ヴァンパイアは自分の親友である妹を離さない

星空永遠

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「翼……お前、女だったのか?」

「え?」

「そんなわけねぇよな。お前は一体誰なんだ?」

ワケあって、兄の格好をしていた私は初日で同居人に女だとバレました。

「俺、女は嫌いなんだ。いつもギャーギャーうるせぇし、何かあればすぐ泣くし。香水クセーのが一番やだね」

「私、香水なんかつけてな……っ」

「とにかく俺に近付くんじゃねぇ。とっとと翼と会わせろ」

「……」

最初は散々の言われようで。私は女だからって理由で嫌われていた。
なのに…

『俺を好きになれよ』

『え!?』

『お前は特別なんだ』

『お前からは甘いケーキみたいな匂いがする』

『俺から離れるな』

『っ……!』

何故かある日をキッカケに溺愛されるようになりました。

『お前の血は全部、俺だけのものだから』

私は捕まってしまった。

強くて、本当は誰よりも優しくて、壊れそうな、美しいヴァンパイアに。それは1週間前に遡る。


☆   ☆   ☆


「お兄ちゃんが倒れた!?」

学校帰り。私はママからの電話で、兄が病院に運ばれたことを知った。

翼お兄ちゃんは氷山高校に通う二年生。
いつも笑顔を絶やさない人で、私は怒られたことがない。

喧嘩だってしたことがないくらい、近所では仲良し兄妹として有名だ。だけど、翼お兄ちゃんはあまり身体が強いほうじゃない。出席日数も実はギリギリで次に倒れたら進級も危ないかも…なんて担任の先生から言われていた。

「翼お兄ちゃん!!」

「紫音」

「翼お兄ちゃん。大丈夫!?」

「倒れた場所が学園の寮だったからね。親友が助けてくれたんだ。やっぱり持つべきものは優しい友達だね」

「そっか……。無事で良かった」

私は安心したのか肩の力が抜け、その場に座り込んだ。

「だけど主治医の先生曰く、また入院しないといけなくなっちゃって進級は難しいかも。まあ、進級より命の方が大事だしね。親友と離れるのは寂しいけど」

「翼お兄ちゃん……」

翼お兄ちゃんは遠くを見つめていた。

私が翼お兄ちゃんと同じ立場だったなら…。仲良しだった友達は上の学年に上がって、自分だけがもう一度同じ学年をやる。考えただけでも続けられるか不安になる。

なにか私にできることはないだろうか。そう考えていると、ひとつの答えにたどりついた。

「私、翼お兄ちゃんの代わりになれないかな」

「え?」

「私、中学生だから出席日数とか気にしなくていいし! 中学生だけど、翼お兄ちゃんと身長そんなにかわんないし。それに、胸に関してはぺったんこだし!!」

自分で言ってて悲しくなってきた。 

「紫音の気持ちはすごくありがたいけど。でも、僕の高校は…」

「とにかく、翼お兄ちゃんは自分の身体の心配だけすればいいの! 私なら大丈夫。演技は幼稚園の頃に木の役とかしたし!!」

「木の役って……。ちょ、紫音!?」

私は翼お兄ちゃんの話を最後まで聞くことなく家に戻った。

「ネクタイはこんな感じかな?意外と結ぶの難しいなぁ」 

翼お兄ちゃんの制服を着た私は男の格好をするために準備中。

腰よりも長い黒髪を頭の上で1つにまとめて、っと。
翼お兄ちゃんと同じ長さのウィッグを被った。

「なかなかいい感じじゃない!?」

元々、胸がないからブラとかしてないし。一応スポブラくらいはしてるけど。でも、怪しまれないようにサラシだけは巻いとくか。

翼お兄ちゃんは寮暮らし。同居人は優しい親友だって、いつも話してくれた。
私も会うのが楽しみ!

もしも、女だってバレても秘密にしてくれそうだし。

準備もできたし、翼お兄ちゃんの学校に向かいますか!


そして、今に至る。なんで女だとバレたかって?

季節は梅雨に突入したばかり。

そりゃあ、急に雨も降ってきたり。

傘を忘れた私は、寮の自室で着替えていた。
が、そこにタイミング悪く同居人が…。

うかつすぎ! 私のバカ……。

「翼じゃねぇなら、お前は誰なんだ? 返答次第では始末することになるが」

「は? へ?」

始末!? 今、とても物騒な単語が聞こえたような……?

正体って、私が女であることはすでにバレてるのでは? それ以外なにがあるっていうの?
頭の中でぐるぐる考えて、ついには思考停止。

「答えなきゃ今すぐ殺すぞ」

「わ、私は月城つきしろ紫音しおんです。兄の翼お兄ちゃんがいつもお世話になってます!
答えたので殺さないでください」

「月、城? 翼がよく話してた妹か」

「え…私の話を?」

「お前、中学生だろ。ガキはさっさと家に帰れ。それより翼に会わせろ」

私が中学生だってことまで知ってるの?

翼お兄ちゃん、親友さんに私の事どこまで話したんだろう?
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