約束の邨

ぺぺ

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穴太の衆(あのうの衆)

初仕事

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村長伊兵衛から直々の達しを受けて、太一は急ぎ街道を西へと向かっていた。

穴太の衆は、石大工としての圧倒的な石工技術を買われ、各所へ出向き、石に関するあれこれを行い、整えば村へ帰ったり、また次の現場へ向かったり、高度な技術が必要な場合は特に必要とされ、彼らにしかできない見立て、施工、組みに関しては、どうしてもとなると、穴太の村長へ直接陳情されて来た。

特に築城の際の石垣の組みには定評があり、数ある組みの中には穴太の名を残すものもがあるが、実際は、全ての組みを、状況、場合により使い分け、時に複雑に組み合わせて行っていく。

太一にとって今回は、独り立ちしてからはじめての現場であり、道中踏み締める一足づつに気持ちがはやるのを抑えながら任地へと向かう。

おい】と言うのは、 鑽たがねや槌、筆記具等の石工道具に加え、食器や衣服日常の一式を、四角い木の箱に納めて背負う形になっている、木製のリュックサックの様なものであり、初めて現場へ向かう太一のそれは、まだ白木の香がする程に真新しい。

穴太衆は、佐々木の家から直々に案件の提案が起こる【十職】の一つで、山に属する彼らには、様々な特権があるために、関所は難無く通れるし、山越えや尾根伝いに行く山の道も使う事が出来た。

山と里に隔絶した文化圏があり、連綿脈々と続くそれを知る者は少なく、山の文化圏にいる彼らの力の一端が、里に残したごく僅かな痕跡をして、伝説となって残る程の大事となるのだが、その力を積極的に行使して、里の文化圏で名を馳せようなどとする事は一切無く、稀に穴太から離れ、他所で根を下ろした者であっても、そうする事は恰好の悪い事として忌み嫌い、致しませんでした。

佐々木の家と十職との関係に主従性は無く、あくまで対等であり、佐々木に持ち込まれた里の権力者からの案件も、

「こんな案件ありますけどどうされますか?」

という風であり、大概成立はするわけですが、全ての場合に十職側に拒否権が附帯されている。

今回の太一の任務先は、山中にあり、現場に着く前既に

〝カーン、カーン、カーン〟

と、木に斧を入れる音が聞こえて来た。
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