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カハターンの街

解放

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 ゼロ達に迫り来る火炎。その熱気は、直撃したらただでは済まないということを物語っていた。先程吐いた火炎より、より広範囲に、より大火力なものであった。
 着弾。火柱が燃え上がり、その渦中にいるものは残さず灰塵と化す。……渦中にいればの話であるが。
 ゼロとルージュは今度は同じ方向に同時に跳び、火炎の回避に成功。ルージュがドラゴンに向けて駆け出した。そして、ドラゴンとのすれ違いざまに跳ぶ。
 ルージュの二連撃は、ドラゴンの腹に僅かな斬り傷を与えた。とはいえ、もう片方の仲間の剣は折れており、しかも彼の手元に無い。
 彼女は、劣勢の状況に小さく舌打ちながら、再びドラゴンと向かい合うために振り向いた刹那。猛烈な勢いでその尾が差し迫っていた。

「……くっ!!」

 一飛びし、尾を躱そうと試みるが、その脛に尾が直撃し、盛大に後方に飛ばされた挙句、地面に身体をもんどりうつ。
 そして、立ち上がろうと脚に力を込めるが、激痛により力が入らない。痛むのは脚だけではなく、全身に走る痛みで、少しでも気を抜けばそのまま意識を手放してしまう可能性がある。

「ぐっ……『中級回復魔法スパヒール!』」

 ルージュが尻もちをついたまま、主に脚に向けて中級回復魔法を行使する。中級回復魔法だと、骨折すら修復できるものの、一瞬で全快とはならないため、行使のタイミングは仲間が敵の気を逸らしているうちなどになるだろう。
 しかし、今はそんなことは言っていられない。今のゼロではむしろドラゴンの気を引くどころか、ルージュがゼロを守らねばならない状況である。
 ゼロは、苦し紛れに初級火炎魔法や、徒手でドラゴンに攻撃するものの、幾許のダメージにもなっておらず、ドラゴンの気を引くことはできない。
 ドラゴンは獲物を狩らんと、大きな足音を立てながらルージュの方に歩いていく。死へのカウントダウンがルージュの中では始まっていた。ドラゴンはルージュの眼前に立ちはだかると、大きく息を吸い込み、一瞬の溜めの後、一気に炎を吐き出した。
 迫る火炎。直撃寸前の所でルージュは回復魔法を解除し、跳ぶ。しかし、飛距離が足りず、まともに火炎を浴びてしまう。ルージュは一番威力の高い火炎の中央を避けることに尽力し、自らの魔力を全身に纏わせ、ダメージを減らす試みを行う。
 鎮火。ルージュはなんとか耐え抜いたものの、今度は魔法を唱える魔力が尽きてしまった。ゼロはルージュに駆け寄り、その身を抱え、後方に跳び、ドラゴンから距離を取る。

「これを飲むんだ」

 ゼロはバッグの中から小瓶に入った薬を取り出し、瓶の蓋を開き、ゼロの腕の中で横たわるルージュの口元へ差し出す。ルージュは頷くと、その小瓶の液体を一気に飲み干す。
 すると、みるみるうちにルージュの身体に魔力が甦ってきた。そして、傷がひとりでに癒え始め、気づけば体力魔力共に全快になっていた。

「何よこの薬……。味は最低だったけど、効能は最高ね」

 ルージュが両脚で地面に立ち、ドラゴンを再び睨め付ける。対するドラゴンは、何度も人間など致命傷になりそうな攻撃を浴びせているにも関わらず、ギリギリのところでそれを打開してくる二人に対し、僅かな怯えが見えていた。それを逃す彼女ではない。

「全開で行く!」

 ルージュを中心に魔力が爆ぜた。その直後、ドラゴンに向けて跳ぶ。狙うはその首。腹から繋がる柔らかい皮膚に向け、攻撃を加えようと試みていた。

「お!? 今日はドラゴンさんかぃい!? 蹂躙してやるぜぇええええ!!」

 叫びながら、ドラゴンの迎撃である爪を振り払い、ルージュ───アヴァは身体を高速回転させながら、遠心力を乗せつつ、二刀をドラゴンの首に向け振るった。

「ギャァアアアアアアッ!!!」

 アヴァが顕現している時のルージュは、力すらゼロを凌駕する。そのため、ドラゴンの硬い首筋に深い斬り傷が生まれ、黒い血が吹き出した。しかし、その代償に、アヴァの顕現できる時間は、長くて一分。下手をしたらただの一撃で終わってしまうこともある。本体であるルージュの身体への影響を考えなければ、もっと長い時間、力を解放できるのかもしれないが。
 ドラゴンがこの戦闘において、初めて膝を地面につき、地面に倒れ込んだ。
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