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穴太の衆(あのうの衆)
佐々木の家
しおりを挟む海沿いに進むと、三日はかかる道中が、山超えをすれば一昼夜で済むという事で、獣道の様な険しい山道に、人の往来がある。
人里から分け入り一日歩き、一息を入れようかという頃合いに、突如巨大な鳥居が現れる。
こんな山中に不釣り合いな規模の人工物に、気味の悪さを覚えるというのが、最初に受ける印象ですが、どの方角から来てもこの鳥居辺りで日が暮れて、ここで提灯を灯さざるをえず、旅慣れた者は、この鳥居を山中の導として、1日歩き、見えると安堵し、一服したり、弁当を広げたり、草鞋を変えたりして、奥の社に無事を祈り、後の道中暗夜行軍で山越となる。
鳥居の巨大さに比して、本殿はひっそりとした山の社という体の、鳥居に不釣り合いな大きさで、一人二人が軒で雨宿りするのが精々でしたが、その作りは誰が見ても良い大工の仕業である事が見て取れて、境内は常に整えられていました。
この神社より一刻半、道行く人の殆どがその存在を知ることのない、数十戸が山間に寄せ合って出来たような集落の、氏神として祀られているのがこの社で、この社を守るためだけに存在する、神主の家がありました。
家系図を遡れば、もう何十代もの系譜を辿り、神話の時代へ繋がるとも言われる歴史ある家系。
今の当主の名はハルヒ、妻の名はサクヤという。
非常に特殊な家系である為に、名付けに変えられぬ規約があり、長兄の名は父と同じハルヒ、女子の名は産まれるたびにサクヤと付いた。
神主の朝は早く、日の出と共に社殿へ向かい、鳥居よりの神域を掃き清め、朝の祝詞を上げる。
深緑の季節にはどんどん芽吹いて伸びてゆく草の始末に追われ、秋に降り積る枯葉を片付けて、吹雪の日にも祝詞は欠かせない。
そこに、生活基盤の基礎となる、衣食住に対しての生産性が皆無であるにも関わらず、村の自己完結の一部として、むしろなくてはならない拠り所として、連綿脈々と営みが続いている。
山鳥が獲れても、大根が育っても、山菜、草履、干柿、蓑笠、菜種油も川魚の燻製も、たとえそれが最後の一尾であったとしても、2つに裂き片方を家族の分とし、もう片方が捧げられる。
当家には、村で唯一苗字があり、皆からは
「佐々木の家」
と呼ばれ、佐々木の家にサクヤが生まれると、村中の家主が各家の屋号が焼印で押された木札を持ち参じ、巾着の中へ入れ、来るべき日のために、拝殿の奥へ安置されるというのが慣わしとなっていました。
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