最強総長は闇姫の首筋に牙を立てる~紅い月の真実~

星空永遠

文字の大きさ
上 下
9 / 31
Ⅱ 吸血衝動

1

しおりを挟む
高校入学から2日目。

―――ピンポーン。ピンポーン。

その日は朝から迷惑ってくらいインターホンがうるさかった。誰なのかって?思い当たるのは1人しかいない。

「おはようございます!姉、んんっ。闇華さんいますか~?」
「わざわざ家まで迎えに来なくても……」

ほら。やっぱり幻夢だった。

「なにかあってからじゃ心配ですから。って、まだ着替えてなかったんですか?」
「朝が弱いのは知ってるでしょう?それと……おはよ」

「はい!おはようございます!!」

朝から元気ね……。普段なら幻夢の高めの声も平気なのに今は頭に響く。

「着替えるから少し待ってて」
「手伝いましょうか?挨拶も時差あるんじゃないかってくらい遅かったですし、着替えも一人だと時間かかりません?」

「…着替えくらい一人で出来るから。中に入って待ってて」
「俺が男で生まれてきたばかりに、くっ。お邪魔します!親は、いないですよね?」
 
「当たり前でしょ。もしいたら今頃出禁になってたわ。今日も朝早くから仕事なの」
「なにげに姉貴の家に入るのは初めてかもしれません」

そうだったかしら?……そう、よね。そもそも当時の幻夢を紹介なんてできない。私が夜に出歩いてたこともバレてしまうし。そのあとは根掘り葉掘り昔のことを聞かれて。想像するだけでも怖いわ。

「着替え終わったわ。それじゃあ行きましょうか」
「えぇ!?早くないですか?」

「早くしないと遅刻するわ。それに着替えに手間取っていたら時間の無駄でしょ?」
「だからって、髪が跳ねてるのをそのままにしておくのはどうかと思いますよ」
 
「え?あ……」

鏡を見ながらセットしたはずなのに後ろ髪が跳ねてる。

「そこのソファーに座ってください。僕が髪をといてあげますから」
「あ、ありがと」

そういって幻夢はリュックから櫛を出して私の髪をといてくれた。

「昔よりも大分伸びましたね」
「あれから切ってないから。とはいえ毛先は荒れてるから整える程度にはカットしていたけど」

「そんなことしなくても姉貴の髪は綺麗ですよ」
「え?」

「また冗談だって思ってます?」
「そんなことない」

相変わらず無自覚で私のことを褒める幻夢に私は翻弄されっぱなし。だからといって幻夢に特別な感情を抱いているわけではない。

だけど、やはり男の人に容姿のことを褒められると不覚にもドキッとしてしまうのが自然というもので……。

「褒められて照れてるんですか?」
「そんなんじゃないから」

「……」
「なに?」

幻夢は無言のまま私の顔を見る。

「男にそういう顔を見せるのはやめておいたほうがいいです」
「そういう顔って?」

「無自覚なところは姉貴らしいんですけどね。……はい、できましたよ」
「こんな凝った髪型にしなくても」

編み込みっていうんだっけ?

「そんなに時間かかるものじゃないので。次にやるときは別の髪型を試してみてもいいですか?」
「す、好きにしたら?」

自分では可愛い髪型にできない。だから幻夢がやってくれるのは助かる。だけど、それを口に出すのは恥ずかしい。

「ありがとうございます!」
「いきなり抱きつくのはやめて」

いつもの幻夢に戻った。
結局、私はどういう顔をしていたのかしら。

「ゆっくり話してたら遅刻ギリギリの時間ですね、あはは」
「急いで家を出ましょう」

「このままサボります?」
「不良じゃないんだから行くに決まってるでしょ。今日から授業なんだから」

「それ元闇姫がいうセリフじゃないですよね」
「なにか言った?」

「いえ、なんでもないです。それじゃあ走りましょう!」

バタバタしながら私たちは家を出た。

幻夢はさりげなく私の手を握る。繋いだその手は中学の時よりもゴツゴツしていて……。見た目は可愛くても、しっかり男の子なんだと思った。

「なんとか間に合いましたね。それじゃあ、本日の放課後も迎えに来……あー!」
「いきなり叫ばないで」

「驚かせてしまってすみません」
「もう大丈夫だから。それで、どうしたの?」

「今日は用事があったのを思い出して。姉貴と一緒に帰りたかったです。ううっ……」

なにも泣かなくても。

「今日は駄目でも明日は一緒に帰れるでしょ?」
「新しくできた女友達と一緒じゃなくていいんですか?」

「こんな貴方を1人にしておけないわ。なんの用事かはわからないけど無茶だけはしないで」
「怪我なんてしませんので安心してください!でも姉貴に心配していただけるなんて光栄です。それではまた!」

幻夢は笑顔を見せながら自分の教室に入っていった。私が本当に心配しているのは伝わってないようね。

幻夢あなたはまだ裏社会にいるのでしょう?だったら不安になるのは当然でしょ?


「……」

―――ガラッ。

先生はまだ来てないようね。

「闇華、おはよー!」
「おはよう。風夏ちゃん」

「闇華ちゃん、おはよう」
「夢愛ちゃんもおはよう」

教室に入り自分の席の横に鞄をかけると同時に挨拶を交わす。昨日のは夢じゃなかったのね。私の新しくできた友達。今日も昨日と同じように可愛い……。

「あれぇ?今日の闇華の髪型、昨日と違くない?」
「え?」

「ほんとだ。今日は編み込みなんだね。とっても似合ってるよ、闇華ちゃん」
「あ、ありがとう」

2人とも、するどい。
私なら些細な変化なんて気づかないのに。

「編み込みやってて時間ギリギリだった?編み込みってアタシでもやるのムズいのにすごいねー」
「これは……」

幻夢はそんなに時間かからないっていってたのに。

「授業始まるみたいだから後で話そうね、闇華ちゃん」
「えぇ」

「お前ら席についたかー?今日も皇綺羅すめらぎ以外は揃ってるみたいだな。…今日からこのクラスの副担任になる先生を紹介するぞ」

皇綺羅すめらぎって入学式に来なかった生徒よね、たぶん。

白銀はくぎん龍幻りゅうげんです。君たちと同じように昨日からこの学校に来ました。今後ともどうぞよろしく」

「きゃー!昨日のイケメン先生!!」
「ウチらの副担!?めっちゃ嬉しすぎるんですけど!」

「……」

あの人、昨日ぶつかった先生よね?

白銀はくぎん龍幻りゅうげん、先生……。
今日も白衣姿なのが気になる。

「白銀先生は学生の身でありながら、吸血鬼の薬を作っている天才研究者だ。この中にはもしかしたら白銀先生を知っている者もいるかもしれない。最近は危険な吸血鬼が増えている。そこでだ、白銀先生には週2で吸血鬼についての特別授業をしてもらうことになった。吸血鬼のことでなにかわからないことがあれば白銀先生に聞くといい。俺は隣のクラスの授業があるんでな。失礼させてもらう」

担任の先生が教室を出た途端、白銀先生のまわりには女子が集まっていた。

「白銀先生って、あの有名な白銀龍幻先生だったんですか!?」
「君たちは俺のことを知ってるのかい?」

「当たり前じゃないですかぁ。その若さで吸血鬼の研究をしてるなんて凄いですよ!」
「1人でいろんな薬を作れるんですよね!?」

「年齢でいえば、君たちのほうが若いんだけどね。薬も1人で作れるとはいっても簡単な物しか作れないよ」
「またまた~、それこそ謙遜ですよ」

「……」

1時間目の授業が始まるのは当分先のようね。

「白銀っち。めっちゃ人気じゃね?」
「風夏ちゃん……」

教師をあだ名で呼ぶのはまずいと思うのは私だけかしら。

「生徒にフレンドリーな感じで、イケメンならモテて当たり前かぁ。でも昨日は女子に声かけられてもガン無視だったのに別人すぎー」

言われてみればそうかもしれない。昨日の風夏ちゃんの話とはまるで違う。……笑ってるようで笑っていない。あれは完全に作っている。

「闇華ちゃん、どうしたの?白銀先生を見ながら怖い顔してるよ。なにかあった?」
「え?ううん、なんでもないの」

夢愛ちゃんに心配をかけるわけにはいかない。大したことで悩むのはやめよう。

白銀先生が本当の笑顔を見せないからといってなんだというんだ。私にはなんの関係もない。ただ、私にはわかる。夜の世界、裏社会でそういう奴らをたくさん見てきたから。

最初は仲間のフリをして最後には裏切る人も、平気で嘘を並べて相手の心を惑わす奴も。白銀先生もきっと私のように汚れた世界を見たことがある人間なんだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あなたはだあれ?~Second season~

織本 紗綾
恋愛
 “もう遅いよ……だって、好きになっちゃったもん” 今より少し先の未来のこと。人々は様々な原因で減ってしまった人口を補う為、IT、科学、医療などの技術を結集した特殊なアンドロイドを開発し、共に暮らしていました。  最初は、専業ロイドと言って仕事を補助する能力だけを持つロイドが一般的でしたが、人々はロイドに労働力ではなく共にいてくれることを望み、国家公認パートナーロイドという存在が産まれたのです。  一般人でもロイドをパートナーに選び、自分の理想を簡単に叶えられる時代。  そんな時代のとある街で出逢った遥と海斗、惹かれ合う二人は恋に落ちます。でも海斗のある秘密のせいで結ばれることは叶わず、二人は離れ離れに。  今回は、遥のその後のお話です。 「もう、終わったことだから」  海斗と出逢ってから二回目の春が来た。遥は前に進もうと毎日、一生懸命。  彼女を取り巻く環境も変化した。意思に反する昇進で忙しさとプレッシャーにのまれ、休みを取ることもままならない。  さらに友人の一人、夢瑠が引っ越してしまったことも寂しさに追い打ちをかけた。唯一の救いは新しく出来た趣味の射撃。 「遥さんもパートナーロイドにしてはいかがです? 忙しいなら尚更、心の支えが必要でしょう」  パートナーロイドを勧める水野。 「それも……いいかもしれないですね」  警戒していたはずなのに、まんざらでもなさそうな雰囲気の遥。 「笹山……さん? 」 そんな中、遥に微笑みかける男性の影。その笑顔に企みや嘘がないのか……自信を失ってしまった遥には、もうわかりません。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【完結】断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

六畳二間のシンデレラ

如月芳美
恋愛
8ケタの借金を残したまま、突然事故死した両親。 学校は? 家賃は? 生活費は? 借金の返済は? 何もかもがわからなくてパニックになっているところに颯爽と現れた、如何にも貧弱な眼鏡男子。 どうやらうちの学校の先輩らしいんだけど、なんだか頭の回転速度が尋常じゃない! 助けられているのか振り回されているのか、あたしにも判断不能。 あたしの生活はどうなってしまうんだろう? お父さん、お母さん。あたし、このちょっと変な男子に任せていいんですか? ※まだ成人の年齢が18歳に引き下げられる前のお話なので、現在と少々異なる部分があります。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【完結】ホウケンオプティミズム

高城蓉理
青春
【第13回ドリーム小説大賞奨励賞ありがとうございました】 天沢桃佳は不純な動機で知的財産権管理技能士を目指す法学部の2年生。桃佳は日々一人で黙々と勉強をしていたのだが、ある日学内で【ホウケン、部員募集】のビラを手にする。 【ホウケン】を法曹研究会と拡大解釈した桃佳は、ホウケン顧問の大森先生に入部を直談判。しかし大森先生が桃佳を連れて行った部室は、まさかのホウケン違いの【放送研究会】だった!! 全国大会で上位入賞を果たしたら、大森先生と知財法のマンツーマン授業というエサに釣られ、桃佳はことの成り行きで放研へ入部することに。 果たして桃佳は12月の本選に進むことは叶うのか?桃佳の努力の日々が始まる! 【主な登場人物】 天沢 桃佳(19) 知的財産権の大森先生に淡い恋心を寄せている、S大学法学部の2年生。 不純な理由ではあるが、本気で将来は知的財産管理技能士を目指している。 法曹研究会と間違えて、放送研究会の門を叩いてしまった。全国放送コンテストに朗読部門でエントリーすることになる。 大森先生 S大法学部専任講師で放研OBで顧問 専門は知的財産法全般、著作権法、意匠法 桃佳を唆した張本人。 高輪先輩(20) S大学理工学部の3年生 映像制作の腕はプロ並み。 蒲田 有紗(18) S大理工学部の1年生 将来の夢はアナウンサーでダンス部と掛け持ちしている。 田町先輩(20)  S大学法学部の3年生 桃佳にノートを借りるフル単と縁のない男。実は高校時代にアナウンスコンテストを総ナメにしていた。 ※イラスト いーりす様@studio_iris ※改題し小説家になろうにも投稿しています

処理中です...