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7 2人のタオル
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「おはようございますクリスティーヌ、い、イングリッドさん」
そこにはリチャード王太子が立っていた。
お姉様のお茶会に来たら、昨日会ったばかりの隣国のリチャード王太子がいた。
会いに来てもいいとは言ったけど、まさか昨日の今日で会いに来るとは思わなかったわ。
「あらあら、イングリッド驚いているの? 偶然ね、私も驚いているわ」
あの沈着冷静なお姉様が驚くなんて、やっぱりリチャード王太子の行動力? は驚くしかない。
それにしても、お姉様に対しては普通に接する事が出来るのね。
古くからの友人というのも本当みたい。
「でも今は驚く会ではないから、お茶の準備をしましょうか」
「そ、そうね」
知り合い数名が、お気に入りのお菓子を持ち寄るこじんまりとしたお茶会。
だから準備も自分たちでするんだけど、驚いた事にリチャード王太子、すごく手慣れてる。
メイドがするような事を王太子がするって、すごく不思議な感じ。
思ったよりも準備がはやく終わり、早速お茶会が開始された。
「それでイングリッド? リチャードの求婚は受けたの?」
「ごほっ! お、お姉様? いきなりなんですか」
いきなり本題を聞いてきた。思いっきりストレートねお姉様。
「い、イングリッドさんどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
リチャード王太子がタオルを渡してくれた。
紅茶が口の周りにはじいちゃってたわ。
口を拭いて、一度深呼吸をしてから口を開く。
「お姉様、私には旦那様がいるのよ? リチャード王太子にも陛下にもお伝えしたけど、旦那様を裏切るようなことはできません」
「あら、その旦那様はあなたを裏切っているわよ?」
「それは私がいけないんです。仕事にかまけて家事をおろそかにしたんだもの、旦那様にも寂しい思いをさせてしまったわ。だからこれは自業自得なの」
そう。だからきっと旦那様は、他の女性と遊び終わったら家に居てくれるようになる。
以前と同じように、2人で楽しく暮らせるようになるはずだわ。
「自業自得にしては、限度を超えているように感じるけど」
「世間では倍返しという物があるそうですから、私のやったことは倍になって返ってくるんです」
「そもそも、あなたの不手際ってなんなの?」
「それはもちろん仕事に一生懸命になり過ぎて、家事がおろそかになった事よ?」
「でも家計には余裕が出来たのよね? それに家事はしていたんでしょう?」
「旦那様が帰ってくる前には家に戻り、疲れた旦那様をねぎらうためにお湯とタオルを用意して、マッサージをして差し上げて、夕食後は旦那様より先には寝ちゃいけないの。でも出来なかったんだもの」
「イングリッド? あなたは元王族だから、夫婦の理想を物語に求めすぎているのよ? それにあなたの言ってることは夫婦ではなくメイドの――」
「い、イングリッドさん! 私の知る一般的な夫婦は、一方的に妻が夫に仕えるのではなく、互いに支え合うものです! 妻が忙しいのなら、夫はそれを助けるものです」
「……」
「ねぇイングリッド? 少しだけ、もう少しだけ周りの話を聞いてほしいの。あなたは家出同然に家を出たから、それを否定されたくなくて、意固地になっていない?」
「……」
「イングリッドさん、一方的な押し付けは夫婦ではありません。奴隷で――」
「うるさい! どうしてみんなイジワルを言うの!? どうして誰も応援してくれないの!? 旦那様は優しい人だったの! 私がいけないんだから仕方が無いのよ!」
みんな、みんなどうして旦那様を悪く言うの!? 今の旦那様の浮気は私の責任なの!
だから旦那様は悪くない!
お城から飛び出して、走って家に戻ってきた。
家に入ると、旦那様がイスに座ってお茶を飲んでいた。
「あ、ただいま戻りました」
「お茶のお替りと、何か食うものは無いか」
「はいただいま。食べるものはお菓子でもいいですか?」
「なんでもいい」
私は火を起こしてお湯を沸かし、お菓子を皿に並べていく。
茶葉を茶こしで入れていると、お湯が弾いて手にかかってしまった。
「あつっ!」
いけないいけない、タオル、タオルっと。
「ん」
旦那様がタオルを差し出してくれた。
「ありがとうアナタ」
すっと手を伸ばすとタオルは無かった。
あれ? どこかでタオルを渡されたような気が……。
そのまま旦那様の手を握ると、パンっと叩かれた。
「金だ、金。出かけてくる」
「え? ああゴメンさない。今日はいつごろ戻りますか?」
お金を渡すと、何も言わずに出て行ってしまった。
私はお湯がかかった手を水につけながら、どこでタオルを渡されたのかを思い出していた。
そこにはリチャード王太子が立っていた。
お姉様のお茶会に来たら、昨日会ったばかりの隣国のリチャード王太子がいた。
会いに来てもいいとは言ったけど、まさか昨日の今日で会いに来るとは思わなかったわ。
「あらあら、イングリッド驚いているの? 偶然ね、私も驚いているわ」
あの沈着冷静なお姉様が驚くなんて、やっぱりリチャード王太子の行動力? は驚くしかない。
それにしても、お姉様に対しては普通に接する事が出来るのね。
古くからの友人というのも本当みたい。
「でも今は驚く会ではないから、お茶の準備をしましょうか」
「そ、そうね」
知り合い数名が、お気に入りのお菓子を持ち寄るこじんまりとしたお茶会。
だから準備も自分たちでするんだけど、驚いた事にリチャード王太子、すごく手慣れてる。
メイドがするような事を王太子がするって、すごく不思議な感じ。
思ったよりも準備がはやく終わり、早速お茶会が開始された。
「それでイングリッド? リチャードの求婚は受けたの?」
「ごほっ! お、お姉様? いきなりなんですか」
いきなり本題を聞いてきた。思いっきりストレートねお姉様。
「い、イングリッドさんどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
リチャード王太子がタオルを渡してくれた。
紅茶が口の周りにはじいちゃってたわ。
口を拭いて、一度深呼吸をしてから口を開く。
「お姉様、私には旦那様がいるのよ? リチャード王太子にも陛下にもお伝えしたけど、旦那様を裏切るようなことはできません」
「あら、その旦那様はあなたを裏切っているわよ?」
「それは私がいけないんです。仕事にかまけて家事をおろそかにしたんだもの、旦那様にも寂しい思いをさせてしまったわ。だからこれは自業自得なの」
そう。だからきっと旦那様は、他の女性と遊び終わったら家に居てくれるようになる。
以前と同じように、2人で楽しく暮らせるようになるはずだわ。
「自業自得にしては、限度を超えているように感じるけど」
「世間では倍返しという物があるそうですから、私のやったことは倍になって返ってくるんです」
「そもそも、あなたの不手際ってなんなの?」
「それはもちろん仕事に一生懸命になり過ぎて、家事がおろそかになった事よ?」
「でも家計には余裕が出来たのよね? それに家事はしていたんでしょう?」
「旦那様が帰ってくる前には家に戻り、疲れた旦那様をねぎらうためにお湯とタオルを用意して、マッサージをして差し上げて、夕食後は旦那様より先には寝ちゃいけないの。でも出来なかったんだもの」
「イングリッド? あなたは元王族だから、夫婦の理想を物語に求めすぎているのよ? それにあなたの言ってることは夫婦ではなくメイドの――」
「い、イングリッドさん! 私の知る一般的な夫婦は、一方的に妻が夫に仕えるのではなく、互いに支え合うものです! 妻が忙しいのなら、夫はそれを助けるものです」
「……」
「ねぇイングリッド? 少しだけ、もう少しだけ周りの話を聞いてほしいの。あなたは家出同然に家を出たから、それを否定されたくなくて、意固地になっていない?」
「……」
「イングリッドさん、一方的な押し付けは夫婦ではありません。奴隷で――」
「うるさい! どうしてみんなイジワルを言うの!? どうして誰も応援してくれないの!? 旦那様は優しい人だったの! 私がいけないんだから仕方が無いのよ!」
みんな、みんなどうして旦那様を悪く言うの!? 今の旦那様の浮気は私の責任なの!
だから旦那様は悪くない!
お城から飛び出して、走って家に戻ってきた。
家に入ると、旦那様がイスに座ってお茶を飲んでいた。
「あ、ただいま戻りました」
「お茶のお替りと、何か食うものは無いか」
「はいただいま。食べるものはお菓子でもいいですか?」
「なんでもいい」
私は火を起こしてお湯を沸かし、お菓子を皿に並べていく。
茶葉を茶こしで入れていると、お湯が弾いて手にかかってしまった。
「あつっ!」
いけないいけない、タオル、タオルっと。
「ん」
旦那様がタオルを差し出してくれた。
「ありがとうアナタ」
すっと手を伸ばすとタオルは無かった。
あれ? どこかでタオルを渡されたような気が……。
そのまま旦那様の手を握ると、パンっと叩かれた。
「金だ、金。出かけてくる」
「え? ああゴメンさない。今日はいつごろ戻りますか?」
お金を渡すと、何も言わずに出て行ってしまった。
私はお湯がかかった手を水につけながら、どこでタオルを渡されたのかを思い出していた。
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