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プロローグ
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「貴方、もしかして……」
「そのまさかだよ。ただの人間が紅い月なんて代物持つわけないだろう?だが、吸血鬼である俺様ならその入手はいとも簡単にできる。最近になって紅い月の取引が増えたのも俺様のお陰ってわけさ」
「人間から吸血鬼になる事例なんてほとんどないのに。何故そんなことをしてるの?」
ブラッドムーン。通称「紅い月」。その注射を打てば、人から吸血鬼になることが可能。しかし、それはあくまでも可能性の話。実際はまだ試作段階のため、投与された者は痛みと苦しみを味わいながら数時間後には灰となって消える。つまり死ぬということだ。
人間は欲深い生き物。寿命が存在する人間にとっては喉から手が出るほど欲しいモノ。吸血鬼になれば、特別な力で人間を自由自在に操ることができ、回復スピードも人間とは比べるまでもなく早い。
永遠の若さ、不老不死の身体。そんな力を欲するのは自然の摂理だ。おかしいことじゃない。死ぬ確率が高くとも、奇跡的に生き残れる者、無事に吸血鬼になることができる例も確認されている。しかしながら、それは稀で仮に吸血鬼になれたとしても本物の吸血鬼とは違いデメリットのほうが多い。
「面白いからさ」
「面白い?」
「死ぬとわかっていても永遠の命を手に入れようとする必死な人間の姿が。見ていて実に滑稽だ。ただ傍観者として楽しんでいる俺様を止める権利はオマエにはないと思うんだが?」
「面白くなんてない」
「オマエはコレがまだ生きられると思ってるのか?」
「思ってる」
「どうしてそう言い切れる?」
「私が助けるから」
闇姫は悪に対しては殺意しか沸かない。だが、自分が一度信頼した相手にはどんなことがあっても助けると決めている。それが闇姫なりの覚悟でもあり、正義でもある。
「だったら見せてみろ。オマエの覚悟ってやつを」
「いわれなくてもそうする」
「と、その前に、だ」
「なに?」
「俺様はさっきから腹が減って仕方ねぇ。オマエの血をよこせ」
「!?」
―――ペロッ。
男は闇姫の首筋を舌で舐める。まずは様子見といったところか、男は味見をするかのように闇姫を味わう。
「やめ……っ」
「女らしい声も出せるんだな。闇姫と呼ばれていてもオンナであることは変わらない。俺様にもっと聞かせろ。オマエの甘い声を」
「私はそんな声を出した覚えはない」
―――ガブッ。
闇姫の一言にイラついたのか、男は勢いよく闇姫の首に噛みついた。
「!?はな、して……」
「……」
男は一瞬驚いた表情をして闇姫から離れた。男は闇姫の鋭い眼光に足がすくんだわけでも、嫌がっている姿を見て罪悪感を感じたわけでもない。
「まさか、オマエの血は……」
「貴方に私の血を渡すつもりはない。…私は彼を助ける。貴方は邪魔だから舎弟たちとどこかに消えて」
「言われなくてもそうする。はなから助けられないとわかっているのに、ココにいるのは時間の無駄だからな。それに、さっきから力を使ってるがオマエには全く効果がないみたいだからなぁ。…オマエら帰るぞ」
「力……?」
「了解っす、兄貴!」
男の掛け声と共に部下たちは男の後ろをついていく。男たちは闇の中へと姿を消した。
その場に残されたのは闇姫と少年だけ。少年は闇姫が男に殴られそうになったところを口で止めてみせたものの、未だに息が苦しそうだ。起き上がる気力もない少年は闇姫をジッと見つめていた。
「怪我はない?闇……姫」
「それはこっちのセリフ」
「僕は大、丈夫」
「大丈夫そうにはみえない」
ポケットからハンカチを取り出し、少年の汗を拭く闇姫。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「それよりも逃げたほうがいい」
「どうして?」
「僕が何をするかわからな、いから……」
副作用は個人差がある。死ぬ前に人に襲いかかったり、吸血鬼の力を抑えきれず暴走する者もいる。
「私は貴方を助けるって言ったでしょ?」
「でも……」
「でもじゃない」
「だけど、僕は君のことをなにも知らない」
「……忘れてしまったのね。それでも私は構わない」
闇姫の言葉がわからない。どういうことなの?と少年は首を傾げた。
「いいの、私が覚えてるならそれで。だけどね、敵のテリトリーに1人で来るのは感心しないわ。視察するなら今度は仲間を連れてこないと、ね」
闇姫は少年に忠告をすると、自分の腕をその場に落ちていたナイフで軽く切った。
「なにしてるの!?」
「こうでもしないと貴方を助けられない」
そういうと闇姫はポタポタと流れる血を少年の口元に落とした。
―――ドクン。少年の心臓の音がなる。
息を吹き返すように。それはまるで枯れてしまった花が水を与えられて喜ぶように。
「闇姫。あり、がと……」
「大した事はしてないわ。だからお礼なんていらない」
少年はさっきよりも自分の身体が楽になったのを感じていた。
「悔しい……、負けたことが」
闇姫に、女に助けられたことに対して泣いているのではない。ただ、男を目の前にして何もできず非力な自分を悔やんでいるのだ。吸血鬼と人間の力の差は圧倒的だ。それは言うまでもないだろう。だが、それを言い訳にするのは自分が弱いと認めているのと同じだ。
何故なら、闇姫はただの人間でありながら男に屈することなく最後まで戦ったのだから。
「僕は…強くなりたい。いつか最強と呼ばれるまでになって、さっきの奴らも闇姫のお前だって見返してやる」
「……そう、楽しみにしてるわ。またね、壱流」
「なんで僕の名前を……」
少年は安心したのか、その場で倒れこむように意識を失った。
その言葉を最後に少年は闇姫に会うことはなかった。
少女は闇のように現れ、闇のように消える。だから〝 闇姫 〟いつか誰かがつけた名前。
最初に闇姫に負けた男がつけたあだ名だとか、自分で名乗っていたとか、そうではないとか、本当の真実はそれもまた闇の中。
そんな闇姫はある日唐突に姿を消した。それから、数年が経った今でも闇姫が残した数々の伝説だけが残り、依然として闇姫の行方を知る者は誰一人としていなかった。
「そのまさかだよ。ただの人間が紅い月なんて代物持つわけないだろう?だが、吸血鬼である俺様ならその入手はいとも簡単にできる。最近になって紅い月の取引が増えたのも俺様のお陰ってわけさ」
「人間から吸血鬼になる事例なんてほとんどないのに。何故そんなことをしてるの?」
ブラッドムーン。通称「紅い月」。その注射を打てば、人から吸血鬼になることが可能。しかし、それはあくまでも可能性の話。実際はまだ試作段階のため、投与された者は痛みと苦しみを味わいながら数時間後には灰となって消える。つまり死ぬということだ。
人間は欲深い生き物。寿命が存在する人間にとっては喉から手が出るほど欲しいモノ。吸血鬼になれば、特別な力で人間を自由自在に操ることができ、回復スピードも人間とは比べるまでもなく早い。
永遠の若さ、不老不死の身体。そんな力を欲するのは自然の摂理だ。おかしいことじゃない。死ぬ確率が高くとも、奇跡的に生き残れる者、無事に吸血鬼になることができる例も確認されている。しかしながら、それは稀で仮に吸血鬼になれたとしても本物の吸血鬼とは違いデメリットのほうが多い。
「面白いからさ」
「面白い?」
「死ぬとわかっていても永遠の命を手に入れようとする必死な人間の姿が。見ていて実に滑稽だ。ただ傍観者として楽しんでいる俺様を止める権利はオマエにはないと思うんだが?」
「面白くなんてない」
「オマエはコレがまだ生きられると思ってるのか?」
「思ってる」
「どうしてそう言い切れる?」
「私が助けるから」
闇姫は悪に対しては殺意しか沸かない。だが、自分が一度信頼した相手にはどんなことがあっても助けると決めている。それが闇姫なりの覚悟でもあり、正義でもある。
「だったら見せてみろ。オマエの覚悟ってやつを」
「いわれなくてもそうする」
「と、その前に、だ」
「なに?」
「俺様はさっきから腹が減って仕方ねぇ。オマエの血をよこせ」
「!?」
―――ペロッ。
男は闇姫の首筋を舌で舐める。まずは様子見といったところか、男は味見をするかのように闇姫を味わう。
「やめ……っ」
「女らしい声も出せるんだな。闇姫と呼ばれていてもオンナであることは変わらない。俺様にもっと聞かせろ。オマエの甘い声を」
「私はそんな声を出した覚えはない」
―――ガブッ。
闇姫の一言にイラついたのか、男は勢いよく闇姫の首に噛みついた。
「!?はな、して……」
「……」
男は一瞬驚いた表情をして闇姫から離れた。男は闇姫の鋭い眼光に足がすくんだわけでも、嫌がっている姿を見て罪悪感を感じたわけでもない。
「まさか、オマエの血は……」
「貴方に私の血を渡すつもりはない。…私は彼を助ける。貴方は邪魔だから舎弟たちとどこかに消えて」
「言われなくてもそうする。はなから助けられないとわかっているのに、ココにいるのは時間の無駄だからな。それに、さっきから力を使ってるがオマエには全く効果がないみたいだからなぁ。…オマエら帰るぞ」
「力……?」
「了解っす、兄貴!」
男の掛け声と共に部下たちは男の後ろをついていく。男たちは闇の中へと姿を消した。
その場に残されたのは闇姫と少年だけ。少年は闇姫が男に殴られそうになったところを口で止めてみせたものの、未だに息が苦しそうだ。起き上がる気力もない少年は闇姫をジッと見つめていた。
「怪我はない?闇……姫」
「それはこっちのセリフ」
「僕は大、丈夫」
「大丈夫そうにはみえない」
ポケットからハンカチを取り出し、少年の汗を拭く闇姫。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「それよりも逃げたほうがいい」
「どうして?」
「僕が何をするかわからな、いから……」
副作用は個人差がある。死ぬ前に人に襲いかかったり、吸血鬼の力を抑えきれず暴走する者もいる。
「私は貴方を助けるって言ったでしょ?」
「でも……」
「でもじゃない」
「だけど、僕は君のことをなにも知らない」
「……忘れてしまったのね。それでも私は構わない」
闇姫の言葉がわからない。どういうことなの?と少年は首を傾げた。
「いいの、私が覚えてるならそれで。だけどね、敵のテリトリーに1人で来るのは感心しないわ。視察するなら今度は仲間を連れてこないと、ね」
闇姫は少年に忠告をすると、自分の腕をその場に落ちていたナイフで軽く切った。
「なにしてるの!?」
「こうでもしないと貴方を助けられない」
そういうと闇姫はポタポタと流れる血を少年の口元に落とした。
―――ドクン。少年の心臓の音がなる。
息を吹き返すように。それはまるで枯れてしまった花が水を与えられて喜ぶように。
「闇姫。あり、がと……」
「大した事はしてないわ。だからお礼なんていらない」
少年はさっきよりも自分の身体が楽になったのを感じていた。
「悔しい……、負けたことが」
闇姫に、女に助けられたことに対して泣いているのではない。ただ、男を目の前にして何もできず非力な自分を悔やんでいるのだ。吸血鬼と人間の力の差は圧倒的だ。それは言うまでもないだろう。だが、それを言い訳にするのは自分が弱いと認めているのと同じだ。
何故なら、闇姫はただの人間でありながら男に屈することなく最後まで戦ったのだから。
「僕は…強くなりたい。いつか最強と呼ばれるまでになって、さっきの奴らも闇姫のお前だって見返してやる」
「……そう、楽しみにしてるわ。またね、壱流」
「なんで僕の名前を……」
少年は安心したのか、その場で倒れこむように意識を失った。
その言葉を最後に少年は闇姫に会うことはなかった。
少女は闇のように現れ、闇のように消える。だから〝 闇姫 〟いつか誰かがつけた名前。
最初に闇姫に負けた男がつけたあだ名だとか、自分で名乗っていたとか、そうではないとか、本当の真実はそれもまた闇の中。
そんな闇姫はある日唐突に姿を消した。それから、数年が経った今でも闇姫が残した数々の伝説だけが残り、依然として闇姫の行方を知る者は誰一人としていなかった。
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