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Ⅱ 吸血衝動
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「質問です!白銀先生はなんで白衣姿なんですか?」
「薬を作ってるとね、薬品で衣服が汚れることがあるんだ。それで着替えるのが面倒だからこの格好というか。それと、白衣姿だと見た目だけでも研究者に見えるかなっていう俺の偏見なんだ。ほら、俺ってまだ学生だから他の研究者といると、どうしても子供扱いされてね……」
「天才と呼ばれてる白銀先生はそれだけで選ばれた人間っていうか~」
「それに白銀先生って身長も高いですし、私たちからしたら十分大人に見えます!」
「ちなみに何センチなんですかー?」
「180ちょっと、かな」
「たっかいー!高身長でイケメンとかスペック高すぎ」
昨日も白衣姿だったのはそういう理由があったのね。
「そろそろ1時間目の授業を始めたいんだけどいいかしら?」
「佐藤先生。すみません、自己紹介したあとから生徒と雑談をしてて」
「白銀先生いいんですよ。皆さん、白銀先生は準備がありますので質問は特別授業の時にしなさい。今から私の授業がありますから、皆さんは席に戻りなさい」
「「「はーい」」」
「白銀先生、お昼は私たちと食べましょうね?」
「今日は第2理科室に荷物を運ばないといけないんだ。だからごめんね。また次の機会があれば」
「そんな~」
白銀先生が女子生徒の誘いを断り教室から出て行った。
一部は「白銀先生の特別授業を早く受けたい」などと騒ぎ、それを現国担当の佐藤先生が私語を慎むようにと注意していた。綺麗な先生だけど、しっかりしている人だとそんな印象だった。
1時間目の授業がもうすぐで終わる。ふと空を見るとそこには綺麗な青空が広がっていた。私は高校生になったんだと改めて実感する。
―――ガラッ。
「……」
「あら?貴方はたしか……」
一人の男子が教室に入ってきた。佐藤先生が名前を呼ぶ前にスタスタと自分の席に向かう。
ドカッとわざと音を立てて座る。昨日の入学式に来なかった男子。たしか名字は皇綺羅。名前を見ただけじゃ読めない。でも、それは私も同じ。
「……」
「……」
一瞬、目が合った。だけど皇綺羅君はすぐに視線を外す。
「あの男子って入学式に来なかった生徒でしょ?」
「やっぱり不良なのかなぁ?」
「でも、イケメンだから良くない?」
小声で皇綺羅君のことを話している生徒。私の後ろの席だからクラスメイトの視線が痛い。皇綺羅君は他人事のようにリュックを机に叩きつけるようにして置き、そのまま寝てしまった。
「皇綺羅くんは出席ね。だけど、教室に入ってきてからすぐ寝るのは先生は感心しないわ。……なにかいうことはないの?」
「……」
「今日だけは目を瞑ります。でも明日からはしっかり朝から登校するように。これで1時間目の授業を終わります。みんな、2時間目は移動教室だから遅れないようにするのよ」
「起立、礼」
「「ありがとうございました」」
日直の掛け声とともに佐藤先生に挨拶をした。
「なにしてんの闇華。早く行かないと先生に怒られるよ?」
「闇華ちゃん?」
「ごめん風夏ちゃん、夢愛ちゃん。先に行っててもらえる?」
「りょーかい。闇華もこういってるし先いこ」
「……」
「夢愛?」
「あ……なんでもないの。行こっか風夏ちゃん」
「それにしても闇華どうしたんだろうねー」
「後ろの席の人を起こしてから来るんじゃない?」
「そんな面倒なことする?」
「闇華ちゃんって責任感強そうだし。……それに優しい子みたいだから」
「それはわかるかも。闇華って優しいよね。でもさ、入学式サボるような男子と絡んでたら危なくない?あれは絶対不良だよ。間違いない!」
「それを校則違反ギリギリに制服改造してる風夏ちゃんがいっても説得力ないよ」
「なにをぉ!アタシは不良じゃなくてただの女子高生だもん~。てかさ、夢愛だってJKでしょ?」
「……それはそうだけど。そろそろ始まるみたいだし急がないと」
「だね!」
☆ ☆ ☆
「……起きて」
「……」
2人を先に行かせて教室に残っているのは私と皇綺羅君だけ。誰も怖がって彼を起こそうとしない。
先生に頼まれたわけじゃないけど、私が声をかけないと彼は放課後まで眠っているような気がしたから。
「ねぇ、皇綺羅君」
「……」
今さっき来たばかりなのに、とても気持ちよさそうに寝ている。授業中も一部はうるさかったのに、そんな状況でも熟睡できるなんて……。本当によく寝てる。昨日はあまり眠れなかったのかしら。
「次の授業は音楽だって。移動教室だから先生来る前に早く……」
「……」
やっぱり無反応。
「具合悪いような保健室に」
「うるさい」
「え?」
「アンタさ、さっきからしつこいんだけど」
「さっき、から?」
どういう意味?
「こんな騒がしい教室で俺が本気で爆睡してると思ってたわけ?」
「えぇ。だっていくら声をかけても返事をしないから」
「返事をしないってことは、つまり返事をしたくないってことだよ」
「どうして?」
「授業を受けるのがダルい」
「……」
こうして話してる間も皇綺羅君は机に突っ伏したまま顔を上げようとしない。
「まだ授業始まったばかりなのに、そんなにつまらない?」
「……俺が好きで高校に通ってると思ってんの?」
「え?」
「聞こえなかったらいい」
独り言のように呟くからなんて言ってるのかわからなかった。
「皇綺羅君。もしかして本当に体調悪い?」
「……は?」
「ごめんなさい。勘違いだったら」
「アンタさ、変わってるって言われたことない?」
「え?入学したばかりで友人も少ないからわからないわ」
「……そう」
再び狸寝入りをしようとする。
今の質問はよくわからないのだけれど、どういう意味?私は体調が悪いかどうか聞いただけなのに。
「ていうかさ。さっきから甘ったらしい匂いがして不快なんだけど」
「!」
急に髪をすくい上げられた。起き上がる気はけしてないのだろうけど、目線はしっかりと私を見て視線を離そうとしない。黒い瞳はまるで漆黒の闇のように深く、見つめていると引き込まれそうになる、そんな目。
「甘い匂いって……」
「シャンプーの匂い?いや、女の……フェロモン?」
「フェロモン?」
「見た目は普通のくせして、こんな匂いをプンプンさせて……。この匂い、龍幻と似てんな」
「龍幻……?」
龍幻って、白銀先生のことよね?何故、彼が白銀先生のことを知ってるの?
「なんで普通の人間がそんな匂いさせてんだよ」
「え?」
いきなり不機嫌そうな顔をする。
「気に食わない」
「気に食わないっていわれても困るわ」
「その匂いの原因がなにかわかるまでアンタを離さない」
「!?」
頭をガシッと掴まれたと思った瞬間、皇綺羅君とグッと距離が近付いた。急に皇綺羅君の顔がドアップで、その距離は唇が当たりそうなくらい近い。
「アンタ名前は?」
「炎帝」
「それは名字だろ。俺は下の名前を聞いてんだ」
「……闇華」
よく名字ってわかったわね。
「闇華ねぇー。初めて聞く名前だ」
「当たり前でしょ?あなたが昨日の入学式に来なかったから」
「は?」
「入学式が終わったあとクラスで一人ずつ自己紹介をしたの。その時にいなかったでしょ?」
「入学式なんてくだらない」
「くだらないって……」
じゃあ、なんのために高校に入学したの?大抵の人間はなにか目的があって高校に通うはずだけど。
「アンタ。この状況でも動じないってことは……」
「な、なに?」
私の正体に気づいた?もしかして私が闇姫のときに会ってた人?実は私が倒したヤクザの一人とか。
「男慣れしてんな」
「は?」
「彼氏いるだろアンタ」
「……」
皇綺羅君って思ったより天然なのかしら。舎弟はいるけど恋人は生まれてこの方できた事がないわ。
「彼氏がいたら女らしい匂いがしてもおかしくねぇか」
「私、彼氏なんていな……」
「俺の嗅覚が鈍ったかと思ったぜ。悪かったな。頭を強引に掴んだりして」
「いえ……」
パッと離してくれた。けど、私が恋人いない云々は皇綺羅君には聞こえてないみたい。
「それよりさ。アンタのバックの中なんか入ってない?」
「食べ物ってこと?」
「そ」
「チョコなら入ってるわ。どうして?」
「それでいいや。明日、金返すからそのチョコくれないか?」
「これをあげたら授業に出るの?」
「……じゃあ、いらない」
授業に出る気はないみたいだけど、それ以上に空腹なのかしら?朝ごはんを食べていないから眠いとか?
「チョコはここに置いておくから。もし出る気があったらくればいい。音楽室は3階だから。それとお金はいらないわ」
私はチョコを皇綺羅君の机にソッと置くと、教科書を持って教室を出た。
「薬を作ってるとね、薬品で衣服が汚れることがあるんだ。それで着替えるのが面倒だからこの格好というか。それと、白衣姿だと見た目だけでも研究者に見えるかなっていう俺の偏見なんだ。ほら、俺ってまだ学生だから他の研究者といると、どうしても子供扱いされてね……」
「天才と呼ばれてる白銀先生はそれだけで選ばれた人間っていうか~」
「それに白銀先生って身長も高いですし、私たちからしたら十分大人に見えます!」
「ちなみに何センチなんですかー?」
「180ちょっと、かな」
「たっかいー!高身長でイケメンとかスペック高すぎ」
昨日も白衣姿だったのはそういう理由があったのね。
「そろそろ1時間目の授業を始めたいんだけどいいかしら?」
「佐藤先生。すみません、自己紹介したあとから生徒と雑談をしてて」
「白銀先生いいんですよ。皆さん、白銀先生は準備がありますので質問は特別授業の時にしなさい。今から私の授業がありますから、皆さんは席に戻りなさい」
「「「はーい」」」
「白銀先生、お昼は私たちと食べましょうね?」
「今日は第2理科室に荷物を運ばないといけないんだ。だからごめんね。また次の機会があれば」
「そんな~」
白銀先生が女子生徒の誘いを断り教室から出て行った。
一部は「白銀先生の特別授業を早く受けたい」などと騒ぎ、それを現国担当の佐藤先生が私語を慎むようにと注意していた。綺麗な先生だけど、しっかりしている人だとそんな印象だった。
1時間目の授業がもうすぐで終わる。ふと空を見るとそこには綺麗な青空が広がっていた。私は高校生になったんだと改めて実感する。
―――ガラッ。
「……」
「あら?貴方はたしか……」
一人の男子が教室に入ってきた。佐藤先生が名前を呼ぶ前にスタスタと自分の席に向かう。
ドカッとわざと音を立てて座る。昨日の入学式に来なかった男子。たしか名字は皇綺羅。名前を見ただけじゃ読めない。でも、それは私も同じ。
「……」
「……」
一瞬、目が合った。だけど皇綺羅君はすぐに視線を外す。
「あの男子って入学式に来なかった生徒でしょ?」
「やっぱり不良なのかなぁ?」
「でも、イケメンだから良くない?」
小声で皇綺羅君のことを話している生徒。私の後ろの席だからクラスメイトの視線が痛い。皇綺羅君は他人事のようにリュックを机に叩きつけるようにして置き、そのまま寝てしまった。
「皇綺羅くんは出席ね。だけど、教室に入ってきてからすぐ寝るのは先生は感心しないわ。……なにかいうことはないの?」
「……」
「今日だけは目を瞑ります。でも明日からはしっかり朝から登校するように。これで1時間目の授業を終わります。みんな、2時間目は移動教室だから遅れないようにするのよ」
「起立、礼」
「「ありがとうございました」」
日直の掛け声とともに佐藤先生に挨拶をした。
「なにしてんの闇華。早く行かないと先生に怒られるよ?」
「闇華ちゃん?」
「ごめん風夏ちゃん、夢愛ちゃん。先に行っててもらえる?」
「りょーかい。闇華もこういってるし先いこ」
「……」
「夢愛?」
「あ……なんでもないの。行こっか風夏ちゃん」
「それにしても闇華どうしたんだろうねー」
「後ろの席の人を起こしてから来るんじゃない?」
「そんな面倒なことする?」
「闇華ちゃんって責任感強そうだし。……それに優しい子みたいだから」
「それはわかるかも。闇華って優しいよね。でもさ、入学式サボるような男子と絡んでたら危なくない?あれは絶対不良だよ。間違いない!」
「それを校則違反ギリギリに制服改造してる風夏ちゃんがいっても説得力ないよ」
「なにをぉ!アタシは不良じゃなくてただの女子高生だもん~。てかさ、夢愛だってJKでしょ?」
「……それはそうだけど。そろそろ始まるみたいだし急がないと」
「だね!」
☆ ☆ ☆
「……起きて」
「……」
2人を先に行かせて教室に残っているのは私と皇綺羅君だけ。誰も怖がって彼を起こそうとしない。
先生に頼まれたわけじゃないけど、私が声をかけないと彼は放課後まで眠っているような気がしたから。
「ねぇ、皇綺羅君」
「……」
今さっき来たばかりなのに、とても気持ちよさそうに寝ている。授業中も一部はうるさかったのに、そんな状況でも熟睡できるなんて……。本当によく寝てる。昨日はあまり眠れなかったのかしら。
「次の授業は音楽だって。移動教室だから先生来る前に早く……」
「……」
やっぱり無反応。
「具合悪いような保健室に」
「うるさい」
「え?」
「アンタさ、さっきからしつこいんだけど」
「さっき、から?」
どういう意味?
「こんな騒がしい教室で俺が本気で爆睡してると思ってたわけ?」
「えぇ。だっていくら声をかけても返事をしないから」
「返事をしないってことは、つまり返事をしたくないってことだよ」
「どうして?」
「授業を受けるのがダルい」
「……」
こうして話してる間も皇綺羅君は机に突っ伏したまま顔を上げようとしない。
「まだ授業始まったばかりなのに、そんなにつまらない?」
「……俺が好きで高校に通ってると思ってんの?」
「え?」
「聞こえなかったらいい」
独り言のように呟くからなんて言ってるのかわからなかった。
「皇綺羅君。もしかして本当に体調悪い?」
「……は?」
「ごめんなさい。勘違いだったら」
「アンタさ、変わってるって言われたことない?」
「え?入学したばかりで友人も少ないからわからないわ」
「……そう」
再び狸寝入りをしようとする。
今の質問はよくわからないのだけれど、どういう意味?私は体調が悪いかどうか聞いただけなのに。
「ていうかさ。さっきから甘ったらしい匂いがして不快なんだけど」
「!」
急に髪をすくい上げられた。起き上がる気はけしてないのだろうけど、目線はしっかりと私を見て視線を離そうとしない。黒い瞳はまるで漆黒の闇のように深く、見つめていると引き込まれそうになる、そんな目。
「甘い匂いって……」
「シャンプーの匂い?いや、女の……フェロモン?」
「フェロモン?」
「見た目は普通のくせして、こんな匂いをプンプンさせて……。この匂い、龍幻と似てんな」
「龍幻……?」
龍幻って、白銀先生のことよね?何故、彼が白銀先生のことを知ってるの?
「なんで普通の人間がそんな匂いさせてんだよ」
「え?」
いきなり不機嫌そうな顔をする。
「気に食わない」
「気に食わないっていわれても困るわ」
「その匂いの原因がなにかわかるまでアンタを離さない」
「!?」
頭をガシッと掴まれたと思った瞬間、皇綺羅君とグッと距離が近付いた。急に皇綺羅君の顔がドアップで、その距離は唇が当たりそうなくらい近い。
「アンタ名前は?」
「炎帝」
「それは名字だろ。俺は下の名前を聞いてんだ」
「……闇華」
よく名字ってわかったわね。
「闇華ねぇー。初めて聞く名前だ」
「当たり前でしょ?あなたが昨日の入学式に来なかったから」
「は?」
「入学式が終わったあとクラスで一人ずつ自己紹介をしたの。その時にいなかったでしょ?」
「入学式なんてくだらない」
「くだらないって……」
じゃあ、なんのために高校に入学したの?大抵の人間はなにか目的があって高校に通うはずだけど。
「アンタ。この状況でも動じないってことは……」
「な、なに?」
私の正体に気づいた?もしかして私が闇姫のときに会ってた人?実は私が倒したヤクザの一人とか。
「男慣れしてんな」
「は?」
「彼氏いるだろアンタ」
「……」
皇綺羅君って思ったより天然なのかしら。舎弟はいるけど恋人は生まれてこの方できた事がないわ。
「彼氏がいたら女らしい匂いがしてもおかしくねぇか」
「私、彼氏なんていな……」
「俺の嗅覚が鈍ったかと思ったぜ。悪かったな。頭を強引に掴んだりして」
「いえ……」
パッと離してくれた。けど、私が恋人いない云々は皇綺羅君には聞こえてないみたい。
「それよりさ。アンタのバックの中なんか入ってない?」
「食べ物ってこと?」
「そ」
「チョコなら入ってるわ。どうして?」
「それでいいや。明日、金返すからそのチョコくれないか?」
「これをあげたら授業に出るの?」
「……じゃあ、いらない」
授業に出る気はないみたいだけど、それ以上に空腹なのかしら?朝ごはんを食べていないから眠いとか?
「チョコはここに置いておくから。もし出る気があったらくればいい。音楽室は3階だから。それとお金はいらないわ」
私はチョコを皇綺羅君の机にソッと置くと、教科書を持って教室を出た。
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