最強総長は闇姫の首筋に牙を立てる2〜学園編〜

星空永遠

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Ⅱ 別れは唐突に

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「お弁当作ってきたけど喜んでくれるかしら」

休日の朝。私はある場所に向かっていた。
それはかつて闇姫だった頃にたまり場として使っていたところ。アポなしでいきなりってのが驚かれるだろうけど…。闇姫に戻ってから度々顔は出していたし。

―――ギィー

重い扉をあけ、中に入る。見た目が倉庫だから隠れ家としてはちょうどいい。

「久しぶり」
「「「あ、アネキ!!お久しぶりです!!」」」

私を見るなり走ってくる舎弟たち。幻夢が何人もいるような感じね。飼い主と久しぶりに会えてシッポを振る犬みたいだわ…。喜ばれるのはこっちとしても嬉しいけど。

「いきなり来てごめんなさい。そのお詫びになるかはわからないけどお弁当を作ってきたわ」

「アネキが突然来て迷惑だなんて言う奴はここにはいませんよ!」
「アネキの手料理!?ちょー嬉しいです!!」

「そう」

喜んでもらえてよかった。舎弟たちは相変わらず元気そうで安心した。でも、1番騒がしい子がいない気がする。

「幻夢はいないの?」
「あー…幻夢さん、ですか」

「なにかあったの?」

舎弟の1人がバツの悪そうな顔をした。
…おかしい。幻夢は家に帰らず毎日ここで過ごしてる。私が闇姫を卒業した日から幻夢がここのトップになったと聞いた。私と同じくらい仲間思いな幻夢が舎弟たちを置いて一体どこに行ったのかしら?

「とりあえず飯食いながら話しましょ!ねっ?」
「え、えぇ」

背中を押され奥に通された。

「……ねぇ」

「す、すみません!!」
「アネキ、今だけは見逃してください!」

一言でそこまで察されるとは。
私が怒った理由は、たまり場が以前と同じくゴミだめになっていたから。前に来た日から2週間も経っていないのにここまで散らかるなんて。

「貴方たちは私が来ないとなにもできないのね」

「そりゃあまぁ、アネキがいてこそのたまり場ですから」
「今はアネキも闇姫として復帰したわけですし、もう少しここに来る頻度を上げてもいいんですよ?」

「そうですよ。幻夢アニキが来れない分もアネキがここを仕切るといいです」
「おい!」

「え?あ…」
「幻夢が来れない?」

その言い方だと幻夢はしばらくここに来ていない?

「どういうこと?幻夢に何があったの?」
「アネキ、もしかして聞いてないんですか?」

「なんのこと?」
「アネキって、幻夢アニキと同じ学校じゃ?」

「幻夢とはクラスが違うから」

朝と放課後の送り迎えは毎日欠かさないし、幻夢の様子も全然変わってないんだけど。

「数ヶ月前に言われたんです。しばらくここには来れないから、あとはアネキに頼れって」
「私に?」

「そうです。アネキが闇姫として復帰するなら自分はもういらないって」
「……」

幻夢がそんなことを言っていたなんて。
そもそも、いらないってなに?みんなは幻夢を頼っているのに。ここの子は私のことも好きだけど、それ以上に幻夢にも懐いてる。それは幻夢もわかってるはず。

私の前じゃ、隠し事も嘘も苦手な幻夢が何も話さないなんて…。気付けなかったのは私の落ち度だけど、少しくらい話してくれても……。それとも、私だと頼りない?

「幻夢がどこに行ったとかわかる人は?行き先を聞いてた人は!?」

「アネキ、落ち着いてください!」
「焦っても仕方ないですって」

「それはそうだけど…」

私にしては珍しく取り乱した。舎弟の前で情けない姿を見せるなんて闇姫として失格だ。

「みんなは幻夢のことが好き?」
「もちろんです!」

「当然ですよ。だって、幻夢アニキがいなかったら今頃俺ら飢え死にしてましたし」
「今までも敵が来たら幻夢アニキが守ってくれたんですよ」

私がいない間も幻夢は仲間のことを大切にしてきたんだ。これだけ仲間に信頼されているのに。

「狗遠総長のときはさすがにヒヤヒヤしたけどな~」
「あれは幻夢アニキじゃなくとも敵わないだろ」

「最強総長の前に相手は吸血鬼だもんなぁ。普通の人間じゃ誰だってあんなのムリムリ」
「……」

この子たちはみんな1度怖い思いをしている。私の弱さのせいで人質にされてしまって。捕まったとき、どんなに恐怖しただろうか。あれだけの事があったのに笑いあって。今こうして彼らは生きている。

私に言ったわよね?1人で抱えなくていいって。キツい時は支え合おうって。それが仲間であり家族だって。そんな簡単なことさえ忘れていた私に幻夢あなたは思い出させてくれた。仲間の大切さを。幻夢、あなたはどれほどの問題を1人で抱え込んでいるの?

「…っ」
「姉貴?どうしたんです?」

「どこからか血の匂いがするの」
「血のニオイ?そんなのしませんが」

気づかないの?これだけ充満してるのに。鼻をくすぐるくらい近くから匂う。

「一旦席を外すわ。あなたたちは先にお弁当を食べてて」
「ちょ…。姉貴!」

私は匂いが強くする方へと向かった。
…なんだろう。嫌な予感がする。この胸騒ぎがどうか杞憂でありますように。

なんで私だけがわかるの? その答えはもうわかっていた。けれど認めたくなくて。だってそれは私が吸血鬼と同じだと証明するようなものだから。
人の姿をしているけど私はもう人間じゃない。

壱流のためならなんでも差し出すし、覚悟だって決めたはず。なのに今さら怖がる必要がどこにあるの?

これ以上の恐怖を壱流は体験した。それこそ私が想像してるよりもずっと怖い思いをしてる。あなたと同じになってやっとわかった。ただの人間が吸血鬼に近づくたび恐怖を感じるということを。それは覚悟なんかじゃどうにもならないってことも。
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