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6 女性恐怖症
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「お久しぶりですリチャード王太子。以前お会いした時は王太子とは知らず、失礼なことをしませんでしたでしょうか」
「だっ! 大丈夫です! わ、私俺僕は何も不快な事はございませんでした!」
どうしてこんなに緊張しているのかしら。
王太子なんだからもっと偉そうにして、命令したりしてもいいのに。
もちろん結婚しろ! って言われたら断るけど。
「失礼が無かったようで安心しました。それでリチャード王太子、本日私はお手紙のお返事を――」
「おお! 2人とも月がキレイだぞ! さぁさぁバルコニーで見てくるといい!」
王様が私達の背中を押して、バルコニーに連れ出した。
あら? 王妃様もいらっしゃるわね。
バルコニーには丸いテーブルとイスが置かれていて、何故かイスを進められて座っている。
右隣にはリチャード王太子、左には王妃様、正面には王様が座っている。
ど、どういう状況なのかしら。
どうして王族がそこまで私にかまってくるの?
「うぉっほん。えーあー、イングリッド君、リチャードはね、昔女性に襲われそうになった事があるんだ」
ちょっとまって、そんな事言われても返事なんか出来ないわよ!
ここは静観を決め込みましょう。
「襲われたといっても国内の貴族の令嬢でね、どうやら年下の男が好みだったらしく、少年だったリチャードは誰にも言えず、暫くはふさぎ込んでいたんだ」
聞いた事があるわ。少年が好きっていう性癖。
少女が好きって人もいるって噂だから、それと同じかしら。
それにしても小さい頃にそんな目にあったら、女性不信どころか人間不信になってしまいそうだわ。
リチャード王太子は大丈夫だったのかしら。
「それが最近になってやっと女性恐怖症が収まってね、親族や近い友人なら話が出来るようになったんだ」
最近になってからなのね。じゃあ心の傷はかなり深かったのね……おかわいそうに。
ん? でもお姉様とは仲が良いのよね? しかも昔からの友人だって執事さんが言ってたわ。
そんなに近い友人だったのかしら。
「リハビリを兼ねてクリスティーヌ君のパーティーに出席させたんだが、何故か興奮して戻ってきてね。てっきり再発したのかと思ったら、とある女性に夢中であることが判明したんだよ」
「それがあなたよ、イングリッド」
王様と王妃様で私を口説いてるように聞こえるけど……今の私はいち市民。昔ならいざ知らず、王太子と結婚する資格なんてありはしないわ。
それに私は結婚している。旦那様を裏切る事は出来ない。
「聞けばイングリッド君の夫は働きもせず、毎日遊び歩いているそうじゃないか。しかも君が働いて稼いだ金で。そんな男と君がいつまでも夫婦である必要は――」
「父上。今はその事は言う必要はありません」
「ん? んん、そうだな」
「イングリッドさん、ぼっ! 僕は! 僕はあなたを見た時に、クリスティーヌさんと話しているあなたを見た時に、とても幸せそうな笑顔に、ひ、惹かれました」
笑顔に? 笑顔なんて旦那様と居る時はいつも……いつも……あれ? 旦那様と居て笑ったのっていつだったかしら。
出会ってからは毎日笑顔で、結婚しても笑顔で……そうだわ、私が家事をおろそかにして、仕事に夢中になった時、あの時期から旦那様は遊び歩くことが多くなった。
それ以降は……笑っていないかもしれない。
でもそれは私がいけないんだから、私が旦那様に許してもらわない限り、心から笑うなんて出来ないと思う。
「しかしリチャード王太子、私は結婚しています。なので王太子の申し入れをお受けする事は出来ません」
「今はそれでもかま、構いません。私はあなたの笑顔を見たいのです。なので時々でいいので、私と会っていただけませんか?」
会うだけ? 会うだけなら構わないと思うけど……構わないわよね?
「会うだけなら構いませんが、そうそう簡単にイースター国へは来れませんよ?」
「ありがとう。私が会いに行くから、心配しなくてもいいよ」
会いに行く? 王太子ってそんな簡単に国を行き来してもいいモノかしら。
ああ、何か理由を付けて動く事くらい出来るわね。
それに毎日って事でもないし、月に1回くらい問題ないと思う。
「分かりました。それでは時々お会いしましょう」
何とか晩餐会も終わり、翌日の朝食を王族に混じって頂き、無事に国に戻ってきた。
到着したのは夕方だけど、旦那様は不自由していなかったかしら。
「ただいまアナタ。戻ってきました」
家に入った私は家に変わりがない事を確認しようと……あら? 旦那さまったら……食事が要らないなら要らないって言ってくれないと、食材が無駄になってしまうわ。
出かける前に作った食事がそのまま残っていた。
流石にもう食べられないから、全部捨てた。
お金だけが無くなっていた。
その日の晩も、旦那様は戻ってこなかった。
翌日の朝、お姉様が家を訪れてきた。珍しいわね、お姉様がウチに来るなんて。
「おはようイングリッド。今日は時間あるかしら」
「おはようお姉様。今日は特に予定はないから大丈夫よ。何かあったの?」
「ええ、ちょっとお茶会をしようと思って誘いに来たの」
旦那様も戻ってこないし、昨日は心が疲れたからお姉様に癒してもらおう。
お城に入って庭でお茶をしていると、客人が訪れてきた。
「おはようございますクリスティーヌ、い、イングリッドさん」
そこにはリチャード王太子が立っていた。
「だっ! 大丈夫です! わ、私俺僕は何も不快な事はございませんでした!」
どうしてこんなに緊張しているのかしら。
王太子なんだからもっと偉そうにして、命令したりしてもいいのに。
もちろん結婚しろ! って言われたら断るけど。
「失礼が無かったようで安心しました。それでリチャード王太子、本日私はお手紙のお返事を――」
「おお! 2人とも月がキレイだぞ! さぁさぁバルコニーで見てくるといい!」
王様が私達の背中を押して、バルコニーに連れ出した。
あら? 王妃様もいらっしゃるわね。
バルコニーには丸いテーブルとイスが置かれていて、何故かイスを進められて座っている。
右隣にはリチャード王太子、左には王妃様、正面には王様が座っている。
ど、どういう状況なのかしら。
どうして王族がそこまで私にかまってくるの?
「うぉっほん。えーあー、イングリッド君、リチャードはね、昔女性に襲われそうになった事があるんだ」
ちょっとまって、そんな事言われても返事なんか出来ないわよ!
ここは静観を決め込みましょう。
「襲われたといっても国内の貴族の令嬢でね、どうやら年下の男が好みだったらしく、少年だったリチャードは誰にも言えず、暫くはふさぎ込んでいたんだ」
聞いた事があるわ。少年が好きっていう性癖。
少女が好きって人もいるって噂だから、それと同じかしら。
それにしても小さい頃にそんな目にあったら、女性不信どころか人間不信になってしまいそうだわ。
リチャード王太子は大丈夫だったのかしら。
「それが最近になってやっと女性恐怖症が収まってね、親族や近い友人なら話が出来るようになったんだ」
最近になってからなのね。じゃあ心の傷はかなり深かったのね……おかわいそうに。
ん? でもお姉様とは仲が良いのよね? しかも昔からの友人だって執事さんが言ってたわ。
そんなに近い友人だったのかしら。
「リハビリを兼ねてクリスティーヌ君のパーティーに出席させたんだが、何故か興奮して戻ってきてね。てっきり再発したのかと思ったら、とある女性に夢中であることが判明したんだよ」
「それがあなたよ、イングリッド」
王様と王妃様で私を口説いてるように聞こえるけど……今の私はいち市民。昔ならいざ知らず、王太子と結婚する資格なんてありはしないわ。
それに私は結婚している。旦那様を裏切る事は出来ない。
「聞けばイングリッド君の夫は働きもせず、毎日遊び歩いているそうじゃないか。しかも君が働いて稼いだ金で。そんな男と君がいつまでも夫婦である必要は――」
「父上。今はその事は言う必要はありません」
「ん? んん、そうだな」
「イングリッドさん、ぼっ! 僕は! 僕はあなたを見た時に、クリスティーヌさんと話しているあなたを見た時に、とても幸せそうな笑顔に、ひ、惹かれました」
笑顔に? 笑顔なんて旦那様と居る時はいつも……いつも……あれ? 旦那様と居て笑ったのっていつだったかしら。
出会ってからは毎日笑顔で、結婚しても笑顔で……そうだわ、私が家事をおろそかにして、仕事に夢中になった時、あの時期から旦那様は遊び歩くことが多くなった。
それ以降は……笑っていないかもしれない。
でもそれは私がいけないんだから、私が旦那様に許してもらわない限り、心から笑うなんて出来ないと思う。
「しかしリチャード王太子、私は結婚しています。なので王太子の申し入れをお受けする事は出来ません」
「今はそれでもかま、構いません。私はあなたの笑顔を見たいのです。なので時々でいいので、私と会っていただけませんか?」
会うだけ? 会うだけなら構わないと思うけど……構わないわよね?
「会うだけなら構いませんが、そうそう簡単にイースター国へは来れませんよ?」
「ありがとう。私が会いに行くから、心配しなくてもいいよ」
会いに行く? 王太子ってそんな簡単に国を行き来してもいいモノかしら。
ああ、何か理由を付けて動く事くらい出来るわね。
それに毎日って事でもないし、月に1回くらい問題ないと思う。
「分かりました。それでは時々お会いしましょう」
何とか晩餐会も終わり、翌日の朝食を王族に混じって頂き、無事に国に戻ってきた。
到着したのは夕方だけど、旦那様は不自由していなかったかしら。
「ただいまアナタ。戻ってきました」
家に入った私は家に変わりがない事を確認しようと……あら? 旦那さまったら……食事が要らないなら要らないって言ってくれないと、食材が無駄になってしまうわ。
出かける前に作った食事がそのまま残っていた。
流石にもう食べられないから、全部捨てた。
お金だけが無くなっていた。
その日の晩も、旦那様は戻ってこなかった。
翌日の朝、お姉様が家を訪れてきた。珍しいわね、お姉様がウチに来るなんて。
「おはようイングリッド。今日は時間あるかしら」
「おはようお姉様。今日は特に予定はないから大丈夫よ。何かあったの?」
「ええ、ちょっとお茶会をしようと思って誘いに来たの」
旦那様も戻ってこないし、昨日は心が疲れたからお姉様に癒してもらおう。
お城に入って庭でお茶をしていると、客人が訪れてきた。
「おはようございますクリスティーヌ、い、イングリッドさん」
そこにはリチャード王太子が立っていた。
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