遺跡発掘作業員

かのこkanoko

文字の大きさ
上 下
5 / 5

雨の中の作業

しおりを挟む
朝から雨が降っていた。
雨の日は取り上げた遺物の洗い作業があった。
もう使われていない会館を借りていて、土器やら石やらをせっせと水洗いしてタオルで拭き、乾かしてから元の入っていた袋に戻す。
石と思えたのに、水に浸けたら溶けて無くなるただの土の塊まであって笑ってしまった。

午後から雨が小降りになる予報だったので、トレンチの埋め戻しに行く事になった。

作業日数的に今日ひとつふたつ埋めなければ厳しいらしい。

雨ガッパでしっかりと武装してから現場に乗り込んだ。
手袋は軍手とゴム手袋の二枚重ねである。

これが小降りの雨かよ?!

そう叫びたくなる中、一番大きいトレンチを全員協力して埋め戻す。
歩くと滑って危ないので箕に入れた土をバケツリレー方式で手渡しするのだ。

雨と、風と、寒さと、泥との戦いである。

こんなに穴掘ったの誰だ!

と文句言いたくなったが、掘ったのは自分たちである。
掘るよりも埋め戻す方が大変だと骨身にしみた。
寒さも骨身にしみきった。

やっと1つ終わり、次に移動をする。

寒い、疲れた、もう無理、帰りたい!
半泣きだったのが天に通じたのか、雨足が酷くなり、暴風雨状態になってきた。

今日はこれで終わりにしますー!

調査員さんの掛け声で帰ってお風呂に入ったが、埋め戻し作業は実質2時間程度しかやっていなかった。

雨風の体力消耗は半端無いと思い知った。


その後、トレンチ穴に貯まった水を掻き出したり余計な作業が増えたが、埋め戻し作業は順調にできた。

穴掘り過ぎだろー!ってブツブツ言いながらも進んで行く。
ドロドロになろうが、もう気にならなくなったのは年頃の女性としてはどうなんだろうかと思ったが。


そしてとうとう、最終日。
泥にまみれた道具を会館に運んで洗っていた。
もう本当に終わりなんだと思うと寂しく思える。
泥に汚れて、辛い作業も多かったけど、割りと楽しかった。
土器を発見を発見出来なくて悲しかったけど、ワクワクできた。

一緒に作業してたオジサンたちも良い人ばかりで。
雇い主側の調査員さんたちも優しくて。

足手まといになってるかと心配したけど、私の出来る作業もちゃんとあって、遺跡発掘調査に貢献出来たんじゃないかなと思える。

鹿に遭遇して怖い思いもしたけれど、樋山さんに抱きしめられた思い出に塗り替えられていたりもして、、、。

もう、会えないんだなあと思うと寂しくなる。

又この町で発掘調査の作業員募集があったらやってみても良いかな、なんて思ってたりして。
何年後になるか分からないけどね。

でも、その時には樋山さんいないかもなー。
この気持ちにはまだ名前が付けられないけど。
このまま一生会えないのも寂しく思えるし。

グダグダと考えこんでしまってる私がいた。



そして、本当に終わりがやって来た。

「皆さん、お疲れ様でした。
おかげさまで無事に終わりを迎えられました。
今回の成果は来年にでも町に戻せる予定ですので、資料館等に展示された時には是非見に行って下さい。
ではありがとうございました!」

ああ、終わった。
皆それぞれ、家路に帰りつく。
私も後ろ髪ひかれながら、会館を出た。



「城野さん、お疲れ様でした!」

樋山さんが声を掛けてくれる。

「樋山さんもお疲れ様でした。
お元気で」

未練を振り切り車に向かおうとする。

「あの、城野さん!
連絡しても良いですか?
電話番号教えて下さい!」

え?
陽に焼けてるから顔色は分からなかったが、目が真剣だった。

私は真っ赤になりながら

「お友達?」

そう言って携帯電話を取り出した。

「えーと、出来ればお友達はスキップしたいんだけど。
あ、友達になってお互いを知ってからの方が良いならそれでも良いけど。
このまま会えなくなるのは寂しいって言うか、嫌なんだけど、どうかな?」

「ふふふ。
まずは連絡先交換しましょう。
夜にでも電話下さい。
話し合いしましょう。」

「はい!
よろしくお願いします!」



こうして辛くて楽しい仕事が終わった。
遺跡発掘作業員。
遺跡オタクの彼氏 が出来たようです。

彼ならば、今後何がおきてもスコップ片手に進んで行けそう。
世界一スコップの似合う樋山さんとのプロローグはこうして終わりを迎え、これから二人の物語が始まる予感。



千年先は無理でも、五十年先も一緒にいたい。
そんな彼との出会いのお話。






※※※


城野:樋山さんって私のどこを気に入ったの?

樋山:ドロドロになっても気にしない、抱き心地が良い、土器のクッキーが美味い、土器の扱いが丁寧、トレンチ掘りが美しい、鹿に怯えた時が可愛い、クッキーもっと食いたい、一緒に遺跡巡りしたい、、

城野:ほとんど遺跡関係?!
私の価値って、、(泣)
てか、抱き心地ってそれ、鹿に怯えた時の事ですよね。言い方考えてー!

樋山:ちんまり、ふんわり、ピッタリ俺サイズ

城野:何それー?!
そりゃあ、背は小さいしちょっとお肉ついてるけど(泣)

樋山:安心する良い匂いで、ずっと一緒に居たい

城野:わ、私も一緒に居たいデス(赤面)
とりあえずクッキー食べて
相変わらずアスファルトクッキーですけどw
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

旧・革命(『文芸部』シリーズ)

Aoi
ライト文芸
「マシロは私が殺したんだ。」マシロの元バンドメンバー苅谷緑はこの言葉を残してライブハウスを去っていった。マシロ自殺の真相を知るため、ヒマリたち文芸部は大阪に向かう。マシロが残した『最期のメッセージ』とは? 『透明少女』の続編。『文芸部』シリーズ第2弾!

COVERTー隠れ蓑を探してー

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
潜入捜査官である山崎晶(やまざきあきら)は、船舶代理店の営業として生活をしていた。営業と言いながらも、愛想を振りまく事が苦手で、未だエス(情報提供者)の数が少なかった。  ある日、ボスからエスになれそうな女性がいると合コンを秘密裏にセッティングされた。山口夏恋(やまぐちかれん)という女性はよいエスに育つだろうとボスに言われる。彼女をエスにするかはゆっくりと考えればいい。そう思っていた矢先に事件は起きた。    潜入先の会社が手配したコンテナ船の荷物から大量の武器が発見された。追い打ちをかけるように、合コンで知り合った山口夏恋が何者かに連れ去られてしまう。 『もしかしたら、事件は全て繋がっているんじゃないのか!』  山崎は真の身分を隠したまま、事件を解決することができるのか。そして、山口夏恋を無事に救出することはできるのか。偽りで固めた生活に、後ろめたさを抱えながら捜索に疾走する若手潜入捜査官のお話です。 ※全てフィクションです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

風月庵にきてください 開店ガラガラ編

矢野 零時
ライト文芸
正夫のお父さんはお母さんと別れてソバ屋をやりだした。お父さんの方についていった正夫は、学校も変わり、ソバ屋の商売のことまで悩むことになった。 あ~、正夫とお父さんは一体どうなるのだろうか?

猫がいた風景

篠原 皐月
ライト文芸
太郎が帰省した実家で遭遇した、生後2ヵ月の姉妹猫、ミミとハナ。 偶に顔を合わせるだけの準家族二匹と、彼のほのぼのとした交流。 小説家になろう、カクヨムからの転載作品です。

あの頃のぼくら〜ある日系アメリカ人の物語〜

white love it
ライト文芸
1962年。東京オリンピックまであと2年となった、ある日の夏。日系アメリカ人のジャック・ニシカワは、アメリカはユタ州の自身が代表を務める弁護士事務所にて、一本の電話を受け取る。かつて同じ日系アメリカ人収容所に入れられていたクレア・ヤマモトが、重病で病院に運び込まれたというのだ。ジャックは、かつて収容所にいたころのことを思い出しながら、飛行機に乗ったー 登場人物 ジャック・ニシカワ 日系アメリカ人の弁護士 クレア・ヤマモト  かつてジャック・ニシカワと同じ収容所に居た日系の美女

白く滲んだ世界はパズルのピースが見えない

猫宮乾
ライト文芸
 現在、俺(灯里)は相馬と同居している。相馬は人を愛する事がわからないという、アロマンティックという指向――LGBTQIA(+)のカウンセラーで、俺は現在ライターをしている。俺達の出会いは大学だ。※現在軸と大学軸で進みます。(表紙は描いて頂きました。本当に有難うございます!)

非実在系弟がいる休暇

あるふれん
ライト文芸
作家である「お姉ちゃん」は、今日も仕事の疲れを「弟くん」に癒してもらっていた。 とある一点を除いてごく普通の仲良し姉弟に、創作のお話のような出来事が訪れる。

ふたりぼっちで食卓を囲む

石田空
ライト文芸
都会の荒波に嫌気が差し、テレワークをきっかけに少し田舎の古民家に引っ越すことに決めた美奈穂。不動産屋で悶着したあとに、家を無くして困っている春陽と出会う。 ひょんなことから意気投合したふたりは、古民家でシェアハウスを開始する。 人目を気にしない食事にお酒。古民家で暮らすちょっぴり困ったこと。 のんびりとしながら、女ふたりのシェアハウスは続く。 サイトより転載になります。

処理中です...