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Ⅲ リベンジマッチ

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「抵抗する気がないなら俺様の好きにさせてもらうぞ」
「貴方の好きにさせるつもりはない」

「いいねぇ、その反抗的な目。やはりてめぇは出会った頃となにも変わっちゃいない」
「そういう貴方だって変わってない」

「ほぅ。今まで忘れてくせにどの口がほざいてるんだ?」

顎を強引に上げられ、彼の唇が近づく。

「馬鹿にするのもいい加減にして」

――バチンッ!!!

部屋に響く鈍い音。私は彼の頬を思いきり叩いた。

「威勢がいい女は嫌いじゃない」
「少しは痛がったらどうなの?」

「俺様にはこのくらい蚊に刺された程度で済む。それはてめぇがよく知っているだろう?」

少しだけ赤くなっていた頬も5秒もしないうちに消えていく。吸血鬼の回復能力。実際に目の当たりにすると人間とは違うんだと嫌でも実感する。

「前にも言ったはずだ。闇姫、てめぇは俺様の女に相応しい、と」
「私は誰のものにもならない」

「てめぇがご執心なあいつのモノになる気はないのか?」
「それを貴方にいう必要はないわ」

「ここまで強情な女はてめぇが初めてだ」

強情?どこが?私はただ思ってることを口にしただけ。

「無駄なお喋りもここまでだ」
「売られた喧嘩は買うつもり。いつでもかかってきたら?」

ようやく本性を見せたわね。総長であるこの人が、このまま私を無傷で返すわけがない。

「ケンカ?…面白いことをいうんだな闇姫」
「なぜ、笑っているの?」

「俺様はケンカをするとはいってないぞ」

え?

「貴様には今日付けで俺様の女になってもらう。そういったんだ」
「それはさっき断ったはずよ」

「聞こえるか、闇姫。俺様の声が」
「っ…」

なに…これ。
頭に直接響く声は。これは、彼がやってるの?

「俺様と口づけをすれば契約が完了する。それが済めば貴様は一生俺様のモノだ」
「口づけ?寝言は寝てからい…っ」

「ほぅ。これだけ力を使ってるのにまだ抵抗する力が残ってるとはな」

力?

さっきから不快すぎるくらい頭の中に響くこれは彼の……吸血鬼の能力。

「俺様と契約すれば、貴様もはれて吸血鬼の仲間入り。これで死を恐れる必要はなくなる」
「私は死を恐れるわけじゃ…」

「そんなことはない。人間誰しもが怖いはずだ。若いから死なない?そんなことはない。人はいつか必ず死を迎える。怖いだろう?死ぬということが」
「だから怖くなんて、ない」

怖くない。こわくなんてないはず、なのに。

どうして。どうしてなの?彼が語りかけてくるたびに恐怖が、怖さが増してくるのは。

震えだす身体。手足は氷のように冷たい。
私、本当は死ぬことが怖いの…?

「吸血鬼になれば死ぬことはないし、怪我をしてもすぐになおる。それに永遠の若さも手に入る」

たしかに彼の言うとおり。人間は殴られれば痛いし、傷の治りだっておそい。老いるのは人間にとってこわいもの。

「貴様が一番欲している最強という称号も吸血鬼になれば全て手に入る。どうだ?貴様にとって悪い話ではないだろう?」

私にとって悪いはなしじゃない。彼は私を必要としてる。

私も彼と契約を結ぶだけで最強になれる。
これが…利害の一致?

「貴様から俺様に口づけしてみろ」
「…」

ちがう。

「さっきも言った、はず。私は…貴方の言いなりにはならない!」
「ほぅ。俺様の暗示を解くとはなかなかのものだな」

「…」
「いいのか?足が血だらけだぞ」

「構わない。あのまま貴方の言葉に従うほうがいやだったから」

とっさにその場に落ちていたボールペンで自分の太ももを刺した。泣きそうなほど痛い。でも、今はそんな弱音を吐ける状況じゃない。

「あのまま暗示にかけられていれば気持ち良くなれたものを」
「…に、ないで」

「貴様、今なんといった?」
「人間をバカにしないでって言ったのよ!人間が死を恐れる存在?人はいつか死ぬ?そんなこと、貴方に言われなくてもわかってる。貴方からしたら人間の一生なんて、ほんの一瞬かもしれない」

「貴様の言う通りだな。俺様からしたら人間の人生なんて目を瞑って開くくらい一瞬だ」
「…でも、そんな短い人生を人は精一杯生きてるの。時にはもがいて苦しんで。人生は楽しいことばかりじゃない。人間はね?貴方が思ってるよりもずっとしぶといの。それに強いわ。この危機的状況でも私は貴方に負けるなんて思ってない」

一瞬の隙を狙い、彼を押し倒した。
ペンを彼の首筋に当てる。

「こんなもので俺様に勝ったつもりか?」
「喉元深くまで刺せば、しばらくは動けないでしょ?」

「なら何故それを行動にうつさない?」
「…降参して」

無駄な争いは避けたい。

「あれだけのことをされても俺様にトドメをさせないとはな」
「貴方のことは許せない。でも、だからといって貴方を傷付けるのは違う。私は貴方と同じにはなりたくないから」

壱流を闇の世界へ堕とした人が目の前にいるのに。
どうしてだろう?彼を殺せないのは。

「貴様はどこまでも甘い奴だな」
「なんとでも言えばいい」

「だがな。俺様の顔を傷付けた代償は大きいぞ。次に会ったときには、貴様の顔が絶望に染まる瞬間だ。今から楽しみだな、ククッ」
「私の大切な人たちは私が守る。貴方なんかに指1本触れさせはしない」

私が絶望する?確信があってその言葉を言っているとするなら注意が必要ね。今後はより一層気を引き締めないと。

「俺様は貴様以外にはさほど興味はないのだがな」
「んっ…!!」

「貴様はやはり隙がおおいな」

頭をグイッとされ、そのまま唇をうばわれた。

「今のは契約じゃない。ただ貴様の唇がいい形をしていたから口づけしたくなっただけだ。安心しろ」
「貴方にキ、キスされて私が喜ぶと思ってるの?」

なにを安心しろっていうのよ。今すぐ殴ってやりたい。だけど、相手の思うツボだからここはがまんしなきゃ。

「まさか…初めてだったのか?」
「そんなわけないでしょ」

ファーストキスは好きな人と…なんてロマンチックなことはいわない。だけど、さっきのキスは紛れもなく初めての…。

「元闇姫と呼ばれたわりに口づけも済ませていないのか。さては貴様…処女だな」
「欲求を満たしたいなら他をあたってくれる?」

「俺様は貴様が欲しい」
「私とタイマン(1対1の勝負)したいなら素直に言ったらどう?」

遠回しな言い方をされても困る。

「最強と呼ばれた闇姫も自分の恋愛となると鈍いな。このまま返してやらないこともないがどうする?」
「返してくれるなら、今すぐ帰りたいわ」

「それが出来れば苦労はしない」
「まだなにかあるの?」

「ここは俺様のテリトリーだ。貴様もそれを理解した上でここに足を踏み入れたのだろう?」
「……」

そうだ。このまま何事もなく家にかえれるはずがない。
テリトリーを出るまでに他の連中に捕まれば、それこそ喧嘩になる。どうすればいい?

「俺様にいい案がある。…ついてこい」
「まって」

「どうした?」
「この足で歩くのは無理があるわ」

後先のことを考えず刺すんじゃなかった。
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