
「随分と含んだ言い方だけど、別の意味では期待に沿えないのかい?」
「どう思うかは任せるわ。コレを見て欲しいの」
私は作った資料を取り出して2人に渡す。
50ページほどの資料だけど、それを2人が読んでいくと……手が震えている。
ど、どっちの震えかしら。
「イングリッド……本当にこんな事が可能なのかい?」
「そう考えているわ」
「イングリッドさん、これが事実ならば、我が国としては是非お願いしたい」
「お二人とも、この案には賛成という事でよろしいですね?」
「もちろん!」
「ああ!」
「それではこれより、【三国同盟】の締結に向けて行動を開始します」
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