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トパデの街へ

百貨店

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「貴重なお話、ありがとうございました」

 玄関先で、ゼロとルージュが深々と頭を下げる。ジャックは、なんのなんの。と手を胸の前で振ってみせた。

「君たちの旅が上手くいくことを祈っておるよ。そしたら私の業績もまた右肩上がりだ」

 ふはは。と笑いながら冗談を言ってみせるジャック。ゼロ達もそれに愛想笑いで答える。そして、再度礼を言い、頭を下げてから踵を返す。ジャックはその後ろ姿に話しかけた。

「ゼロ君、君たちのやろうとしていることは、正直突拍子もなく、人によっては馬鹿にしてくることもあるだろう。……しかしな、男は、人に馬鹿にされようと、自分の信ずる道を突き進んでいれば、きっと目標を達成できる。……私がそうだったからな」

 ジャックは、思わず振り返ったゼロ達に続ける。

「私は実家が物凄く貧乏でな……。小さい頃から世界一の商人になりたかった。そして、私が生きた証を残したかった。今、私がそれなりの生活を送れているのも、ひとえに、小さい頃の夢を追いかけて、追いかけて追いかけ続けて、他人にも自分にも負けたくなかったからだ。最近は君たちのような、良い意味で頭がおかしい若者が少ない。本当に応援しているよ。困ったことがあれば、言ってきなさい。私の出来ることであれば、君たちの力になろう」

 彼の夢は傍目から見れば叶ったと言えるだろう。百貨店という、世界にも誇れる施設を私費で建設し、商売を営み、成功を収めている。それはきっと彼の商才や運のみではなく、人知れず行ってきた努力や、どんな逆境にもめげなかったことによるものであろう。ゼロ達はそんなジャックに対して、いつの間にか尊敬の念を感じていた。何度目かのお辞儀と礼を述べ、ゼロ達はジャックの豪邸を後にした。
 
「……百貨店、行きましょうか」

 ルージュは言いながら、子どものように瞳を輝かせていた。それをみたゼロは小さく笑みを浮かべ、それに賛同した。
 百貨店に向かう道はトパデの街中で一番賑やかな場所あった。すれ違う人も多く、皆買い物帰りのようで紙袋に様々な品物を入れて歩く人が目立つ。
 視界に入ってくる百貨店が大きくなっていくにつれて、ルージュの歩度が上がっていく。ゼロはそれに気付いていないフリをしつつ、いつの間にか前を歩くルージュの後ろについていく。
 
「わ~! すご~い!」

 百貨店に入るや否や、ルージュは黄色い声を上げ、辺りをキョロキョロと見渡す。店内はブースを区切られ、食料品、衣服売り場、生活用品の売店が所狭しに並んでいる。

「とりあえず、まずは旅に役立つようなものを探しましょうか」

 ルージュはじっと自分を見ているゼロに対して、取り繕うように、振り向きながらゼロに促した。ゼロは、そうしよう。と同意するやいなや、ルージュは早足で店内の散策を始める。
 ゼロ達はまず、道具屋を探すことに。店内を歩いていると、すぐに道具屋の看板が現れ、とりあえず入店することに。

「まず、薬草と、魔力薬、聖水、あとは……」

 ルージュは買い物カゴに手際よく必要な道具を入れていく。意外と速やかに道具屋での買い物を済ませると、次は食料品売り場へ。

「干し肉、乾パン、水と……」

 またもや手際よく必要な物資を買い物カゴに入れていくルージュ。ちなみにここまでゼロは買い物には全く関わっていない。ゼロはそろそろ出店しようかと考えていたが、ルージュはまだ百貨店を出るつもりは無いようで、二階へと向かう。否応なくゼロは彼女の後をついていく。
 二階には冒険者御用達の商店が立ち並んでいた。ルージュは一通りフロアを歩き回るとお目当ての店に入った。
 そこは冒険に特化した道具屋であった。利便性の良い鞄であったり、野宿用の毛布、ひいては武器の手入れ用の砥石などもある。ルージュはあるものを手に取る。それは可愛らしいデザインの背嚢。全体的にピンクで、中央に白いラインが引かれているデザインの背嚢であり、どちらかといえばピクニックに使うような代物である。

「なぁ、ルージュ、それよりこっちの方が物がたくさ……」

「私はこれが良いの!」

 ゼロが指差した、大容量で無骨なデザインの背嚢は一蹴され、ルージュは意気揚々とカウンターへと背嚢を持っていった。
 
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