不倫ばかりする夫にもう一度振り向いてもらおうとして、自分磨きを頑張ったら王太子が振り向きました

如月ぐるぐる

文字の大きさ
上 下
10 / 28

10 馴れ初め

しおりを挟む
『イングリッド第二王女。王族としての役目を果たすのだ』

 お父様、陛下からの手紙にはそれだけが書かれていた。
 王族としての役目……それは小さなころから言われていた事だ。
 でも私はそれが嫌で城を抜け出し、旦那様の家に転がり込んだのだ。

 でもこれは命令。断る事は出来ない。

「お父様は手紙について何かおっしゃっていましたか?」

「いいえ。我々はだた、イングリッド様へお届けするように命令されただけです」
 
 そうよね、兵士に言う必要なんて無いわ。
 だって、確認するまでもなく命令ですもの。
 第二王女の役目……昔旦那様を見つけてからかたくなに拒否し、家出までした役目。

 他国の王族・有力貴族との結婚だ。

 特に今は隣国に、小国ではあるけど軍事力に優れた国がある。
 そこの兵を倒すには、倍の数が必要とさえ言われている。

 この国は小国では無いけど大国でもない。
 大国に攻められればひとたまりもないだろう。
 だから軍事力の強化は急務であり、小国で経済的にも裕福ではない国は、我が国にとって理想ともいえる相手だ。

 リチャードの国イースターは技術力はあるけれど、軍事よりも市民の生活に役立つものが多い。
 私はその方が好きだけど。

 どちらにせよ、国王陛下直々の手紙が来た以上、逃げも隠れも出来ない。

「分かりました。明日の朝、城へ向かいます」

「かしこまりました。それでは迎えを寄越しますので、その時に」

 兵士は敬礼をして帰って行った。

「お、おいイングリッド? なんだ今の話は。陛下からの手紙って? 父上ってどういう事だ?」

 旦那様がうろたえている。
 私は旦那様に正体を言っていない。
 出会った時から一貫して、身寄りのない町娘として説明してきたから。

「ごめんなさいアナタ。明日から暫く家を空けます。詳しい説明は……明日の朝に」

 それだけ伝えて、私はベッドに横になった。



 朝早くに目を覚ます。
 旦那様はまだ寝ている。
 今のうちに準備を済ませなきゃ。

 

「おはようイングリッド……イングリッド!?」

 旦那様が起きてきた。
 寝室の扉を開けた旦那様は、目をまん丸にして驚いている。
 その理由は私にある。

 むかし城で来ていたドレスを着ているからだ。
 白地に赤いラインが入り、何重にも重ねられたフリルのスカート、宝石が散りばめられたティアラ。
 どこから見てもお姫様の格好をしている。

「おはようアナタ。食事にしますか?」

「い、いやいい。それよりも説明をしてくれ」

 旦那様がイスに座ると、お茶だけ渡して説明を始めた。

「私の名はイングリッド・フォン・シュタイン。シュタイン王家の第5子、第二王女です」

 姫とはいえ5番目で次女。国政とはあまり関わる事は無く、もちろん王位継承争いなんて全くの無縁だった。
 そんな私は小さな頃から町で遊び回り、姫としてよりも町娘としての生活の方が楽しかった。

 そして数年前。
 町で見かけた旦那様に一目惚れし、陛下と喧嘩をして城を出た。
 もしも旦那様を見かけなければ、私は素直に他国の王子と結婚していただろう。

「え? じゃあ仕事って言ってたのも城関係なのか?」

「いいえ。お仕事は本当に自分で始めました。あそこまで大きくなるとは思わなかったけど」

「でも城に居たら楽しい事が沢山あるんじゃないのか? それこそ俺よりも良い男なんて山の様にいるだろ」

 私は首を横に振る。

「とんでもない。城での生活は堅苦しくて嫌だったし、紹介される男性はみんな私自身ではなく『王女だから』、という理由で近づいて来るだけでした」

 どうやら旦那様には理解できない様だ。
 それも理解できる。
 私だって町で遊んでいなければ、町民の生活なんて想像も出来なかっただろうから。

「でも、俺には何もない、ただの木こりだぞ?」

「アナタは覚えているかしら。森でこっそりアナタの後を付けて行って、迷子になってしまった女の子の事を」

「それは……お前と初めて会った時の事か?」

「ええ。アナタは私が付いて来ている事を知っていて、気が付いたら居なくなっていたから慌てて探しに来てくれたわ。そして泣きじゃくる私を大きな手で撫でてくれてこう言いました『離れていたらまた迷子になってしまうから、今度からは俺と一緒に歩こう』って。そして次の日は、わざわざ私が来るのを待ってくれて、一緒に森の中に入って木を伐るのを見学していました。王女としてではなく、私自身を見てくれたのは、家族以外ではアナタが初めてだったの。そんなアタナだから、私は家族を捨てる決意が出来ました」

 そう、あの時は全てを捨てても旦那様と一緒に居る事を選んだ。
 でも私は仕事にかまけてしまい、旦那様を失望させてしまった。

 何という不義を働いてしまったんだろう。

「だけど遂にお父様……国王陛下が私を呼び出しました。今までは他国の動きも落ち着いていましたが、最近は物々しくなってきたから、私を他国の王子と婚姻させる気でしょう。もし今断ってしまうと強硬手段に出て、アナタにも迷惑をかけてしまいます。でも……でも何とかして戻ってきます!なので暫らく待っていてくれませんか?」

 軍事力を上げたいのなら他の手段で上げればいい、私は何としてもこの場所に帰って来たい。

 ドアがノックされた。迎えが来たみたいだ。

「それではアナタ、しばらくのお別れです」

 私は王家の馬車に乗り込んだ。
 旦那様は……イスに座ったまま動かない。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

もう愛されてはいないのですね。

うみか
恋愛
夫は私を裏切り三人の女性と不倫をした。 侍女からそれを告げられた私は……

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

最後の思い出に、魅了魔法をかけました

ツルカ
恋愛
幼い時からの婚約者が、聖女と婚約を結びなおすことが内定してしまった。 愛も恋もなく政略的な結びつきしかない婚約だったけれど、婚約解消の手続きの前、ほんの短い時間に、クレアは拙い恋心を叶えたいと願ってしまう。 氷の王子と呼ばれる彼から、一度でいいから、燃えるような眼差しで見つめられてみたいと。 「魅了魔法をかけました」 「……は?」 「十分ほどで解けます」 「短すぎるだろう」

処理中です...