ヴァンパイアは自分の親友である妹を離さない

星空永遠

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「翼お兄ちゃん、実は……」

倒れたあと、病院に連絡してくれたのは親友さん。だけど、そこからの事情は何も知らないらしく。

元々、身体が弱いことも翼お兄ちゃんは親友さんに話していなかった。
優しい翼お兄ちゃんのことだ。親友さんに迷惑をかけたくなくて、いまの今まで黙っていたんだろう。

「翼の出席日数がギリギリなのは学校をよく休んでいたから、なんとなく察していたが、まさか進級も危ないとはな」

「そうなんです」

「だからってお前じゃ翼の代わりは無理だ。第一俺がむり」

「知らない人が同居人なんて嫌ですよね」

「そうじゃない」

「え?」

「俺は女が嫌いなんだ。だから今すぐ俺の前から失せろ」

「そんなこと言わないでください! 翼お兄ちゃんの単位が危ないんです。私が頑張らないと!!」

思わずガシッ! と、親友さんの腕を掴んでしまった。

「なら家から通えよ。大体、中学生に高校の勉強がわかるわけねぇだろ! つか離れろ!」

「ぎゃ!」

私は振り払われた衝撃でバランスを崩し、転んだ。
その拍子に右手をケガした。

「大丈、夫か? ……わかったら帰れ」

一瞬、私のことを心配そうにしていたが、けして私に手を差し伸べることはしなくて。

「ケガのこと、気にしなくて大丈夫ですから。そもそも、女嫌いな貴方に触れた私が悪いので。
高校生の男の人って怖いですもんね。私なんかじゃ翼お兄ちゃんの代わりになんてなれない……っ」

ケガした痛みなのか、それとも親友さんに兄の代わりは無理だと言われたから?
込み上げてきた感情で私は泣いてしまった。

親友さんもいきなり泣き出されたら困るよね。それに女が嫌いって言ってたし。

「っ……! やめ、ろ」

「ごめん、なさい。すぐ涙ふきますので」

「そうじゃない! 女は嫌いなはずなんだ、なのに!!」

ドサッ。なんの音だろう?
気がつくと私の上には親友さんがいて……。

「えっと、翼お兄ちゃんの親友さん?」

蒼炎そうえんだ。俺の名は夜桜蒼炎」

夜桜よざくら蒼炎そうえん……」

とても綺麗な名前。そう思った。

夜桜先輩は一向に私の上から退けてくれない。
これって押し倒されてるんだろうか。それとも、たんに涙を止めようと励ましてくれてる?

「お前は俺の正体を知らないのか?」

「正体?」

「翼はお前に話してないんだな」

「?」

さっきから夜桜先輩の瞳が変だ。
元々、黒だったのにちらちらと青になったり、黒に戻ったりしてる。

「特に夜は制御しずらいってのに」

「制御?」

「大体、この学園は男子校だ。女一人だと、どれだけ危険かお前はわかってるのか?」

「男子校ぉぉぉぉ!?」

「静かにしろ。外に女声が響いたら俺が怪しまれるだろ」

「っ…!」

だからって、口塞ぐことないじゃん!

夜桜先輩の手が触れただけなのに何故かドキドキする。
私、翼お兄ちゃん以外の男の人に触れられたことなんてないし。

女嫌いって言ってるのに、私が見つからないように助けてくれた。
本当は翼お兄ちゃんが言ってたように夜桜先輩は優しい人なのかな?

「蒼炎、翼。夜に、なーに騒いでんだ?」

!? 
ドアの向こうから声がした。

「バカ! お前が大声を出すからだぞ」
 
「ご、ごめんなさい」

「蒼炎? 翼? 大丈夫かぁー?」

「な、なんでもねぇよ」

「蒼炎、いつもより動揺してね? まさかそっちで何かあったんじゃ……開けてもいいか?」

「バッ! ……月城つきしろ紫音しおんとかいったか?」

「は、はい」

夜桜先輩は外に声が漏れない程度に、私に話しかける。

「翼を助けたいなら俺以外に正体をバラすな。いいな? それがお前を助ける唯一の条件だ」

「わ、わかりました」

「俺のことは蒼炎と呼べ。翼はいつもそう呼んでる。あとタメ口な。それと、今から俺がすることにもお前はいつも通りの翼のようにしてろ。声を上げることは禁止だし、驚くのもダメだ。わかったか?」

「うん、わかった」

夜桜先輩が私を守ってくれる?

どうして? 私のこと苦手なんじゃ…。

それに、翼お兄ちゃんにいつもしてることってなんなの?

「蒼炎~?」

ガチャ。

「っ……!!」

扉が開くと同時に私は夜桜先輩にグイッと引き寄せられ、そのままケガしてる右手を舐められた。

「ふっ……。んっ……! 蒼、炎」

名前は呼べたけど、声はおさえられなかった。

夜桜先輩には口パクでバカと言われた。やっぱりひどい。

白虎びゃっこか。どうした?」

「んにゃ。オマエたちの様子がヘンだなーと思って心配で見にきただけ。なーんだ、いつも通り吸血中かぁ」

どうやら私の声は聞こえていなかったらしい。

この先輩は白虎? 先輩っていうんだ。
翼お兄ちゃんとはどういう関係なんだろ。

それに、いつも通りの吸血中ってなに!?

「翼。お前の血、首からもらってもいいか?」

「はっ……あ、あぁ。いいよ。蒼炎なら」

咄嗟の切り替えが難しい。これで合ってるのかな?

「蒼炎は相変わらず翼以外はダメなのかぁ」

「ん……」

ガブッ。

首筋に牙がプツリと入る。
想像してたよりもずっと痛い。

なんで私、誰かに見られながら血を吸われているの?

それに夜桜先輩の正体って…?

ふと私は小さい頃、翼お兄ちゃんが読んでくれた絵本が頭の片隅によぎった。

人間の血を吸って生きる、人ならざるものが世の中には存在していると。その名はヴァンパイア。

あぁ。どうして、そんなことを今思い出すのだろう?

「翼?」

「蒼炎、まーた翼を気絶させたのか?」

「そうみたいだ。俺は翼を看病するからお前は部屋に戻ってろ」

「はいはーい。お邪魔しましたよっと」

バタン。


「蒼炎、いつもより吸血時間が長かったなぁ。……よっぽど美味しかったんだろうな、極上の血は。オレもいずれ彼女を味見させてもらおっと」
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