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ミザリー地方
謁見
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ゼロは魅入っていた。生まれてから十八年の間、ずっと田舎暮らしであったため、城の要塞のような堅牢な造り、見ただけで分かる高価な調度品の数々の全てが新しく、前を歩く兵士について行きながらも、つい横目でチラチラと視線が目まぐるしく移動していた。
王のおわす部屋までは、まるで迷路のような道筋であった。ゼロは目の前の兵士が右往左往しているかに思えたが、兵士の足取りはしっかりしていることを目にし、特に疑うこともなくその後ろをついていく。
しばらく歩くと、ゼロ達の前に観音開きの大扉が現れた。そこで兵士が足を止めて、ゼロに向き直る。
「ここが王との謁見の間だ。失礼がないようにな。後は自ら謁見するといい」
「承知いたしました」
ゼロが頷いたのを確認した兵士が、謁見の間に繋がる大扉を開ける。ゼロは案内をしてもらったことに対する一礼を兵士に述べた後、王の元へと歩み寄り、片膝をつき、敬礼する。
「良い。面を上げよ」
「はっ」
ミザリー王は柔和な声で、ゼロを促す。そして、ゼロの目を真っ直ぐと射抜く。決して敵意のある目ではないが、その強い瞳に目を合わせることに、若干の抵抗を感じた。国をまとめ上げている強大な男の視線は、弱冠十八歳のゼロを気圧していた。
「さて、お主があのユリセリアと唯一対峙したパーティーのリーダーであった、アンフィニの息子か。主の旅立ちは、お主の父から、我がミザリーの騎士団長、ノワールを通じて話は聞いておった。その顔を見られる日を心待ちにしていたぞ。ーーーそう緊張せずとも良い。お主の名は?」
国を統べる王という人間の前で、まるで銅像のようになってしまっているゼロに、王は緊張を取り払うような柔和な声で語りかける。ゼロは、この謁見を少なくとも拒絶されているわけではないことが窺えたことにより、僅かながらではあるが緊張が解け、王に向けて返答する。
「私はビタチ村から参りました、ゼロと申します。父、アンフィニの跡を継ぎ、ユリセリアの首を獲る為、今回の旅立ちを迎えました」
「そうか……。して、お主の目的は、我が国を挙げての援助であろう?」
「僭越ながら……。この広大な国を治めておられるミザリー王に私の旅路のお力添えをいただきたく、参りました」
「良い良い。分かっておる。私の知っている今の世界情勢を全てお主に伝え、最大限の援助をしよう」
「有り難き幸せ……」
ゼロは心中で胸を撫で下ろす。王に願いを聞き入れてもらえなければ、旅はすぐさま難局を迎えたであろう。最悪の事態を回避できそうな手応えに、表情には出さないものの、ゼロの感情に安堵が広がった。
「しかし、一つ条件がある」
「はっ……」
ゼロは王の言葉に身構える。王は、ゼロを見定めるような視線で彼の目を真っ直ぐに射抜き続けながら言葉を紡いだ。
「最近、蔓延る魔物のせいで、街の活気が無くなって来ておってな……。この城を北上した所にある洞窟に生息しておる魔物の長を退治して参れ。これを達成した暁には、お主への援助を約束しよう」
「はっ……。承知致しました」
「だが、一人では、強大な力を持つ魔物の長は倒せぬ」
王はゼロから視線を外し、王の側方に控えている側近を呼びつけた。駆け寄ってきた側近は、直立不動の姿勢で指示を待っている。
「ルージュを呼んで参れ。彼に随行させよ」
「はっ。直ちに」
側近は王に一礼し、早歩きで謁見の間から立ち去っていった。ゼロは頭を垂れ、王が呼んだ人物の到着を待つ。数分ほど頭を垂れ続けていると、背中側にある大扉が開く音が響き、側近とは別のやや軽い足音が部屋に響き始めた。足音の主がゼロの左側方で止まると、ゼロと同様に片膝をつき、王に頭を垂れる。
「二人とも、面を上げよ」
「はっ」
二人はほぼ同時に返事をし、ほぼ同時に王に注目する。ゼロの隣に来たのは、両の腰に短剣を提げている、肩に触れるか触れないかほどに切り揃えられた蒼い髪の女性であった。瞳も透き通るような蒼。それが、忠誠の誓いの眼差しで王を見据えていた。
「ゼロ、紹介しよう。彼女はルージュ。我がミザリーの騎士団長、ノワールの子だ。彼女と共に、北の洞窟に棲む魔物の長を退治して参れ」
「はっ。承知致しました。彼女と連携を取り、必ずや吉報を王様の元へお届け致します。しばしのお待ちを……」
「うむ。二人とも、期待しておる。もう下がって良いぞ」
「はっ」
ゼロとルージュは立ち上がって身を翻すと、共に謁見の間を後にした。
「まさに、彼にとっては最初の壁というやつじゃな……」
謁見が終わり、二人の背を見送ったミザリー王がぽつりと呟いた。
王のおわす部屋までは、まるで迷路のような道筋であった。ゼロは目の前の兵士が右往左往しているかに思えたが、兵士の足取りはしっかりしていることを目にし、特に疑うこともなくその後ろをついていく。
しばらく歩くと、ゼロ達の前に観音開きの大扉が現れた。そこで兵士が足を止めて、ゼロに向き直る。
「ここが王との謁見の間だ。失礼がないようにな。後は自ら謁見するといい」
「承知いたしました」
ゼロが頷いたのを確認した兵士が、謁見の間に繋がる大扉を開ける。ゼロは案内をしてもらったことに対する一礼を兵士に述べた後、王の元へと歩み寄り、片膝をつき、敬礼する。
「良い。面を上げよ」
「はっ」
ミザリー王は柔和な声で、ゼロを促す。そして、ゼロの目を真っ直ぐと射抜く。決して敵意のある目ではないが、その強い瞳に目を合わせることに、若干の抵抗を感じた。国をまとめ上げている強大な男の視線は、弱冠十八歳のゼロを気圧していた。
「さて、お主があのユリセリアと唯一対峙したパーティーのリーダーであった、アンフィニの息子か。主の旅立ちは、お主の父から、我がミザリーの騎士団長、ノワールを通じて話は聞いておった。その顔を見られる日を心待ちにしていたぞ。ーーーそう緊張せずとも良い。お主の名は?」
国を統べる王という人間の前で、まるで銅像のようになってしまっているゼロに、王は緊張を取り払うような柔和な声で語りかける。ゼロは、この謁見を少なくとも拒絶されているわけではないことが窺えたことにより、僅かながらではあるが緊張が解け、王に向けて返答する。
「私はビタチ村から参りました、ゼロと申します。父、アンフィニの跡を継ぎ、ユリセリアの首を獲る為、今回の旅立ちを迎えました」
「そうか……。して、お主の目的は、我が国を挙げての援助であろう?」
「僭越ながら……。この広大な国を治めておられるミザリー王に私の旅路のお力添えをいただきたく、参りました」
「良い良い。分かっておる。私の知っている今の世界情勢を全てお主に伝え、最大限の援助をしよう」
「有り難き幸せ……」
ゼロは心中で胸を撫で下ろす。王に願いを聞き入れてもらえなければ、旅はすぐさま難局を迎えたであろう。最悪の事態を回避できそうな手応えに、表情には出さないものの、ゼロの感情に安堵が広がった。
「しかし、一つ条件がある」
「はっ……」
ゼロは王の言葉に身構える。王は、ゼロを見定めるような視線で彼の目を真っ直ぐに射抜き続けながら言葉を紡いだ。
「最近、蔓延る魔物のせいで、街の活気が無くなって来ておってな……。この城を北上した所にある洞窟に生息しておる魔物の長を退治して参れ。これを達成した暁には、お主への援助を約束しよう」
「はっ……。承知致しました」
「だが、一人では、強大な力を持つ魔物の長は倒せぬ」
王はゼロから視線を外し、王の側方に控えている側近を呼びつけた。駆け寄ってきた側近は、直立不動の姿勢で指示を待っている。
「ルージュを呼んで参れ。彼に随行させよ」
「はっ。直ちに」
側近は王に一礼し、早歩きで謁見の間から立ち去っていった。ゼロは頭を垂れ、王が呼んだ人物の到着を待つ。数分ほど頭を垂れ続けていると、背中側にある大扉が開く音が響き、側近とは別のやや軽い足音が部屋に響き始めた。足音の主がゼロの左側方で止まると、ゼロと同様に片膝をつき、王に頭を垂れる。
「二人とも、面を上げよ」
「はっ」
二人はほぼ同時に返事をし、ほぼ同時に王に注目する。ゼロの隣に来たのは、両の腰に短剣を提げている、肩に触れるか触れないかほどに切り揃えられた蒼い髪の女性であった。瞳も透き通るような蒼。それが、忠誠の誓いの眼差しで王を見据えていた。
「ゼロ、紹介しよう。彼女はルージュ。我がミザリーの騎士団長、ノワールの子だ。彼女と共に、北の洞窟に棲む魔物の長を退治して参れ」
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「うむ。二人とも、期待しておる。もう下がって良いぞ」
「はっ」
ゼロとルージュは立ち上がって身を翻すと、共に謁見の間を後にした。
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