最強総長は闇姫の首筋に牙を立てる~紅い月の真実~

星空永遠

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最終章 紅い月の真実、永遠の契約

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「壱流、苦しくない?どこか痛むところは?」
「ない」

「そう…それなら良かっ……た」
「闇華!?」

「大丈夫、少し疲れただけ」
「そう、か。ありがとな、俺のために」

お礼なんていらない。私は壱流の為ならなんだってする、そういったでしょう?

「これで契約完了なはず…だ、多分」
「たぶんって」

「仕方ないだろ?俺だって契約するのは初めてだったんだ。だけど、本当に良かったのか?」
「終わってから聞くのも壱流らしいわね」

「だ、だって…さっきはとても話せる状況じゃ」
「わかってる。…ねぇ壱流」

「なんだ?んっ……なっ!?」

私は壱流に身体を支えられながら、力を振り絞って壱流の唇を奪った。

「壱流、好きよ」
「ったく、お前は。元闇姫と呼ばれるだけあるな。こんなにも強くて大胆で…」

「あの、壱流…?」
「こんな暴れ馬、俺じゃなきゃ手なずけなれそうにないな」

「暴れ馬って私のこと?」

それはいままで言われた中でもひどい言葉。

「他に誰がいるんだ?だってそうだろ?喧嘩を売られればどんな小さな喧嘩だって買う。誰よりも負けず嫌いで、男は容赦なく殴るし。普通の女とは違って可愛げなんてねぇし、めったに笑顔を見せない堅物美少女」

「壱流、私のことバカにしてるの?」

腹立たしいというより、なんで壱流がこんなことを言っているのか気になった。契約したばかりだというのに…。

「俺はそんな闇華が好きだ」
「なっ…」

「お前の悪いとこも良いところもすぐに見つけられる。それに今のは褒めてんだぜ」
「褒めてるってどこが?」

「ぜんぶひっくるめて闇華のことを愛してるってこと」

そんなの…そんなこというなんて反則すぎる。

「なぁ、闇華」
「な、なに?」

「笑えよ…」
「え?」

「お前が笑ったところ、俺は見たことない」

そうだっけ?…私、いつから笑っていなかった?戦いに夢中で、みんなのことを守ることに必死で笑うなんて感情は遠い場所に捨てた気がする。

「って、いきなり笑えっていうほうが無茶か」
「ごめん待って。今から笑う…から。えっと……」

笑顔の練習をしようとするも顔の筋肉が固まりすぎて上手く笑うことができない。

「フッ…ははっ」
「壱流?」

壱流は突然お腹を抱えだして笑いだす。

「やっぱ闇華っておもしれー」
「なによそれ…」

私は壱流が笑った理由がいまいち理解出来ず、軽いため息をもらす。

「闇華」
「!」

抱きしめられ、耳元に壱流の顔が近付く。

「これから俺と生きてくれるか?」
「当たり前でしょ」

「この先もずっと離れたりしないか?」
「当然よ」

「それから俺と…」
「壱流、そんなに心配しなくても大丈夫」

「なんでだ?」
「これから壱流は私と一緒に毎日学校に行くから」

「はっ!?」

驚いてるみたい。でも、最初から私は決めていた。狗遠との戦いが終わったら壱流には伝えるつもりだった。

「せっかく高校に入学したんだもの。これから楽しいイベントがたくさんある。私と一緒に青春したく…ない?」
「したい。けど、だけど…」

「吸血鬼衝動に駆られるのはお互い様。そのときは互いの血を吸えば問題はないと思うのだけれど…どうかしら?」
「…プッ、ははっ」

「今の、どうして笑ったの?」
「いや、俺よりもお前のほうが吸血鬼らしいなって思っただけ」

「もう…」

そんなことない。私はこれから吸血鬼のことも知らないといけない。吸血鬼について人並みにしか知らなかった私が自ら選んだ世界。

それは狗遠が忠告したように、私が考えているよりもずっと危険だ。でも、私は1人じゃない。守るべきものがある私は、そう簡単に心が壊れることはない。守る人がいると人は強くなれる。

今の私って、人じゃなくて吸血鬼なんだっけ?だけど人も吸血鬼も同じ。人は誰かのために強くなろうとする。それは、自分であったり家族だったり、恋人だったり。

生きていれば楽しいことばかりじゃない。困難だって辛いこともある。立ち止まりそうになって進むべき道がわからなくなることもきっとある。だけど、そんなときは無理して急ぐ必要はない。一歩、一歩でいい。私たちは明日を、今を生きている。

「そういえば、壱流が暴走してるとき協力してくれた人が…って、あれ?」
「そんな奴いたのか?」

「いたわ。だって私その人と話を…」

気付いたらその人の姿はなかった。得体の知れないあの人は一体なんだったの?

「そんなことより闇華。これ、どうすればいい?さすがに弁償とかそういう問題では済まないよな」
「えっと……」

壱流は狗遠の街の半分以上を壊滅させた。怪我人はいるし、多くの人を犠牲にした。

「さすがに灰となって消えてしまった吸血鬼を生き返らせることはできないけど、ほかはなんとか出来ると思うよ」
「白銀先生。どうしてここに?」

「彼が呼びに来てくれたんだ。とはいっても、間に合わなかったけどね」

「姉貴~!!」
「幻夢!?」

私を見るなり、嬉しそうに走ってきて抱きつく幻夢。

「幻夢、闇華は俺の女だ」
「それは前にも聞きました。だから、なんだつっていうんですか?」
「不用意に近付くなって言ってんだ!」

「炎帝さん、怪我の手当ては俺がするからこっちに来なさい」
「はい」

「それよりも一度、俺の研究を手伝ってみないかい?」
「あの、白銀先生…?」

微妙に距離が近いのだけど…気のせい?

「吸血鬼になったんだろう?」
「!どうして、それを」

「壱流の髪を見ればわかることさ」
「髪?」

「銀髪になっているだろう?」
「あっ…」

今まではサラサラの黒髪に赤い目だった。なのに銀髪に赤い目。それは吸血鬼の…。

「壱流は未完成だったからね。吸血鬼としては半人前。だけどキミと契約を済ませたことにより壱流は本物の吸血鬼になった。だから見た目にも吸血鬼の特徴が現れたんだよ」
「でも私はなんともな……白銀先生?」

「キミはまだ完全には目覚めていない」
「それってどういう」

「それはこれから先わかると思うよ。なにせキミたちは死なない身体を手に入れたんだから」

そうだ。私は、わたし達は死なない。

「死なない身体なら少しくらい手を出しても…だめかい?」
「は、白銀先生…」

また手に触れられた。

「龍幻!お前も闇華狙いなのか!?子供には興味ないって言ってただろ!」
「ん?そうだったっけ?」
「自分がいったこと忘れてんじゃねー!」

「姉貴、明日からまたお迎えに上がりますね!僕は姉貴の騎士ですから」
「あ、明日くらいは休ませて。さすがにいろいろあって疲れたわ」

こんな戦いをしたあとで明日から学校って…。そうだよね、私は高校生になったばかりなんだから。

「闇華の騎士は俺だ。なぁそうだろ、闇華」
「壱流は少し頼りな……んっ!?」

「なっ…!壱流さん、いますぐ姉貴から離れてください!!」
「人前でキスするとは壱流もすこしは成長したようだね」

「まって壱流。2人が見て…る」
「うるせぇ、お前は黙って俺だけ見てろ」

「んんっ」

キスが長くて息が苦しい。

「闇華は俺のもの。言っただろ?これからの初めてはぜんぶ俺のだからって」
「うっ…うん」

ちょっぴり頼りない。私の中ではほんの少しだけ弱い貴方がいるのだけど…それを言ったら壱流に怒られそうだから黙っておこう。

「これから?僕、さっき姉貴に…」
「あ?」

「ちょ、幻夢…それは今言っちゃ…」
「結ばれて早々浮気はいけないよ、炎帝さん。だけど、吸血鬼の世界には複数の吸血鬼と結婚っていうのは珍しいことじゃない」

「白銀先生、私結婚なんてまだ」
「キミが望むならオレはいつでも協力するよ。なんたってオレはキミの師匠だから…ね」

そういって白銀先生は前みたいに手の甲にキスをした。まるで王子様みたいに。

「「あー!」」

「龍幻、お前やっぱり…!」
「師匠が弟子に手を出すとか反則ですよ!っていうか、教師が教え子にって色んな意味でアウトです!!」

「ここでは教師ではなく、ただの研究者だからなにも問題はない。だろう?炎帝さん」
「えっと…」

「いつまでも名字呼びっていうのも変な話だし、闇華さんでいいかな?」
「白銀先生が呼びやすいほうで」

白銀先生のお陰で壱流はずっと普通に過ごせてきた。そういう意味では感謝してもしきれない。ただ、やっぱりわからない部分が多すぎるけど…。これで一件落着…よね。

「闇華!」
「姉貴!?」

「…大丈夫、気を失ってるだけ。お疲れ様、闇華さん」


*  *  *


「姉貴、おはようございます!今日も迎えにきました!」
「本格的に夏って感じね…おはよ幻夢」

「姉貴、今日はいつにも増して疲れてません?まだ学校にすら着いてないのに」
「…暑さには弱いみたいで」


あれから数ヶ月が過ぎた。私は白銀先生に身体のメンテナンスをしてもらいながら学校に通っていた。

壱流と血の契約を交わして私は吸血鬼になった。そのせいなのか、人間でいたときよりも暑さに敏感になってしまった。体制がついたとはいえ、気を抜くと灰になりそう…。吸血鬼もいろいろ大変。

「朝から出迎えとは暑苦しい奴だな、幻夢は。…おはよう、闇華」
「壱流…おはよう」

「暑苦しくないです!というか、真夏なのにパーカーなんか着てどうしたんですか?見てるこっちまで暑くなってくるんですけど…って、姉貴まで!?」

「壱流も?」
「そりゃあ、な。前とは違って半端モノじゃないわけだし」

そう、壱流も完全な吸血鬼になった。本人は半端ものだって気にしてたようだからこれで良かった…のかしら。

「俺様から言わせてみればどちらも半端モノだな」

「なっ…!狗遠総長!」
「幻夢、人を指ささないの」

「狗遠、なにしにきた!闇華から手を引いたんじゃなかったのか?」

「今日は闇姫に会いにきたわけじゃない。炎帝闇華に会いに来たんだ。…これからよろしくな、元闇姫」
「よろしく。って、あなたの制服…」

よく見ると狗遠は壱流たちと同じ制服を着ていた。ネクタイの色は3年。って…嘘でしょ。

「なにをそんなに驚いている?」
「あなたは、その…高校生じゃないと思っていたから」

勝手な思い込みだったけど、話し方といい雰囲気が大人だったから。

「人を見た目で判断するな。一応、籍はあったが学校には行っていなかった。だが、貴様のいる学校なら行く価値はある。…そういえば元闇姫ではなかったな」
「それは…」

実はあれから闇姫として復活?した。狗遠に捕まっていた仲間たちを助けたあと、どうしても戻ってきてほしいと頼まれて半ば強引に…。毎日ってわけじゃないけれど、定期的に以前のたまり場にも足を運ぶようになった。仲間も幻夢も喜んでいるから私が闇姫に戻ったかいはある。

「闇華はお前なんかに渡さない。それにお前には夢愛とかっていう大事な人がいるんだろ?」
「夢愛は妹のような存在だから好きとはまた違う。それより闇姫、俺様と学校まで行かないか?最強吸血鬼である俺様の隣は嬉しいだろう?」

「姉貴は僕と学校まで行くんです!姉貴、今日は甘い卵焼きが入った弁当希望です。みんなも楽しみに待ってるんですよ!!」

「闇華、これからも俺の側から離れるな。お前はモテすぎて心配になる」
「大丈夫、私は壱流から離れたりしないから」

前よりも少しだけ騒がしくなった気がする。

これから先、どんなに辛いことに、壁に当たっても平気。困ったときに手を貸してくれる仲間がいる。それに、私の隣にはこの世で一番愛してる人がいるのだから。


裏社会で闇姫と恐れられていた不良少女はかつて命を救った少年である壱流と血の契約をし、吸血鬼となった。

これは闇姫が吸血鬼となり、最強総長と結ばれるまでの物語。


~完~
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