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カハターンの街
歓楽街
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夜の帳が下りたカハターンの街には、大小様々な飲食店などが羅列していた。人通りも多く、アルコールも入っている者も多数いるようで、陽気に歩いている。昼と夜でこんなにも街の雰囲気が変わるものかと、ゼロは驚きを隠せないようで、周囲をキョロキョロと見渡してしまう。
するとタキシードを着込んだ若い男性がゼロに寄ってきて、手揉みをしながら話しかけた。
「お兄さん、可愛い女の子と一緒に飲みませんか?」
「……すまないが、女にも酒にも興味はない」
「……ひょっとして、こっちの方? それなら良い店ありますよ~! 紹介しましょうか?」
若い男性は右手の甲を左の頬の隣に持ってきながら、尚も食い下がる。その必死さに若干面を食らいながら、ゼロは、結構だ。と両手を身体の前に出し、明確に拒否を示すと、若い男性は、そうですか……。とあからさまに肩を落とし、落胆しながら元の位置に戻り、また懲りずに街を歩く男性の元へと寄っていく。その必死さはどこから来るのだろう。などとゼロは考えていた。
ふと、ゼロがルージュを見ると、彼女は肩を震わせながら歩いていた。
「ゼロって、そっちなの?」
「違う」
ゼロは、ルージュのくだらない質問をバッサリと切り捨てると、なおも歩き続けた。すると今度は路地の近くに立っている露出の激しい、派手な化粧をした女がゼロの腕を掴み、甘い声で囁く。
「手三枚、口五枚、本番十枚でどう?」
「間に合っている」
女は、そばにいたルージュを見やり、頭の上から足の先までじっとりと観察すると、ニヤリと笑みを浮かべた。
「あら、先約がいたのねぇ。あなた、初めて見るけど、最近商売を始めたの?」
「私はそういう商売はしてません!」
とても失礼なことを言われた気がしたルージュは、顔を赤くしながら強く否定する。女はクスクスと笑いながら続けた。
「そうよねぇ、あなたみたいな良い歳をして化粧のひとつもしていない芋臭い子が、この町で女一人で生きていくのは厳しいと思うわ」
ルージュは若干体を震わせながら怒りを露わにしている横で、女は再びゼロに迫った。
「ねぇ……。今から私と一晩過ごさない? よく見たらあなた、かなりの男前だし、お金はいらないわ。芋子ちゃんとする時より満足させてあげられるわよ?」
ゼロは少し考えた後、ルージュに振り返り、言った。
「お前、先に部屋に戻ってろ」
「なっ!?」
「やった!」
思わぬ言葉にルージュは驚愕の声を上げた。先程と言っていることがまるっきり違うではないかとゼロを睨むが、ルージュの方に目を向けることもなく、その表情は窺い知れない。女は軽く飛び跳ねながら嬉しさをあらわにする。ルージュは、ワナワナと震え、恐ろしい表情をしながら、ゼロに、どうぞご勝手に。と告げ、踵を返して宿へと戻っていく。
「じゃあ、行きましょうか」
「……あぁ、行こうか」
女はゼロの腕に自らの腕を回し、腕を組みながら歩き始め、二人は夜の街へ消えていった。
「───ッ! もう!ありえない!最低!あんな奴だとは思わなかった!」
部屋に一人戻ったルージュは憤慨しながら椅子にどっかり腰を下ろし、独り言というには大きすぎる声で不満を漏らす。
(あいつと旅するのやめようかな……)
思いながら、荷物を整理しようかと立ち上がろうとしたものの、また椅子に座り直す。
(王様からの命令だしなぁ……)
煮え切らぬ思いを抱えたまま、ルージュは机に突っ伏し、盛大にため息をついた。
「こういう所は初めて?」
「ああ」
その頃、ゼロと女は、連れ込み宿の一室に入ったところだった。女は、ゼロに近づき、目を閉じ、唇を重ねようとする。
「……すまない。そんなつもりはない」
「えっ?」
女は閉じていた目を開くと、目を丸くした。ゼロは一歩後ずさると、弁解と、その理由を述べる。
「俺は今旅をしている最中なんだ。貴女はこの町で長くこう言った商売をしているのだろう? そしたら、様々な者と交流があったはずだ。何か、俺の役に立つ情報を持っていないかと思っただけなんだ」
「……へぇ。んじゃあ、何を聞きたいわけ?」
女は、情事にならないことが判明すると、ゼロから離れ、備え付けの椅子に座り、煙草に火をつけながら、ぶっきらぼうに聞いた。
「俺の旅の目的は、暗黒の女帝を倒す事だ。何か、俺に役に立ちそうな話はあるか?」
「なるほどねぇ」
女はゼロの目を見ながら紫煙を一つ吐くと、口を開いた。
するとタキシードを着込んだ若い男性がゼロに寄ってきて、手揉みをしながら話しかけた。
「お兄さん、可愛い女の子と一緒に飲みませんか?」
「……すまないが、女にも酒にも興味はない」
「……ひょっとして、こっちの方? それなら良い店ありますよ~! 紹介しましょうか?」
若い男性は右手の甲を左の頬の隣に持ってきながら、尚も食い下がる。その必死さに若干面を食らいながら、ゼロは、結構だ。と両手を身体の前に出し、明確に拒否を示すと、若い男性は、そうですか……。とあからさまに肩を落とし、落胆しながら元の位置に戻り、また懲りずに街を歩く男性の元へと寄っていく。その必死さはどこから来るのだろう。などとゼロは考えていた。
ふと、ゼロがルージュを見ると、彼女は肩を震わせながら歩いていた。
「ゼロって、そっちなの?」
「違う」
ゼロは、ルージュのくだらない質問をバッサリと切り捨てると、なおも歩き続けた。すると今度は路地の近くに立っている露出の激しい、派手な化粧をした女がゼロの腕を掴み、甘い声で囁く。
「手三枚、口五枚、本番十枚でどう?」
「間に合っている」
女は、そばにいたルージュを見やり、頭の上から足の先までじっとりと観察すると、ニヤリと笑みを浮かべた。
「あら、先約がいたのねぇ。あなた、初めて見るけど、最近商売を始めたの?」
「私はそういう商売はしてません!」
とても失礼なことを言われた気がしたルージュは、顔を赤くしながら強く否定する。女はクスクスと笑いながら続けた。
「そうよねぇ、あなたみたいな良い歳をして化粧のひとつもしていない芋臭い子が、この町で女一人で生きていくのは厳しいと思うわ」
ルージュは若干体を震わせながら怒りを露わにしている横で、女は再びゼロに迫った。
「ねぇ……。今から私と一晩過ごさない? よく見たらあなた、かなりの男前だし、お金はいらないわ。芋子ちゃんとする時より満足させてあげられるわよ?」
ゼロは少し考えた後、ルージュに振り返り、言った。
「お前、先に部屋に戻ってろ」
「なっ!?」
「やった!」
思わぬ言葉にルージュは驚愕の声を上げた。先程と言っていることがまるっきり違うではないかとゼロを睨むが、ルージュの方に目を向けることもなく、その表情は窺い知れない。女は軽く飛び跳ねながら嬉しさをあらわにする。ルージュは、ワナワナと震え、恐ろしい表情をしながら、ゼロに、どうぞご勝手に。と告げ、踵を返して宿へと戻っていく。
「じゃあ、行きましょうか」
「……あぁ、行こうか」
女はゼロの腕に自らの腕を回し、腕を組みながら歩き始め、二人は夜の街へ消えていった。
「───ッ! もう!ありえない!最低!あんな奴だとは思わなかった!」
部屋に一人戻ったルージュは憤慨しながら椅子にどっかり腰を下ろし、独り言というには大きすぎる声で不満を漏らす。
(あいつと旅するのやめようかな……)
思いながら、荷物を整理しようかと立ち上がろうとしたものの、また椅子に座り直す。
(王様からの命令だしなぁ……)
煮え切らぬ思いを抱えたまま、ルージュは机に突っ伏し、盛大にため息をついた。
「こういう所は初めて?」
「ああ」
その頃、ゼロと女は、連れ込み宿の一室に入ったところだった。女は、ゼロに近づき、目を閉じ、唇を重ねようとする。
「……すまない。そんなつもりはない」
「えっ?」
女は閉じていた目を開くと、目を丸くした。ゼロは一歩後ずさると、弁解と、その理由を述べる。
「俺は今旅をしている最中なんだ。貴女はこの町で長くこう言った商売をしているのだろう? そしたら、様々な者と交流があったはずだ。何か、俺の役に立つ情報を持っていないかと思っただけなんだ」
「……へぇ。んじゃあ、何を聞きたいわけ?」
女は、情事にならないことが判明すると、ゼロから離れ、備え付けの椅子に座り、煙草に火をつけながら、ぶっきらぼうに聞いた。
「俺の旅の目的は、暗黒の女帝を倒す事だ。何か、俺に役に立ちそうな話はあるか?」
「なるほどねぇ」
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