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住
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そう言えば、我が家の居間の蛍光灯は、真ん中から垂れ下がった紐がスイッチになっていて、一回引くと、丸型蛍光灯の大小両方が点灯し、2回引くと大が消えて小さい方だけ残り、3回目は豆電球が点き、4回目で消灯し、もう一度引くとループする。
バイクで言うところのロータリートランスミッションみたいな方式で、この紐を引く時にするカチャリという音は、我が家の昼夜の境目にある音の一つでした。
蛍光灯を覆う笠を含めての灯具だと思うのですが、
「こっちの方が光量が上がるわ」
と父が言い出し、我が家のそれからは笠が外されて、躯体が剥き出しの状態でした。
食事を取る飯台は、隣の六畳にあったため、剥き出しの蛍光灯の下には、夏はちゃぶだい、冬は炬燵が常設されていて、宿題をするのも、TVを観るのも、こちらの居間だったと記憶しています。
冬の炬燵から、ちょっと遅めの春先に炬燵布団が外されると、それが我が家の春の訪れで、別段何か変わるでないけれど、炬燵布団が外される度、水路の水を堰き止めていた戸板を引き抜いた様に、季節が夏へ向かって流れ出すのを感じでいました。
炬燵布団が外されるのに入れ替わり、毎年何処からともなく巣をかけるタイプの蜘蛛がやって来て、剥き出しの蛍光灯から下がった紐に、前脚を器用に使って巣を張っていました。
幽霊蜘蛛だったり黄金蜘蛛だったり、年によって種別はバラバラでしたが、場所取りは早い者勝ちで、多い時は三匹くらいいた年もあったと思います。
年末の大掃除だとかに限らずに、家の中に蜘蛛の巣が張れば、掃除の一環として取り払うのが一般的だと思いますが、我が家のそれは、肌寒さを感じて蜘蛛が居なくなるまで放置されるのが常でした。
夜の羽虫は、光を目掛けて飛んできて、集合の度合いはその光量に比例するため、剥き出しの蛍光灯は、父の思惑の通り屋内で一番光量が多く、故に羽虫は居間に集中する。
何で知ってるのかは分かりませんが、彼らはそこが絶好の狩場である事を把握していて、羽虫が糸に引っ掛かる度、いそいそと近づいていき、前脚でクルクルと巻いて常備食に変えていく様が一番の見所で、視覚の端に糸の揺れが入って来るとそちらに意識を移し、
「今日はよく獲りよるねー」
などと話をしながら、家族は何の違和感もなくその状況を甘受して生活を致してお
りました。
蜘蛛も蜘蛛で、最初の頃は、電気を消したり点したりする度に、素早く糸の根元まで戻り、安全を確認の後、巣の中央へ戻ったりを繰り返していましたが、その内それが常の事と分かると、紐が引かれる振動ではビクともしなくなって行く。
バイクで言うところのロータリートランスミッションみたいな方式で、この紐を引く時にするカチャリという音は、我が家の昼夜の境目にある音の一つでした。
蛍光灯を覆う笠を含めての灯具だと思うのですが、
「こっちの方が光量が上がるわ」
と父が言い出し、我が家のそれからは笠が外されて、躯体が剥き出しの状態でした。
食事を取る飯台は、隣の六畳にあったため、剥き出しの蛍光灯の下には、夏はちゃぶだい、冬は炬燵が常設されていて、宿題をするのも、TVを観るのも、こちらの居間だったと記憶しています。
冬の炬燵から、ちょっと遅めの春先に炬燵布団が外されると、それが我が家の春の訪れで、別段何か変わるでないけれど、炬燵布団が外される度、水路の水を堰き止めていた戸板を引き抜いた様に、季節が夏へ向かって流れ出すのを感じでいました。
炬燵布団が外されるのに入れ替わり、毎年何処からともなく巣をかけるタイプの蜘蛛がやって来て、剥き出しの蛍光灯から下がった紐に、前脚を器用に使って巣を張っていました。
幽霊蜘蛛だったり黄金蜘蛛だったり、年によって種別はバラバラでしたが、場所取りは早い者勝ちで、多い時は三匹くらいいた年もあったと思います。
年末の大掃除だとかに限らずに、家の中に蜘蛛の巣が張れば、掃除の一環として取り払うのが一般的だと思いますが、我が家のそれは、肌寒さを感じて蜘蛛が居なくなるまで放置されるのが常でした。
夜の羽虫は、光を目掛けて飛んできて、集合の度合いはその光量に比例するため、剥き出しの蛍光灯は、父の思惑の通り屋内で一番光量が多く、故に羽虫は居間に集中する。
何で知ってるのかは分かりませんが、彼らはそこが絶好の狩場である事を把握していて、羽虫が糸に引っ掛かる度、いそいそと近づいていき、前脚でクルクルと巻いて常備食に変えていく様が一番の見所で、視覚の端に糸の揺れが入って来るとそちらに意識を移し、
「今日はよく獲りよるねー」
などと話をしながら、家族は何の違和感もなくその状況を甘受して生活を致してお
りました。
蜘蛛も蜘蛛で、最初の頃は、電気を消したり点したりする度に、素早く糸の根元まで戻り、安全を確認の後、巣の中央へ戻ったりを繰り返していましたが、その内それが常の事と分かると、紐が引かれる振動ではビクともしなくなって行く。
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