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Ⅲ それは初めての

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「闇華ってさ」
「なに?」

「お前って処女?」
「っ!?なっ…なんて質問するのよ!」

セクハラはやめて。って壱流をバシバシ叩く。

「その反応で察したわ」
「なにを?」

「裏社会で男だらけのたまり場にいたくせによく今まで無事だったよな」
「私を誰だと思ってるの?」

「その殺気、久しぶりに闇姫って感じがするわ」

久しぶりって…。ひどくない?  ブランクは長かったとはいえ、今は闇姫としてそれなりに活動してるのに。

「安心した」
「壱流?」

正面からギュッとされた。それは壊れ物を扱うみたいに。

「俺が初めてじゃないとか言われるとダメージでかくて立ち直れなくなる」
「仮に初めてじゃなかったとしても前の人と比べることはしないから」

「つーか意外だわ。闇華はそういうの知らなそうだから」
「できるだけ避けてきたつもりだけど裏社会だとそういうの、普通にあるでしょ?変な薬や女を誘拐なんてのも」

「つまり苦手ってことか?」
「したことないからわからないわ。でも、好きな人なら別なんじゃないの?」

これってする流れ…のような、空気が流れてる。私も素直に答えちゃったけど、心の準備は全然できてない。

「そんな可愛いこというと本当に襲うからな」
「本当にってどういうこと?」

「いきなり襲いかかるってことだよ」
「それは困るわ」

「だろうな。俺も今すぐにそんなことはしない。だから安心していいぞ」
「しないの?」

「やみか~」
「ごめん」 

煽るなと怒られてしまった。

「そういうの苦手とか言ったばかりの相手を襲うほど、俺も甲斐性なしじゃねーよ」
「今まで無理やりしておいてそれをいうの?」

「無理矢理じゃない。本当に拒否られたら俺だってやめる」

知ってる。壱流の優しさはとっくに伝わってるから。

「だけどな」
「なに?」

「理性がいきなり飛ぶこともある。その時はそれなりの覚悟をしておけ」
「わ、わかった」

恥ずかしさのあまり顔を背けて頷く。
私もいつかは壱流とそういうことをする日が来るんじゃないかって思ってる。それは男女の関係になった以上、避けられないから。年頃の人はほとんどみんなしてるのよね…。

気持ち良さより痛さのほうが勝つかもしれない。恐怖で身体が思うように動かないかも。だけど、それ以上に壱流に触れられたいって思ったりもして。愛を今よりももっと感じられて、壱流と1つになれるのなら、そんな行為も悪くないかもしれない…。

「闇華がそういうの苦手なのはわかった。けど、それとこれとは話が別だよな?」
「え?」

「俺に負けた分は身体で払ってもらうからな」
「じ、焦れったいのは嫌だから済ませるなら早くしなさい」

「作業じゃねぇんだから。つーか闇華、こういう雰囲気になると余裕なさすぎ」

わ、笑われた…。壱流も初めてなはずなのに私より余裕そう。

「試してみるか」
「試すって?」

「闇華がどこまで耐えられるか」

!?

「せめて喧嘩にして」
「喧嘩だと本気を出せない俺に勝ち目ねえだろ」

「手加減しなくていい」
「バカ」

頭をコツンと叩かれた。

「惚れてる女をガチで殴るとか出来るわけねぇだろ」
「…っ」

「俺、やらしー雰囲気とか作るの苦手だからさ」
「え、ええ?」

「無理やりそっちに持ち込むことにする」
「壱流…?」

ーーードサッ。

ベッドに突然押し倒された。

「これでお前も意識するだろ?」
「壱流が男だってことは知って…」

「違う」
「え?」

「今から俺にいやらしいことされるって意味」
「なっ……!」

私の顔が見る見る赤くなっていくのを見ながら、壱流は私の服を脱がし始めた。

「ちょ」
「濡れたままだと風邪引くぞ」

「だったらシャワー貸して」
「俺と一緒に風呂に入りたいって?」

「そんなこといってない」
「シャワー浴びる前に闇華に触れたい」

「……す、すこしだけなら」

あんまり我慢ばかりさせるのは良くないって幻夢から言われたことを思い出していた。
壱流は私に触れたいと思ってる?  恥ずかしいけど、恋人にそう思われるのは素直に嬉しい。

「闇華の胸ってさ」
「言わないで」

「なんで?」
「小さいの…気にしてるから」

「胸の大小なんて気にならねえよ」

だったら、なんて言おうとしたの?  先を聞くのが怖くて遮ってしまった。

「柔らかいよなって言うつもりだった」
「……」

優しく胸に触れられた。

「幻夢には壁みたいだっていわれたのに」
「あの野郎…。俺だって触ってなかったのに」

「そんなに触りたかったの?」

興味があるなんて意外。壱流でもって言い方は失礼だけど、今までそんな話を聞いたことがなかったから。

「触りたいに決まってる。俺は闇華のすべてに触れたい」
「全部は恥ずかしいから」

「わかってる。だけど今、俺に胸を触れられて嫌じゃないんだろ?」
「嫌じゃない」

「俺的には甘い声も聞きたいんだけどな」

甘い声……?

「続きしてもいいよな」
「わざわざ聞かないで」

「言わせるのがいいんだろ?」
「壱流の考えてることがわからないわ」

「闇華は好きな人をいじめる男の気持ちを少しは理解すべきだ。じゃないと……」

!?

「気付かないうちに溺れることになるぞ」
「……ッ」

胸を触られながら口の中になにか入ってきた。これがキスよりもすごいこと?

「なぁ闇華。お前は誰のことが好きなんだ?」
「壱流のことが好き。何度も言わせないで」

「それを何度も口にすればお前は俺以外のことを考えられなくなる。まるで呪いみたいだな」
「呪いだと不穏な感じがするのだけど?」

「俺と離れられなくなる呪いなら嬉しいだろ?」
「嬉…しい」
 
壱流は時々私が思いつきもしないような言動や行動をする。そのたび驚いてしまう。これが呪いだというのなら、私は壱流の呪いを解くことはしない。どうか、壱流にかけられた呪いが解けませんように。

「それと休日に出かけるのに制服はねぇだろ」
「ここに来るつもりはなかったから」

「可愛い私服、少しは期待してたんだぞ」
「壱流に会う予定もなかったし…」

「今度は可愛いの、期待していいんだな?」

今度?

「制服は似合ってないって言いたいの?」
「そういうわけじゃない。そこは言いたいことわかるだろ」

「わかるわ。でも次っていつ?」
「夏休みに入るんだからどこでも行けるだろ。恋人になったのにデートもしないつもりか?」

「したほうが壱流は嬉しい?」
「当然だ。下着も可愛いのつけとけよ」



「…変態。今、色気のない下着だって思った?」
「闇姫らしー下着だなって」

「それ、絶対褒めてないわよね」

胸を触れたときボタンを2つ外されていた。そのせいでチラッと見えている下着。

「ちなみに下はどんなの履いてんだ?」
「いい加減にして」

スカートを捲られそうになり手でおさえた。

「冗談だって。それは本番のお楽しみだから」
「ほ、本番って……何言ってるの」

いつするかもわからないのに。

「闇華が結婚するまでしたくないっていうなら俺はしないぞ」
「我慢できるの?」

「俺たち吸血鬼の命は永遠なんだ。そのくらい待てるさ」
「さっきまでの軽さはなんだったのよ」

「だから俺の理性が飛んだらそんなことも考えられないってこと。やっぱり闇華は男のことがわかってねぇな」

わからないわ。付き合ったこともなければ私は戦いばかりだったから。


それから私は壱流といろんな話をして、気がつけば2人で一緒にベッドで寝ていた。
壱流とデート、か。夏だし海とか夏祭り?そんな場所もあんまり行く機会がなくて。幻夢と1度だけ海を見た思い出はあるけれど、それだけ。

『 ただ海を見るのも悪くないですけど、次は姉貴の水着見たいです!』
『それなら今度は仲間たち皆で来ましょう』

『だったらセクシーな水着がいいです!黒ビキニとかどうですか!?』
『中学生でそんなの着てる人なんて…』

『 断崖絶壁の姉貴でも絶対似合いますって!……いてっ』
『 馬鹿なこと言ってないで早く帰るわよ』


「……幻夢っ!!」

飛び起きてしまった。横で寝ているのは壱流。
さっきのは夢…だったのね。私が大声を出したにも関わらず壱流はぐっすり。

「目が覚めてしまった」

私はベッドから起き上がると部屋を出た。

「月が綺麗、ね」

壱流が仕切る町はそれなりに安全だ。私のことを知る人が多いし、いきなり襲いかかってくることはほとんどない。それがあるとしたら敵。
ヤクザは基本的に夜に活動すると聞いたけれど今日はやたら静かね。みんな寝ているのかしら?

「どうか幻夢が怪我をしてませんように」

私は月に祈る。神に祈っても、その場しのぎであることは変わらないのに願わずにはいられない。

「なに、これ…」

私はふと自分の手を見た。手の平になにか数字のようなものがあるけど、はっきりとはわからない。

「なにかのカウントダウンみたいだなァ」
「!?」

「俺様に背後をとられただけで、ナイフを投げつけてくるのは物騒だな。それと久しぶりだなァ、闇姫」
「狗遠……」

それは久しぶりの再会。
狗遠、どうして貴方が壱流の領域テリトリーにいるの?  以前のように敵対はしていない。けれど油断はできない。油断が命取りになるのは不良やヤクザの中では常識だ。
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