唯一の血である私はご主人様から今日も愛を囁かれています

星空永遠

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一章

5話

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☆   ☆   ☆

 雷雨様とデートした日から数日が経った。

 私は学校の図書館で借りる本を選んでいた。ちなみに雷雨様は用事があるとかで後から図書館で待ち合わせることになっている。一体どこで何してるの? まさか、他の女の子の血を?

 雷雨様は吸血鬼だし、雷雨様の家系は私なんかの血じゃ足りないくらい一日に吸う量が多いと聞いたから、あまり咎めるのもどうかと思って、怒るのを我慢してるけど。でも、やっぱり複雑な気持ちになる。唯一の血である私がいるのに……。

 わかってるわ、雷雨様がチャラいことくらい。それをわかって契約したんだから我慢しなきゃ。なにも目の前で見てるわけじゃないんだし。

「と、届かない……」

 お目当ての本があったけど、高すぎて手が届かなかった。私は平均よりも身長が低いので、度々こういうことが起きる。まわりを見渡してみたけど、イスが近くにない。……詰んだ。

「これか?」
「雷雨様……! それです。ありがとうございます」

「小難しい本読むんだな」
「雷雨様もたまには読書をしてみては? それより、用事はもういいのですか」

「あぁ、終わった」
「そう、ですか」

 なんの用事かあえて聞かなかったのだけど、ここは聞くべき?

「雪璃はまだかかりそうだな」
「すみません。まだ読みたい本がありまして」

「待ってるから大丈夫だ。他の本も届かないようなら言えよ」
「はい」

 やっぱり優しい……。さりげない優しさでまた好きになってしまいそう。なのに、ここで聞くのは野暮ってものなのかしら。うぅ、でも気になるものは気になる。

「雪璃、どうした?」
「そこまで近くにいなくても大丈夫ですよ」

 そんなことを言いたいわけじゃないのに。

「俺が何してたか気になってるのか?」
「なん、で?」

「顔に書いてある。雪璃はわかりやすいからな」
「そうでしょうか」

「お前と一緒にいて何年だと思ってるんだ?」
「っ……」

 私が雷雨様の小さなことに気付くように、雷雨様も私のことがわかる。嬉しい、な。

雪璃せつが傷付くと思って、あえて話さなかったんだ。だけど、隠すことで雪璃が悲しむなら俺は嘘をつきたくない」
「私だって、聞く覚悟はできてる」

「血が足りなかったから補給しに行ってた」
「そう」

「嫌じゃないのか?」
「そうじゃないかな? って察してたから」

「……そうか」

 勘が当たらなければ良かった。そうすれば、どんなによかっただろう。でも、どのみち雷雨様の口から聞くなら、どっちにしろ傷付くのは変わらない。

「雪璃」
雷雨らいう様? っ……」

 優しい声で名前を呼ぶ雷雨様。私は振り返ろうとしたけれど、後ろから抱きしめられた。

 数日間にデートしたことをふと思い出した。あの日は私だけを見てくれた。雷雨様、どこにも行かないで。他の子の血を吸わないで。私だけを見て。

 少しくらい強欲になってもバチは当たらないって言うなら、私がワガママを言っても許されるのかな?

「どうしても家系の問題で雪璃以外の血を吸って、雪璃を傷つけてしまう。けど、必ず最後は雪璃に戻って来るって約束は忘れてないから」
「雷雨様……。私がワガママを言っても嫌いになりませんか?」

「なるわけないだろ。ヤキモチ妬く雪璃は可愛いからな。でも、わざとそうしてるわけじゃないのはわかってほしい」
「わかってます。吸血鬼にとっての食事は血ですから。私の身体を心配してるんでしょう?」

「そうだ。お前は自分を大切にしないことが多い。
俺が満足するまで血を差し出すつもりだろ?」
「それで他の子に行かないっていうなら、そうします」

 これは独占欲だ。雷雨様を誰にも渡したくないって、そう思う。

「お前が倒れたら俺が心配するんだよ」
「っ」

「だから無理だけはするな。けど……」
「?」

「人が少ないとはいえ、こういう場所で吸血したら雪璃はどんな顔を見せるのか興味が湧いてきた」
「!? 私の心配は?」

「今日はまだ吸ってないから大丈夫だろ」
「それはそうですけど……。ここ、図書室ですよ?」

「だったら声はおさえないと、な」
「誰か来たら見つかりますよ」

「大丈夫。その前に終わらせるから」

 さっきまで考え込んでた私が馬鹿みたいだ。一気にいやらしい雰囲気に持っていくとか、雷雨様のある意味才能……。こうやって、他の女の子も口説いてるんだと思うと納得するとこもある。

 国宝級にカッコいい人がイケメンボイスで囁くのだから。女の子だったら、誰しもが虜になるだろう。

「ん……」

 何度も吸血はされているはずだから慣れているはず、なのに……。声を抑えようとしても、油断したら出てしまいそうになる。

雪璃せつ、可愛い」
「早く、おわらせて」

 涙目になる私。けれど、雷雨様はやめてくれない。私が雷雨様のことを好きなのがバレてるから、こんなことしても嫌いにならないのがわかっているんだろう。でもだからって、続けないで。おかしくなる。

「雪璃の血、今日も甘いな。もっと、欲しい」
「っ……!」

 さらに深く突き刺さる牙。痛いだけじゃない。雷雨様が赤い瞳で私をジッと見つめるから。だから、私も思わず応えてしまいそうになるの。後ろからでも視線は感じる。今は目を合わせないほうがいい。目線を合わせてしまったら、今度こそ逃げられなくなる。

「雷、雨様……あっ……」
「雪璃。声が漏れてるぞ。いいのか? 他の奴らに聞かれても」

「い、やだ」
「俺も嫌だ。だから、こっち向けよ」

「ぇ? ……んっ!?」

 体制を変えられ、キスをされる。

「これだと吸血が出来ねぇな」
「わ、私が雷雨様の首筋にキスしてる。それなら、雷雨様は私に吸血できるでしょ?」

 自分でもすごい提案をしたと思ってる。雷雨様もビックリして引くかもしれない。

「雷雨様がどこにも行かないように印をつけるの。私は吸血鬼じゃないから噛めないけど、雷雨様の真似をする。……だめ?」

 雷雨様があまりにも私を求めるから。ここは学校で勉強をするはずの場所なのに、私も大胆になってしまう。雷雨様がいけないんだから。

「お互いに吸血ごっこってことか?」
「そうよ」

 雷雨様の場合は、ごっこではない気もするけど。

「わかった。ほら、つけてみろ。前にキスは教えたから少しは上手くなってるだろ? 俺が逃げないように印をつけてみろ」
「望むところよ」

 強気に出ても、勝敗は最初からわかっているのに。何を張り合う必要があるのか。でも、何故か雷雨様にだけは負けたくないって思うの。

 以前のデートでキスが下手って言われたから。今度は見返したい。雷雨様に少しでも喜んでほしいから。私のこと、もっと好きになってほしいの。

「っ……雷雨、様」
「雪、璃……」

 放課後とはいえ、図書室に人はそれなりにいる。けれど、私たちの場所は見つかりにくい。最初は、まわりのことを気にしていた私だけど、今は気にならなくなった。聞こえるのは雷雨様の吸血の音と、私が雷雨様にしているキスの音。

 噛み付くようにキスをすると雷雨様の首筋にキスマークがつく。私の大切な人って証拠。きっと明日には消えてしまうけど、今だけは満足感に浸っていよう。

「結局、声我慢出来なかったな」
「う、うるさい」

「雪璃。キスが上手くなったな」
「っ! 雷雨様に比べたら、全然上手くないわ」

「やっぱりこの前のこと怒ってるのか。悪かった。けど、今日のキスは気持ち良かったぞ」
「……っ。なんで、貴方はそういうことをへーきで言えるのよ!」

 こっちは一生懸命で色々いっぱいいっぱいだったっていうのに。

「言葉にしないと伝わらないだろ。それに雪璃せつの言う通り、印はついた。これで俺も雪璃から逃げられなくなった」
「浮気しない?」

「だからウワキしてないって」
「他の子とイチャイチャしてるのは浮気じゃなくて、なんだっていうの?」

「わ、悪かったって」
「もう気にしてないからいいわ」

「ほんとうか?」
「だって、ちゃんと戻って来てくれたから」

 小さなことでイラついてたけど、もう大丈夫。雷雨様は私のことが一番なんだって伝わったから。けど、雷雨様が他の子に目移りしたらヤキモチを妬く。でも悪いことじゃない。その度に雷雨様のことをもっと好きになるなら。

 これが恋っていうものだから。相手のことで悩んだり考えたりヤキモチ妬いたり。その度に雷雨様に夢中になるのも悪くないんじゃない?

 恋をするということは楽しいばかりじゃない。それを雷雨様は教えてくれた。もちろん、そこまで深く雷雨様は考えていないだろうけど、ね。

雪璃せつの笑った顔、久しぶりに見たけどやっぱり綺麗だな」
「なっ……」

「もっと見せろよ」
「ちょ……やっ」

「雪璃、愛してるぞ」
「私も雷雨らいう様のことが好きです。……んっ」

「ありがとな」

 いつの間にか髪ゴムをほどかれていた。

「下ろした姿、この前は見れなかったから」
「雷雨様が望むなら、いつでも下ろしますよ」

「それなら次はベッドの上で頼んでもいいか?」
「考えておきます」

「雪璃は素直じゃないな」
「そういうところも含めて愛してくれるんでしょう?」

「そうだな。少しだけ自信がついた雪璃も新鮮でもっと好きになった」

 ーーードサッ。

雷雨らいう様。こ、ここ図書室っ……!」
「あれだけ声を出してたくせに気になるのか?」

「吸血も済ませたし、もう帰りましょう」
「夜はこれからだぞ」

「っ……」

 性欲魔人。変態。チャラ男……! 昼間まではお寝坊でいつまでも起きないくせに……。夜には本気出すとか聞いてないし。ヴァンパイアは侮れない。私が雷雨様に勝てる日はいつ来るの?その日、私は雷雨様が満足するまでイチャイチャした。

 数日後、先生から呼び出しを食らって、反省文を書いたのは言うまでもない。やっぱり、誰か見てたんだ……。どこから見てたかわからないけど、恥ずかしくて死ぬ。

 どうか、私と雷雨様のイチャイチャを見ていた人外さんと会いませんように……と、思っていたのも束の間、まさか、その人と近いうちに会うなんて、この時は思いもしなかった。
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