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Ⅰ 異変

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やっぱり私のせい、だろうか。私がまだ弱いままだから。

「キミに大人のなにがわかるというんだい?」
「っ…」

「ほら答えられない。それは当然だよね?キミも壱流と同じ子供なんだから」
「…げん、にしろ」

「壱流、オレに盾突くつもりかい?」
「いい加減にしろって言ってんだ!最近どうしたんだよ…龍幻。前のお前はもっと……闇華、行くぞ」

「え?」
「検査はもう終わったんだろ?」

壱流は白銀先生に鋭い殺気を出しながら、私の手を引いて部屋から出た。

「…どうしてキミたちはわかってくれないんだ?……はい、白銀です。そうですね、今回も例の少女の血はとれませんでした。異常ですか?本人にはまだ話していませんがいずれ覚醒するのは時間の問題かと」

* * *

「壱流、離して」
「……」

「壱流!」
「!闇、華…わるい」

「大丈夫?」

やっぱり銃で撃たれそうになったのが原因よね。当てる気がないにしてもギリギリだった。吸血鬼なら銃口を向けられただけでも怖いのに。

「へーきだ」

全然平気にはみえない。

「教室で少し休もう?この時間なら誰もいないだろうから」
「あ、ああ」

私は微かに震えてる壱流を支えながら教室に足を進めた。

「闇華、俺がもし大丈夫じゃないっていったらお前はどうする?」
「えっと…」

この場合、なぐさめるのが正解よね?頭でも撫でて落ち着かせるのが一番だろうけど、それを壱流にすると「子供扱いするな」って怒られそうだし、かといってこのまま何もしないのもそれはそれで不機嫌になりそう。

「頭の中で必死に正解を探そうとしてるかもしれないが沈黙が続くと今より不機嫌になるからな?」
「それはすでに怒ってるってことでしょ?」

「闇華は頭がいいんだな」
「馬鹿にしないで。壱流よりは学校の成績はいいほうだし」

「学校の成績が良くても俺の好感度は上げられないぞ」
「うっ」

それを言われるとぐうの音もでない。

「それで答えは出たのか?」
「会話しながらそんな器用なことできるわけ…」

「話しながらでも出来るだろ?俺より学校の成績がいいお前なら」

八つ当たりされてる? 白銀先生に怒られたことがよっぽど嫌だったのね。

「これで、いい?」
「結局、お前にとって俺は子供なのか?闇華」

「そういうわけじゃなくて…。これしか思いつかなかったの」

私は壱流の頭を撫でる。色々考えていたけど、かんがえがまとまらなくて最終的には最初に思いついたのになってしまって。

「ま、闇華らしいといえばらしいか」
「私らしいって」

それ褒めてるの?

「俺としてはお前の血でも吸えれば満足なんだが」
「私の?」

あ……。

「お前、忘れてたのか?」
「普段なにも言ってこないから」

「それは気をつかってんだよ」
「壱流でも他人に気を使うとか出来るのね」

「どこまで子供扱いする気だ?大体、お前は俺にとって他人なのか?」
「ちがうの?」

血の繋がりはないはず。

「恋人は他人なのかって聞いてんだ」
「ご、ごめんなさい」

「そこまで落ち込むなよ。だが俺に悪いと思ってんならやる事はわかるよな?」
「それが狙いだったり、する?」

「それ以外になんだってんだ」
「…いいよ。だけど早く済ませて」

私は制服のボタンを2つ外し、首筋を見せた。

「早く済ませてほしいなら抵抗はするなよ?」
「抵抗したことなんて…っ!?」

「やっぱりお前の血は極上だな、闇華」
「そんなこと」

自分ではわからないし。だけど壱流が美味しいといってるならきっとそうなんだろう。

「感じてるのか?」
「よくわからない」

「俺に吸われたらどんな感じがする?」
「嬉しいような。でも…」

「でも?」

違和感がある。久しぶりに吸われたからそう思うだけ?だといいけど。なんか前には感じなかったモノが。

「すこし痛いだけよ」
「なら問題はないな」

「どうして?」
「俺が気持ちよくしてやるから」

「っ…」

壱流は自覚してその言葉を言っているの?それとも無自覚?

「お前は黙って俺に身体を預ければいい」
「わ、わかった」

ああ。やっぱり私は弱い。弱くなってしまったのは壱流、あなたのせい。だけど、他の人にはまだ負けるつもりはないから。

また狗遠のような吸血鬼が貴方を傷つけようとするならば、次は容赦しない。手加減は命取りだと今回の件で痛いほど実感した。それは壱流自身もそう。

「闇華、心配しなくていいぞ」
「なに、が」

「余計な心配をしたら血が不味くなる」
「そ、そうだった」

忘れていた。壱流は吸血鬼だから吸血してる間は相手の感情や考えてることがわかる。

「もう1人で抱え込む必要はない。今のお前には仲間がいるだろ?いや、それは昔も、か…」
「そうね。幻夢は今も私の大事な舎弟だし、今は狗遠だって私の家族よ」

あんなことがあっても家族だという私に狗遠ならきっと「だから貴様は甘いんだ」と言うだろう。だけど一度信頼した相手を、仲間を『家族』だとおもうのはそんなに悪いこと?私はそうは思わない。

「お前の口から出るのは男の名前ばかりだな」
「妬いてるの?」

「その自覚があって俺を煽ってるつもりか?」
「それはちがっ…んっ」

私が否定する前に塞がれる唇。

「壱流。ここ教、室」
「だから?」

「誰か来たらどうするつもり?」
「お前が言ったんだろ。この時間なら教室には誰もいないって」

「っ」
「てっきり俺はお前から誘ってんのかと」

そんなつもりはなかったんだけど。

「私は壱流の具合が悪そうだったから教室に戻ろうって言っただけだけで」
「少し黙ってろ、闇華」

「う、ん」

今度は激しいのが降ってきた。口の中が熱い。こんな感覚知らない…。口内が侵食されていく。それはまるでミルクチョコレートを食べてるみたいに甘くて。とろけそう。恥ずかしくて、頭がフワフワして。もうなにも考えられなくなる。

壱流の体調の心配だとか、白銀先生が変わった理由だとかそういうの、ぜんぶひっくるめてどうでもよくなって。

「闇華の口ん中、チョコの味がする」
「それはお昼に食べたから」

「俺にもくれよ」
「まって。今、スクール鞄からだ…」

「お前のがいい」
「んっ…!」

私なんか食べても美味しくなんてないのに…なのに、どうしてそんな表情(かお)をするの?
私じゃなきゃダメみたいな。求められてるのは嬉しい。それと同時に別の感情がやってくる。
私も壱流の血を吸ってみたい。この衝動はまるで…。

「闇華、お前…」
「なに?」

私の顔をまじまじと見てる。なにかカオについてる、とか?

「瞳の色が濃くなってるぞ」
「え?」

壱流に言われて思わず手鏡で確認。…ほんとうだ。血の色みたい。

「それにその牙」
「牙?」

私は壱流に言われ、自分の歯にそっと触れた。

「これって」

生えてる。たしかに牙のようなものが。これは壱流や狗遠と同じ。

なんで今なの?吸血鬼になったのは数か月前なのに。
いくらなんでも遅すぎない?

『キミはまだ完全な吸血鬼になれていない』
ふと、白銀先生の言葉がよぎった。その日私は自分の異変に気付いてしまった。
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