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トパデの街へ

旅路②

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 朝、ゼロはゆさゆさと自分の身体を揺らされる感覚で目を覚ました。ルージュが垂れた眉でゼロの顔を覗き込んでいる。

「おはよう。ごめんね?私の方が多く睡眠時間もらっちゃったから、眠たいよね」

「……いや、大丈夫だ。起こしてくれて助かるよ」

 ゼロはむくりと上体を起こすと、伸びをし、ついでにひとつ欠伸をした。
 すると、ルージュが赤い果物を取り出し、ゼロに差し出した。 

「これ、家から持ってきてたんだ。良かったら食べて」

 ゼロは、ありがとう。と果物を受け取り、かじりつく。甘い果肉が口の中で広がり、思わず頬が緩む。ふとルージュを見やると、同じ果物を口にしていた。
 果物を食べ終わり、腹が膨れた二人は、すでに消えた焚き火の痕を蹴散らし、再び歩き始めた。
 道中、狼の魔物が現れたものの、それを軽々と退け、陽が一番高くなる頃には橋に辿り着いた。
 巨大な橋を眼前にしてやや呆気に取られた二人であったが、そのまま歩を進める。流石に大きな橋であり、渡り切るのに半刻は要した。

「さて、もうひと踏ん張りだ。陽が落ちる前までには街に入りたい。少し歩く速度を上げてもいいか?」

「大丈夫だよ。行きましょう」

 橋を渡ってから一刻ほど歩いていた二人は、ようやく目当てのトパデの街がかすかに視界に入ってきた。
 心なしか更に歩調を上げる二人。しかし、ゼロが急に立ち止まったことにより、ルージュがつんのめり、ゼロの背中に激突しそうになる。一言物申してやろうとルージュが口を開きかけた瞬間、ゼロから僅かに離れ、両腰の短剣の柄に手を掛けた。
 どこからともなく、全身がフードに覆われた人型の魔物が現れる。
 それは一見、普通の人間に見えなくはないものの、醸し出す邪悪な雰囲気が、人間でないことを物語っていた。

『eTbV/d/o/pm/!』

 魔物は手をゼロ達に向けかざすと、人語ではない声を発する。
 その手から魔力による突風が吹き荒れ、発生したかまいたちが二人を襲う。
 ゼロは盾を持たないルージュを庇うように立ち塞がり、盾でかまいたちを防ごうとするが、その全ては防ぎきれず、左の脇腹と右の太腿に傷を負った。ゼロはぱっくりと割れた傷口からだらだらと液体が流れるのを感じていた。

初級回復魔法ヒール!』

 すかさず、ルージュが回復魔法を使用し、ゼロの傷を癒す。みるみるうちに傷が塞がり、出血も止まる。その瞬間、ゼロは駆け出す。

『eTbV/a&(pm/!』

「───ッ!」

「ゼロ!」

 フードの魔物は、ゼロを近づけさせまいと火球を放った。それはゼロに直撃してぜるが、寸でのところで身体との間に盾を挟み込み、身体への直撃は防いだ。一瞬、たじろいだものの、ゼロは再び駆け出す。

『eTbV/a&...』

 フードの魔物は再び魔法の詠唱をしようとするものの、急接近したゼロの、鋭い横斬撃によりそれは防がれ、地に伏せる結果となった。ゼロは、なんとか魔物を倒した安堵感で、ふぅ。と一息つきながら剣を鞘に納めた。

 再び二人は歩を進め始めた。目的地のトパデの街はすでに視界に入っている。
 それからトパデの街に入るのには数刻も掛からなかった。
 街に入った二人は疲労困憊であったため、宿屋を探すことにする。街の案内板を頼りに宿屋に辿りついた。ゼロが扉を開けると宿屋の受付に立っている親父が口を開いた。

「いらっしゃい。お二人様で金貨八枚だよ」

「ああ、部屋は別々で頼む」

「あいよ。お二人様ご案内~」

 宿屋の親父が受付の奥に向けて声を上げると、その妻であろう女性がエプロン姿でパタパタとゼロ達の前に現れ、こちらへ。と二人を案内するべく、歩き出す。

「戦士のお方?」

 部屋へ歩きながら、女性がゼロ達に話しかける。ゼロ達が腰に武器を提げていることに対しての疑問であろう。

「まぁ、そんなところです」

 ゼロが答えたと同時に部屋にたどり着いた。ルージュと別れ、ゼロが先に部屋に通された。眠気や空腹があったものの、二日間歩きづくめであり、野宿もしたので、かいた汗も手入れできていなかったことが不快であったため、まず湯浴みをすることにした。
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