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Ⅳ 元闇姫と現闇姫

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「…ん。ここって…?」

目を覚ました私はいつもの天井に違和感を覚えた。さっきまで壱流の家にいた、はず。

「やっと目を覚ましたの?闇華」
「お、お母さん…」

「友達の家に遊びに行ってたら先に言いなさい」
「え?」

「ここまで送ってくれたのよ」

誰が?と一瞬おもったけど思い当たるのは1人しかいない。

「一応お礼は言っておいたわ。だけど、あんな不良とは今後付き合うのはやめなさい」
「そんな言い方って…」

「闇華には相応しくないわ。一度あなたの友人をチェックしないとダメかしらね」
「だから私は…」

言われることが容易に想像出来た。
だから今日は家に帰りたくなかった、のに。

壱流、どうして私をかえしたりしたの?

―――次の日

「姉貴。おはよう…ございます」
「幻夢!?どうしたの、その怪我」

朝からいつも通り迎えに来てくれた幻夢。
だけど、その日は普段とは違っていて。

幻夢の身体のあちこちには殴られたあとがあった。

「昨晩は…忙しかったんですか?」

え?

「き、昨日は早めに寝てて」

隣町に行ってたなんて言えない。

「姉貴、どうして嘘なんかつくんですか」
「げん…む?」

「あれだけ電話したのに…助けを求めた、のに」
「幻夢、まって。電話ってなんのこと?」

「一度とりましたよね、電話」

それって私が?

「わかってます。姉貴がもう闇姫じゃないってこと。でも、昨日は今までとは違っていて…緊急事態だったんです」

それは私に対しての怒り?それとも…。
幻夢の手は震えていた。

「ごめんなさい…。幻夢、お願い。今から話して。ちゃんと聞くから」
「姉貴、本当に昨日のこと何も知らないんですか?」

「え、えぇ」
「昨晩、僕の…僕らのたまり場が荒らされたんです」



「真夜中でした…いきなり男たちが僕らを襲ってきて。それで…」
「それで?」

その先は聞かなくても想像できた。
とてもいやな…そんな感じがした。

「仲間が攫われました」



「たぶん人質だと思い、ます。最後に男はこういいました。元闇姫がここに来れば仲間を解放してやるって」
「そう…だから電話をしたのね」

幻夢の話してる男はおそらく…。

「何度も電話したけど、繋がったのは一度で…結局姉貴は来ないし」
「……」

「姉貴、今日スマホを見ましたか」
「実は…」

「?」
「私のスマホがないの。目が覚めたときには手元から消えてて。幸い鞄の中身はそれ以外無事だったのだけど」

壱流がなんの意図があって私のスマホを奪ったのかはわからない。全てを把握していなくとも少しは知っているはずだ。電話をとったのは壱流で間違いないだろう。だけど、それならどうして私に教えてくれなかったの?

「誰かわからないですけど、姉貴を闇姫に戻したくない人がいるみたいですね」
「そんな人いるわけ…」

「だって、目が覚めたらスマホが消えてる…なんてそんなことあるわけない。姉貴、昨晩は誰といたんですか?」
「それは…」

「答えられないんですね。もういいです」
「幻夢、まって!」

私はその場から立ち去ろうとする幻夢の腕を掴んだ。

「姉貴。本当は僕も貴方には戻ってきてほしくないんです」
「幻夢…」

受け入れるどころか手を振り払われてしまった。

「僕は1人で仲間を助けに行きます」
「そんな…無茶よ」

「どんなに無謀でもやらないといけないんです。これは僕にしか出来ないことだから。…裏社会から身を引いた姉貴にはわからないことですけど」
「…」

「僕は姉貴が闇姫をやめたことをけして責めたりしません。ただ、僕が怒ってるのは中途半端な覚悟で僕らの世界を知ろうとしてる姉貴の行動にです」

幻夢は勘が鋭い。どうして私はこんな簡単なことさえ忘れていたんだろう。言葉にしなくても幻夢はわかっているんだ。私が昨日どこに行っていたか。知る方法はいくらでもある。

「関わるなら自分の行動にはしっかり責任を持ってほしかったです」
「ごめん…幻夢」

今は謝罪の言葉しかでてこない。ただ謝ってるだけの私はまるで…偽善者だ。

「しばらく姉貴の送り迎えは出来ないかもしれません。でも、姉貴にはいるでしょ?新しい友人が。全てが終わったらまた来ますね」
「幻夢、私は…!」

「姉貴…好きでしたよ」
「…えっ?」

「僕はずっと、姉貴の、闇華のことが好きでした。姉貴には光が当たるあたたかい場所で幸せに生きてほしいんです。…姉貴には暗闇なんて似合わないから」
「まって、げん…!?」

幻夢の唇が触れたと同時にお腹に鋭い痛みが走った。

「お願い、待っ、て…」
「さようなら、姉貴」

私は幻夢の持っていたスタンガンで意識を失った。

私の前から去っていく。幻夢の表情は…私の脳裏に焼き付いたまま。

私が弱いままでごめんなさい。中途半端に裏社会に関わってごめんね。…闇姫に戻らないと。そうしなきゃ仲間を、家族を助ける事が出来ない。

幻夢は言っていた。私に足りないもの。
それは…覚悟だ。


*   *   *


「キミが来るのはそろそろだと思ってましたよ、炎帝さん」
「話があります。今からでも大丈夫ですか?……白銀先生」

女子たちと話している白銀先生を引き止める。

「白銀先生~、私たちとお昼食べるって約束は?」
「すまないね。炎帝さんが授業でわからないところがあるから、今から個人的に教える約束をしててね」

「えぇ~、私も先生のこと知りたい~!」
「わたしも!わたしも!」

「…それは機会があれば、ね。炎帝さん、それじゃいこうか」
「はい」

私は空き教室に白銀先生と入る。まわりはそんな私を羨ましがっていたけど、今から話すのは決して楽しいことじゃない。

「全てをわかった上で私から逃げてたとしたら今までの行動にも納得できます」
「勘が鋭い子は長生きできないよ。でもいまのキミの目を見ればオレは避けたりしないよ」

「……」
「覚悟が決まったんだね」

「はい。私には時間がないんです。だから…お願いがあります」
「短時間で自分を強くしろ、と?」

やっぱり全てを見透かしてる。白銀先生は一体どこまで私のことを知っているんだろう?

「そうです」
「いまのキミだって十分強いだろう?今から1人で敵の本拠地に奇襲をかけたとしても余裕じゃないのかい?」

「茶化さないでください。それはどうせ…人間相手の話でしょう?」
「やはりキミは頭が回るね。いいよ、オレでよければ協力する」



「意外そうな表情をしているね」
「正直…断られる覚悟もしてました」

「それはないよ。キミは壱流を守るんだろう?いや…キミにしか壱流は救えない」
「幻夢に、友達に言われて気付かされました。みんなを守るって言ってるのに私は甘かった。あたたかい、平和な世界から彼らを助けようとしていた。でも、それじゃあ駄目なんです。本気で救うなら私も彼らと同じ世界に行かなくちゃならない。…以前、闇姫でいた頃のように」

「本当は自分で気付くのが一番良かったんだろうけどね」
「だから…教えなくていいです。白銀先生が壱流のことについて隠してるのはわかってます。紅い月の正体は自分で…私の目で確かめることにします」

「そこまで理解してオレに会いに来たのなら上出来だよ。いいよ、今からオレの強さを見せてあげる。手加減はしない。だから…全力でかかっておいで」
「っ…!」

これが本気の白銀先生。なんて殺気だろう。

指一本触れてすらいないのにビリビリと来る。
まるで全身を針で刺されてるみたい。

やっぱりこの人に頼んで正解だった。

幻夢、もう少しだけ待ってて。
今、助けに行くから。
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