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9 安らぎを覚え

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 朝が来た。
 朝は気持ちがいい。朝は希望に満ち溢れている。
 今日もいい一日になりそうだわ。

 隣で寝ている旦那様を起こさないように静かにベッドを降り、服を着替えて朝食の準備を始めた。
 はな歌まじりで朝食を作り終えたけど、旦那様はまだ起きて来ない。
 私は仕事に出かけないといけないから、一緒に食事をしたかったんだけど……。

 声をかけてみようかしら。

「アナタ、アナタ朝食が出来ましたよ。食べないと冷めてしまいますよ?」

「ん……ん~……うるさい、後で食う」

「もう。私は仕事がありますから、食べたら流しに置いておいてくださいね」

 そう言って寝室を出て、1人で朝食をいただいた。



「おはようみんな」

「おはようございます店長!」

「おはようございますイングリッドさん!」

 みんなは今日も元気だわ。
 やっぱり元気がないと、いい仕事はできないものね!
 今日も一日頑張るわよ!

 デザインや色合いをみんなで相談していると、みんな次々に新しいアイディアを口にする。
 すごいわねみんな! これならお客さんも喜んでくれるわ。

 会議が終わり、店内の様子を見に行く。
 お客さんがたくさん来てくれてる。客層は若い女の子が多いけど、家族で来てる人もいる。
 奥さんへのプレゼントかしら。

 ふと、1人だけ浮いてる人が目に入った。
 あ、あれは!?

「こんにちは、リチャードさん」

「わ。こ、こんにちはイングリッドさん」

 後ろから声をかけたから、少し驚かせちゃったみたい。
 ん? 手に持っているのは金属製の髪飾りだわ。
 誰かへの贈り物かしら。

「最近よくお会いしますね」

「そうですね。私はほぼこちらの国に滞在していますし、お茶会では毎回お会いしていますからね」

「毎回姉が呼び立ててしまってすみません。持ってきていただけるお菓子がお気に入りみたいで」

「ははは、アレは我が国でも人気のお菓子ですからね。ご要望とあれば毎回お持ちしますよ」

 しばらくリチャードさんと話をしていたけど、何かしら、落ち着く感じがする。
 旦那さんとは違って、安らぐというか安心するというか。
 なんだか変な感じだわ。

 お茶会では毎回会うし、お店でも時々会う。
 たまにだけど家に来たりする。
 あれ以来旦那様とリチャードさんが会う事は無いけど、夕食に誘っても来てくれなかった。

 ……あら? なんだか私、少し寂しがってない?
 
 


 そろそろ季節が変わり、冬の装いを見せ始めた頃、冬用品をまとめ買いしていっぱいの荷物を運んでいると、ヒョイっと体が軽くなった。

「こんにちわイングリッド。そんなに沢山荷物を持ってたら大変でしょう? お手伝いしますよ」

「リチャード。ありがとう、助かるわ」

 半分以上をリチャードが持ってくれた。
 最近は2人でお茶をする事も増えて、随分と仲が良くなった気がする。

「イングリッドは見かけによらず力持ちだね。僕が持っても重いよ?」

「あら、主婦は力仕事なのよ?」

 とは言え重かったから凄く助かる。
 他愛のない話をしながら家に到着すると、リチャードは直ぐに帰ろうとした。

「待ってリチャード。せめてお茶くらい出させてよ」

「そう? じゃあお言葉に甘えるよ」

 今日買ってきた中に、良い茶葉があるからそれを出して、お菓子も良いのがあったわよね。
 あ、リチャードったら大人しく座ってればいいのに、薪ストーブの世話を始めたわ。

「ありがとう。なんだか家の事に詳しくなっちゃったわね」

「勝手知ったる他人の家、だね」

 のんびりとした午後を過ごしていると、ドアがノックされた。
 あら、誰かしら。

「はい、どちら様でしょうか?」 

 ドアを開けると、そこには鎧を着こんだ兵士が数名立っていた。

「こちらはイングリッド様のご自宅で間違いないでしょうか」

「え? ええ私がイングリッドですが」

「それではこちらをどうぞ。陛下よりお手紙を預かっております」

 お父様から? 今まで放っておいてくれたのに、今さら何だって言うのかしら。
 手紙を開けるとそこには短い文章が書かれていた。

『イングリッド第二王女。王族としての役目を果たすのだ』
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