最強総長は闇姫の首筋に牙を立てる~紅い月の真実~

星空永遠

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Ⅳ 元闇姫と現闇姫

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「プライドが高いのも考えものだな。まあ、いいだろう。抵抗はするなよ?てめぇら、元闇姫の血を吸ってこい」
「いいのか?」

「あぁ。俺様はその女が悶え苦しむ姿を見るのが楽しみだからな」
「じゃあ遠慮なく~」

「姉貴!」
「幻夢、いい?絶対に手は出さないで」

「…でもっ、このままじゃ姉貴が……」

また幻夢を泣かせてしまった。
ごめんね、やっぱり私…強くはなれなかった。

「いただきま~す!」
「っ……」

「俺も俺も!」
「…いっ!!」

「姉貴、姉貴…」

私は吸血鬼たちに血を吸われる。餌だと思う相手に手加減なんてするわけない。どんなに痛くても私は抵抗しなかった。彼らが満足するまで私は身体を差し出すだけ。

悔しくてたまらなかった。私が新しく友達なんか作らなければ…夢愛ちゃんと出会わなければ彼女は狗遠に目をつけられることもなかったのに。

「…クスッ。ヤバい、もう…限、界」
「あまり笑うな。元闇姫はお前のために身体を張っているのだぞ、夢愛」

「なに、が…」

吸血鬼たちに身体を弄ばれ意識が飛びそうになっている私の耳に届くのは狗遠と夢愛ちゃんの会話。

「闇華ちゃん、ごめんねぇ~。実は私が今ウワサの闇姫なの」
「何、言って……」

いつの間にか夢愛ちゃんに突きつけられていた刃は消えていた。

「ほんといい表情だねぇ、好きでもない相手に吸血されるってどんな気持ちぃ?」

これがあの人見知りの夢愛ちゃんだっていうの?
それにいま闇姫って…。

「それとも実は気持ち良かったりするぅ?」
「夢愛ちゃん、よね?」

ねぇ、嘘だと言って?
本当は狗遠に脅されてるんでしょう?

私は目の前の現実をすぐに受け入れることは出来なかった。

「あ、もしかして信じられない?ごめんねぇ、ああやって性格を作らないと私が闇姫だってバレちゃうから。それとね、闇華ちゃんのことは前から知ってたの」
「え?」

「闇姫がここらじゃ有名なのは闇華ちゃんが一番知ってることでしょ?それが私にとってはすごーく不快でさ。ほら、闇華ちゃんってなんでも持ってるしぃ?」

夢愛ちゃんがなにを言ってるのか私には理解できなかった。…理解したくなかった。

「闇姫のウワサを流せば知りたがりの闇華ちゃんのことだからすぐに釣れると思ったの。そしたら~まんまと引っかかってるし。闇姫ってば爪が甘すぎぃ。あ、今は卒業したから元闇姫なんだっけ?今の闇姫は私だしねぇ」
「よくも姉貴を騙して…!」

「ゴミはだまっててくれる?」
「ガハッ!!」

「幻夢!」
「目障りなのよ。元闇姫の騎士だか虫だか知らないけど。ねぇ闇華ちゃん、今どんな気分?」

「……」

そこに私の知る夢愛ちゃんはいなかった。

「それと私、闇華ちゃんのこと友達だって思ったこと一度もないから」

その言葉は今までの暴言よりも痛かった。

―――ポキッ。

その瞬間、心が砕ける音がした。

「…む……げ、て」
「姉、貴?」

上手く声が出せない。幻夢だけでも逃さなきゃ。
はやく立ち上がらなきゃ…。

「っ……」

足に力を入れようとした。
だけど身体は私の言うことを聞かない。

なんで?どうして?私が幻夢を助けないといけないのに。

私は闇姫。みんなを、家族を守る。そう、思っているのに…。

「もう心が折れちゃったの?頑張る姿を私に見せて?ねぇってば」
「誰のせいで姉貴が戦意喪失したと思ってるんですか!?」

「え?もしかして本当に?元闇姫も大したことないね」
「闇姫さん、元闇姫は俺らが食っていいんですか?」

「好きにしたら?」
「やりぃ!」

「これ以上、姉貴の血は渡しません!!」
「死にぞこないのくせに手出しするなんて。私、虫けらには用はないんだけどぉ?」

「……」

壊れかけの私を守るように幻夢は私の前に立つ。
こんな私…守ってもらう価値なんかない、のに。

幻夢を守れなかった。
仲間を救うことだって出来なかった。

どうして1人でなんとか出来るって、勝てると思っていたんだろう。私は夢愛ちゃんがいうように「元闇姫」なのかもしれない。

「幻夢…もう、やめ、て」
「いやです!」

「言うことを聞いて!このままじゃ幻夢が無事じゃ済まない!私が我慢すればいいの。私だけが我慢して自らの血を吸血鬼たちに与えればそれで…」
「それで一体なにが変わるっていうんですか!?」

なにをいって…。

「この女の言いなりになって、僕たちの仲間が帰ってくると本当に思ってるんですか?」

え?

「この女は姉貴を絶望のどん底に叩き落したいだけ。だから姉貴が我慢する必要なんてないんです」
「な、にを」

「1人で全部抱えようとしないでください。仲間が困っていたら助ける。僕たちはお互いに支え合う、それが家族です。だから次は僕が姉貴を守る番です」
「そんな身体で何を言ってるの?私は守られる価値なんて…」

「姉貴、聞いてください」

そういうと幻夢は私の肩に手を置いた。

「姉貴は誰よりも繊細で普段は辛辣ってくらい毒を吐きますけど、だけどちゃんと優しくて。僕たちはそんな姉貴だから今までついてきたんです。みんな、そんな姉貴が大好きなんです。だから守られる価値がないなんて悲しいことを言わないでください」

「幻夢…」

「別れの言葉も終わったようだし、殺っちゃっていいよ」
「うーす」

「案外歯ごたえがなかったな(夢愛の存在は元闇姫の心を壊すのに十分すぎた)」
「狗遠様もそう思います?私もちょうど同じこと思ってたところなんですよ~」

「ここは姉貴だけでも逃げてください」

幻夢を置いて逃げる?…そんなことはできない。これ以上、仲間を危険に晒すなんて。

「嫌よそんなのは」
「足手まといなんです」

幻夢、今なんて?

「今の姉貴は自暴自棄になってるし、精神も安定していない。そんな姉貴が吸血鬼やヤクザと戦うなんて無理だって言ってるんです」
「だからといって私だけが逃げるのは……!」

「姉貴、これは逃げなんかじゃありません」
「え?」

逃げじゃない?だったらなんだっていうの?

「次の戦闘に備えての休息。時には体力を回復することも必要です」
「今は休んでる暇なんてないのよ」

「姉貴。そんなにボロボロで何を言い出すんですか?」

大怪我してるのは幻夢のほう。私は傷一つない。吸血はされたけど私はまだ……。

「戦える。私はまだ平気、だから」
「立ち上がることだって不可能なのに?」

「……」

わかってる、言われなくても。

「無駄話はそこまでにしてもらおうか」
「狗遠……」

「さっきから聞いていれば守るだの支え合うだのくだらない」
「くだらなくなんてない」

「負けを認めろ、元闇姫。こんなゴミ騎士が貴様を守れると本当に思っているのか?」
「ッ!?」

「幻夢!!」
「うっ……!」

狗遠は幻夢の首をギリギリと締め上げた。

「少しは張り合いがあると思っていたのだがな。…元闇姫、選べ」
「!」

「俺様の女になるか、こいつが殺されるか」

そんなの…答えは決まってる。

「私が…貴方の、狗遠の女に……餌に…」

―――バンッ!!

「ッ!」

「幻夢…大丈夫?」
「ゲホッ。な、なんとか」

狗遠に向けられた銃声。
避けるために幻夢を咄嗟に離した。

「姉貴、今の音って…。って、姉貴?」
「っ……」

どうして貴方がここにいるの?

心のどこかでは望んでいたのかもしれない。

微かな希望、それは……。
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