最強総長は闇姫の首筋に牙を立てる~紅い月の真実~

星空永遠

文字の大きさ
上 下
2 / 31
プロローグ

2

しおりを挟む
「貴方、もしかして……」
「そのまさかだよ。ただの人間が紅い月ブラッドムーンなんて代物持つわけないだろう?だが、吸血鬼である俺様ならその入手はいとも簡単にできる。最近になって紅い月ブラッドムーンの取引が増えたのも俺様のお陰ってわけさ」

「人間から吸血鬼になる事例なんてほとんどないのに。何故そんなことをしてるの?」

ブラッドムーン。通称「紅い月」。その注射を打てば、人から吸血鬼になることが可能。しかし、それはあくまでも可能性の話。実際はまだ試作段階のため、投与された者は痛みと苦しみを味わいながら数時間後には灰となって消える。つまり死ぬということだ。

人間は欲深い生き物。寿命が存在する人間にとっては喉から手が出るほど欲しいモノ。吸血鬼になれば、特別な力で人間を自由自在に操ることができ、回復スピードも人間とは比べるまでもなく早い。

永遠の若さ、不老不死の身体。そんな力を欲するのは自然の摂理だ。おかしいことじゃない。死ぬ確率が高くとも、奇跡的に生き残れる者、無事に吸血鬼になることができる例も確認されている。しかしながら、それは稀で仮に吸血鬼になれたとしても本物の吸血鬼とは違いデメリットのほうが多い。

「面白いからさ」
「面白い?」

「死ぬとわかっていても永遠の命を手に入れようとする必死な人間の姿が。見ていて実に滑稽こっけいだ。ただ傍観者として楽しんでいる俺様を止める権利はオマエにはないと思うんだが?」
「面白くなんてない」

「オマエはコレがまだ生きられると思ってるのか?」
「思ってる」

「どうしてそう言い切れる?」
「私が助けるから」

闇姫は悪に対しては殺意しか沸かない。だが、自分が一度信頼した相手にはどんなことがあっても助けると決めている。それが闇姫なりの覚悟でもあり、正義でもある。

「だったら見せてみろ。オマエの覚悟ってやつを」
「いわれなくてもそうする」

「と、その前に、だ」
「なに?」

「俺様はさっきから腹が減って仕方ねぇ。オマエの血をよこせ」
「!?」

―――ペロッ。

男は闇姫の首筋を舌で舐める。まずは様子見といったところか、男は味見をするかのように闇姫を味わう。

「やめ……っ」
「女らしい声も出せるんだな。闇姫と呼ばれていてもオンナであることは変わらない。俺様にもっと聞かせろ。オマエの甘い声を」

「私はそんな声を出した覚えはない」

―――ガブッ。

闇姫の一言にイラついたのか、男は勢いよく闇姫の首に噛みついた。

「!?はな、して……」
「……」

男は一瞬驚いた表情をして闇姫から離れた。男は闇姫の鋭い眼光に足がすくんだわけでも、嫌がっている姿を見て罪悪感を感じたわけでもない。

「まさか、オマエの血は……」
「貴方に私の血を渡すつもりはない。…私は彼を助ける。貴方は邪魔だから舎弟たちとどこかに消えて」

「言われなくてもそうする。はなから助けられないとわかっているのに、ココにいるのは時間の無駄だからな。それに、さっきから力を使ってるがオマエには全く効果がないみたいだからなぁ。…オマエら帰るぞ」
「力……?」
「了解っす、兄貴!」

男の掛け声と共に部下たちは男の後ろをついていく。男たちは闇の中へと姿を消した。

その場に残されたのは闇姫と少年だけ。少年は闇姫が男に殴られそうになったところを口で止めてみせたものの、未だに息が苦しそうだ。起き上がる気力もない少年は闇姫をジッと見つめていた。

「怪我はない?闇……姫」
「それはこっちのセリフ」

「僕は大、丈夫」
「大丈夫そうにはみえない」

ポケットからハンカチを取り出し、少年の汗を拭く闇姫。

「ありがとう」
「どういたしまして」

「それよりも逃げたほうがいい」
「どうして?」

「僕が何をするかわからな、いから……」

副作用は個人差がある。死ぬ前に人に襲いかかったり、吸血鬼の力を抑えきれず暴走する者もいる。

「私は貴方を助けるって言ったでしょ?」
「でも……」

「でもじゃない」
「だけど、僕は君のことをなにも知らない」

「……忘れてしまったのね。それでも私は構わない」

闇姫の言葉がわからない。どういうことなの?と少年は首を傾げた。

「いいの、私が覚えてるならそれで。だけどね、敵のテリトリーに1人で来るのは感心しないわ。視察するなら今度は仲間を連れてこないと、ね」

闇姫は少年に忠告をすると、自分の腕をその場に落ちていたナイフで軽く切った。

「なにしてるの!?」
「こうでもしないと貴方を助けられない」

そういうと闇姫はポタポタと流れる血を少年の口元に落とした。

―――ドクン。少年の心臓の音がなる。
息を吹き返すように。それはまるで枯れてしまった花が水を与えられて喜ぶように。

「闇姫。あり、がと……」
「大した事はしてないわ。だからお礼なんていらない」

少年はさっきよりも自分の身体が楽になったのを感じていた。

「悔しい……、負けたことが」

闇姫に、女に助けられたことに対して泣いているのではない。ただ、男を目の前にして何もできず非力な自分を悔やんでいるのだ。吸血鬼と人間の力の差は圧倒的だ。それは言うまでもないだろう。だが、それを言い訳にするのは自分が弱いと認めているのと同じだ。
何故なら、闇姫はただの人間でありながら男に屈することなく最後まで戦ったのだから。

「僕は…強くなりたい。いつか最強と呼ばれるまでになって、さっきの奴らも闇姫のお前だって見返してやる」
「……そう、楽しみにしてるわ。またね、壱流いちる

「なんで僕の名前を……」

少年は安心したのか、その場で倒れこむように意識を失った。
その言葉を最後に少年は闇姫に会うことはなかった。

少女は闇のように現れ、闇のように消える。だから〝 闇姫 〟いつか誰かがつけた名前。
最初に闇姫に負けた男がつけたあだ名だとか、自分で名乗っていたとか、そうではないとか、本当の真実はそれもまた闇の中。

そんな闇姫はある日唐突に姿を消した。それから、数年が経った今でも闇姫が残した数々の伝説だけが残り、依然として闇姫の行方を知る者は誰一人としていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

処理中です...