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Ⅱ 別れは唐突に
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「幻夢…?」
そこにいたのは紛れもなく…幻夢だった。毎日学校で会っているのに、普段とはあきらかに様子が違っていて。
「あぁ。姉貴」
「なにを、やっているの?」
目の前の光景に私は呆然と立ち尽くすしかできなかった。
今すぐ止めないといけない。頭では理解していても身体は一歩も動かなくて。
「なにって?掃除ですよ、掃除」
「掃除?」
「そうです。…僕の舎弟の中に裏切り者がいたんです」
「理由を聞いたの?」
「いいえ」
「理由も聞かず切りつけたの?」
「そうです」
「……」
幻夢の足元には横たわってる人がいて。それは私の家族でもあり、幻夢を慕う舎弟の1人だった。微かに息があり、死体と呼ぶには大げさで、だけど生きている人間としては酷すぎて。
これを幻夢が殺ったという事実を受け入れることが出来ずにいた。仲間を物みたいに扱っている幻夢を見て、私は初めて彼を怖いと感じた。
「家族っていうのはお互いに信頼し合うもの。なのにコイツは僕を裏切った。これは制裁を加えないとって、そう思ったんです」
「信頼は大事だと教えたわ。でも彼にだって何か理由があったはずよ」
「理由って、たとえばどんな?」
「家族を人質に取られてたとか…。大体裏切りって一体どこの」
「そんなの知りませんよ」
「知らないって…。だったら尚更傷つけることに意味なんて」
「姉貴、いつからそんなに甘い考えになったんですか?」
「え?」
「以前の姉貴ならそんなことは言いませんでしたよ。…やっぱり壱流さんの影響で変わったんですかね」
ねぇ、幻夢。私、そんなに変わった? 自分では自覚がないけれど、悪い方向に、ダメな方にむかってる? 私から見たら幻夢のほうが変わったわ。
「いま壱流は関係ないでしょ。それよりも貴方のほうが心配よ。仲間が貴方を探してる。…たまり場に何日も戻ってないそうね」
「僕のことが心配?大して好きでもない僕のことを姉貴が?」
「好きでもないって…私は幻夢を家族と思ってるって何度も伝えたはずでしょ?」
「僕は…姉貴の中の家族カテゴリーに入れられるのが嫌なんです!」
「なにいって」
「だって、そうでしょう?姉貴の中じゃ自分が守るべきものはみんな家族で、大事な人はたった1人。それ以外はみんな敵」
「幻夢、私は…」
「図星をつかれて何もいえないんですか?」
そうじゃない。幻夢、今の貴方に何を言っても伝わらないかもしれない。
だって幻夢も仲間である舎弟(彼ら)のことを家族だって言っていた。私を仲間に入れてくれたあの日、家族だって最初に言ったのは貴方のほうなのに。
『あなたが伝説の闇姫!?まさか本当に実在していたなんてびっくりです』
『…ただの家出少女が闇姫に?それで居場所がないとか笑えないですね』
『あなたが良ければ僕らの仲間になりませんか?』
『ここでは仲間のことを家族っていうんです。だからあなたも今日から僕たちの家族です。これからよろしくお願いします!』
「幻夢、忘れてしまったの?」
「忘れたもなにも嫌だって言ってるじゃないですか。僕は言いましたよね?姉貴のことが好きだって」
「!」
「1人の女性として見てるって。姉貴こそ、僕に告白されたこと忘れたんですか?」
「忘れてないわ。でもあの告白は」
「断りましたよね。しってます」
「だったら…」
「だけど諦めてませんから」
私を壱流から引き離してまで自分と結ばれようとするつもり? あなたはそれでいいの?
私の意思を無視してまでそんなことをするのは貴方らしくない。っていったら、また怒らせてしまうのだろうか。
『余計なお世話です』『僕らしさって姉貴が僕の何を知ってるんですか?』って。
自分では幻夢のことを理解してるつもりだった。でも、それは「つもり」なだけで、私は幻夢のことを何一つわかっていなかったんだ。
「僕、決めたんです。姉貴を守れるくらい強い男になってみせるって」
「幻夢、あなたはもう十分強いわ」
「こんなんじゃ足りない」
「…」
「足りないんですよ。…狗遠との戦いのとき、壱流さんが暴走したとき、前線にいたのはいつも姉貴だった」
「幻夢も手伝ってくれた。私のワガママに最後まで付き合ってくれて。私はあのとき凄く助かったの」
「最終的に2人を救ったのは姉貴でしょう?」
「それはみんなの助けがあったからで」
私1人じゃきっとなにも出来なかった。狗遠と戦うときだって本当は怖くて立ち止まりそうになった。だけど幻夢が心が折れそうな私を支えてくれた。だから私は壱流を救うことができた。
「すみません姉貴。そろそろ時間みたいです」
「時間?誰かと約束でも…。もしかして幻夢、あなた……っ!?」
後ろに鋭い痛みが走り、私はその場で倒れた。
「姉貴!」
「…やっぱり幻夢の姉貴は侮れないね。勘がいい人は長生きできないっすよ、闇姫センパイ」
「あな、たは?」
殴られた衝撃で意識がはっきりしない。私としたことが油断した。普段ならぜったい背後をとらせないのに。
「闇姫センパイのためにまさか無実の仲間を刺すなんてね、びっくりっすよ」
「それは貴方がそうしろって言ったからです」
「あれ?そうでしたっけ?」
「……」
「冗談っすよ。だからそんな怖い顔で睨まないで?」
「これが僕の覚悟です」
「本気なのは十分に伝わったっすよ」
「…」
幻夢はだれと話しているの?深くフードを被って顔が相手の顔がよく見えない。
だけど、どうしてだろう。どこかで聞き覚えのある声。私はこの人をしっている。
そこにいたのは紛れもなく…幻夢だった。毎日学校で会っているのに、普段とはあきらかに様子が違っていて。
「あぁ。姉貴」
「なにを、やっているの?」
目の前の光景に私は呆然と立ち尽くすしかできなかった。
今すぐ止めないといけない。頭では理解していても身体は一歩も動かなくて。
「なにって?掃除ですよ、掃除」
「掃除?」
「そうです。…僕の舎弟の中に裏切り者がいたんです」
「理由を聞いたの?」
「いいえ」
「理由も聞かず切りつけたの?」
「そうです」
「……」
幻夢の足元には横たわってる人がいて。それは私の家族でもあり、幻夢を慕う舎弟の1人だった。微かに息があり、死体と呼ぶには大げさで、だけど生きている人間としては酷すぎて。
これを幻夢が殺ったという事実を受け入れることが出来ずにいた。仲間を物みたいに扱っている幻夢を見て、私は初めて彼を怖いと感じた。
「家族っていうのはお互いに信頼し合うもの。なのにコイツは僕を裏切った。これは制裁を加えないとって、そう思ったんです」
「信頼は大事だと教えたわ。でも彼にだって何か理由があったはずよ」
「理由って、たとえばどんな?」
「家族を人質に取られてたとか…。大体裏切りって一体どこの」
「そんなの知りませんよ」
「知らないって…。だったら尚更傷つけることに意味なんて」
「姉貴、いつからそんなに甘い考えになったんですか?」
「え?」
「以前の姉貴ならそんなことは言いませんでしたよ。…やっぱり壱流さんの影響で変わったんですかね」
ねぇ、幻夢。私、そんなに変わった? 自分では自覚がないけれど、悪い方向に、ダメな方にむかってる? 私から見たら幻夢のほうが変わったわ。
「いま壱流は関係ないでしょ。それよりも貴方のほうが心配よ。仲間が貴方を探してる。…たまり場に何日も戻ってないそうね」
「僕のことが心配?大して好きでもない僕のことを姉貴が?」
「好きでもないって…私は幻夢を家族と思ってるって何度も伝えたはずでしょ?」
「僕は…姉貴の中の家族カテゴリーに入れられるのが嫌なんです!」
「なにいって」
「だって、そうでしょう?姉貴の中じゃ自分が守るべきものはみんな家族で、大事な人はたった1人。それ以外はみんな敵」
「幻夢、私は…」
「図星をつかれて何もいえないんですか?」
そうじゃない。幻夢、今の貴方に何を言っても伝わらないかもしれない。
だって幻夢も仲間である舎弟(彼ら)のことを家族だって言っていた。私を仲間に入れてくれたあの日、家族だって最初に言ったのは貴方のほうなのに。
『あなたが伝説の闇姫!?まさか本当に実在していたなんてびっくりです』
『…ただの家出少女が闇姫に?それで居場所がないとか笑えないですね』
『あなたが良ければ僕らの仲間になりませんか?』
『ここでは仲間のことを家族っていうんです。だからあなたも今日から僕たちの家族です。これからよろしくお願いします!』
「幻夢、忘れてしまったの?」
「忘れたもなにも嫌だって言ってるじゃないですか。僕は言いましたよね?姉貴のことが好きだって」
「!」
「1人の女性として見てるって。姉貴こそ、僕に告白されたこと忘れたんですか?」
「忘れてないわ。でもあの告白は」
「断りましたよね。しってます」
「だったら…」
「だけど諦めてませんから」
私を壱流から引き離してまで自分と結ばれようとするつもり? あなたはそれでいいの?
私の意思を無視してまでそんなことをするのは貴方らしくない。っていったら、また怒らせてしまうのだろうか。
『余計なお世話です』『僕らしさって姉貴が僕の何を知ってるんですか?』って。
自分では幻夢のことを理解してるつもりだった。でも、それは「つもり」なだけで、私は幻夢のことを何一つわかっていなかったんだ。
「僕、決めたんです。姉貴を守れるくらい強い男になってみせるって」
「幻夢、あなたはもう十分強いわ」
「こんなんじゃ足りない」
「…」
「足りないんですよ。…狗遠との戦いのとき、壱流さんが暴走したとき、前線にいたのはいつも姉貴だった」
「幻夢も手伝ってくれた。私のワガママに最後まで付き合ってくれて。私はあのとき凄く助かったの」
「最終的に2人を救ったのは姉貴でしょう?」
「それはみんなの助けがあったからで」
私1人じゃきっとなにも出来なかった。狗遠と戦うときだって本当は怖くて立ち止まりそうになった。だけど幻夢が心が折れそうな私を支えてくれた。だから私は壱流を救うことができた。
「すみません姉貴。そろそろ時間みたいです」
「時間?誰かと約束でも…。もしかして幻夢、あなた……っ!?」
後ろに鋭い痛みが走り、私はその場で倒れた。
「姉貴!」
「…やっぱり幻夢の姉貴は侮れないね。勘がいい人は長生きできないっすよ、闇姫センパイ」
「あな、たは?」
殴られた衝撃で意識がはっきりしない。私としたことが油断した。普段ならぜったい背後をとらせないのに。
「闇姫センパイのためにまさか無実の仲間を刺すなんてね、びっくりっすよ」
「それは貴方がそうしろって言ったからです」
「あれ?そうでしたっけ?」
「……」
「冗談っすよ。だからそんな怖い顔で睨まないで?」
「これが僕の覚悟です」
「本気なのは十分に伝わったっすよ」
「…」
幻夢はだれと話しているの?深くフードを被って顔が相手の顔がよく見えない。
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