1 / 3
プロローグ
しおりを挟む「私はルイスというのだが、君の名は?」
「アルベルトです」
姓はたがいに名乗らなかった。
ルイスはつづけて二言三言、話しかけてみる。おずおずと相手も言葉を返してくれる。
気づくと、閉館時間がせまってきているのか、二人だけになっていた。
ちょうど出口へと向かうカップルの声が聞こえた。
「なぁ、今夜は泊まっていくだろう?」
男の声に女性が承諾したらしく、笑い声が響く。
おそらく絵を見ているうちに男の方は妙な気持ちになってきたのだろう。女もだ。これらの絵には催淫効果があるようだ。つくづくドミンゴ=カマノという絵描きは、罪なものを描いたものだ、とルイスは内心苦笑したが、さらに罪なのは、やはりアベル=アルベニス伯爵か。
そのアベルが絵から抜け出てきたのではないかと思えるような相手を前にして、どうしてもこのまま別れることはルイスにはできない。
「アルベルト君は、将来は、やはり芸術方面の仕事につきたいのかな?」
碧い瞳に翳がはしる。
「……いえ、実は学校は辞めることになると思います。……父が破産しまして……僕も働かないとやっていけない」
彼からにじみでる哀愁の理由はそれかもしれない。
ルイスは悲し気な相手の表情に、奇妙な興奮をおぼえた。
アルベルトがかすかに首をかしげた。青いシャツの襟につつまれた首や項、かすかに見える胸元など、男とは思えぬほど白く、なまめかしい。
「君、こういう絵に興味があるのかい?」
ちょうど二人の前にあるガラスケースのなかのひからびた羊皮紙には、木馬の上であえぐ美青年の姿がある。
相手は、かすかに頬を赤く染めた。
(これは……、もしかしたら掘り出しものかもしれないぞ)
ルイスは慎重に言葉を選んだ。
経済的にこまっているのなら、稼げる仕事に気を引かれるかもしれない。それに……
(アベルのイメージにぴったりだ)
ルイスの視線をどう取ったのか、アルベルトは困惑した顔になる。その表情も、いかにももっと虐めて、と訴えているようでルイスはぞくぞくしてきた。
「アルベルトです」
姓はたがいに名乗らなかった。
ルイスはつづけて二言三言、話しかけてみる。おずおずと相手も言葉を返してくれる。
気づくと、閉館時間がせまってきているのか、二人だけになっていた。
ちょうど出口へと向かうカップルの声が聞こえた。
「なぁ、今夜は泊まっていくだろう?」
男の声に女性が承諾したらしく、笑い声が響く。
おそらく絵を見ているうちに男の方は妙な気持ちになってきたのだろう。女もだ。これらの絵には催淫効果があるようだ。つくづくドミンゴ=カマノという絵描きは、罪なものを描いたものだ、とルイスは内心苦笑したが、さらに罪なのは、やはりアベル=アルベニス伯爵か。
そのアベルが絵から抜け出てきたのではないかと思えるような相手を前にして、どうしてもこのまま別れることはルイスにはできない。
「アルベルト君は、将来は、やはり芸術方面の仕事につきたいのかな?」
碧い瞳に翳がはしる。
「……いえ、実は学校は辞めることになると思います。……父が破産しまして……僕も働かないとやっていけない」
彼からにじみでる哀愁の理由はそれかもしれない。
ルイスは悲し気な相手の表情に、奇妙な興奮をおぼえた。
アルベルトがかすかに首をかしげた。青いシャツの襟につつまれた首や項、かすかに見える胸元など、男とは思えぬほど白く、なまめかしい。
「君、こういう絵に興味があるのかい?」
ちょうど二人の前にあるガラスケースのなかのひからびた羊皮紙には、木馬の上であえぐ美青年の姿がある。
相手は、かすかに頬を赤く染めた。
(これは……、もしかしたら掘り出しものかもしれないぞ)
ルイスは慎重に言葉を選んだ。
経済的にこまっているのなら、稼げる仕事に気を引かれるかもしれない。それに……
(アベルのイメージにぴったりだ)
ルイスの視線をどう取ったのか、アルベルトは困惑した顔になる。その表情も、いかにももっと虐めて、と訴えているようでルイスはぞくぞくしてきた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。


好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

初恋の呪縛
緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」
王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。
※ 全6話完結予定

私の大好きな彼氏はみんなに優しい
hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。
柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。
そして…
柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。

【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。
BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。
何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」
何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる