儀式に失敗してロリっ子サキュバスを召喚し、ロリコンに目覚めてしまった俺の末路は

星空永遠

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三章

33話幻覚の森

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「ここが魔界か……」

 真っ暗な洞窟を抜けると、そこに現れたのはアニメで見るような魔界と同じ光景が広がっていた。

 空には黒いドラゴンが飛んでいたり、まわりの花は綺麗どころか枯れているものがほとんどだったり、中には気持ち悪い色をした花たちが謎のダンスを踊っていたり。

 俺たちは森の中を歩いていた。小さい魔物らしき生き物が俺たちを見てシャーシャーと鳴いている。
 当然、魔物には黒い翼が生えていた。

 ……警戒されているのだろうか。無理もない。
 俺たちは魔族じゃない。おそらく敵がテリトリーに侵入してきたと騒いでいるに違いない。

「やはり魔界は薄気味悪いですね」
「言われてみればそうだな。空気が悪いつーか……なんかお化け屋敷みたいだな」

 まさにお化けが住むにはもってこいの場所である。妖精が住む森の中なら明るいのだが、この場所はむしろ逆。どんよりとした空気。今にも雨が降りそうなくらい暗くてジメジメしている。

「……紅蓮?」
 
 一緒に歩いているはずなのに、何故か隣にいる紅蓮の歩くスピードが心なしか遅い気がした。

「早く明るい場所に行きましょう。こんな場所で野宿するくらいなら死んだほうがマシです」
「……」

 明らかに紅蓮の様子がおかしい。明るい場所に行こうと言ってるわりに全く進んでいない。

 どうしたんだ? ……そうだった。そういえば昔も……。前世でも紅蓮は怖がりだったことを思い出していた。あの頃は仲が良くて、無理やり暗い所に連れて行ったり、夜にお化けが出ると言われているスポットなんかに出かけたりしたっけ。

 今思えば、あれは紅蓮の反応が面白くてやってたんだよな。俺が紅蓮をからかってるのがバレるたびに魔法が飛んできてたっけ。よく死ななかったよな、俺。

「紅蓮」
「なんですか?」

「早く明るい場所に行くんだろ。俺がおぶってやるから、なっ?」
「……子供扱いしないでください」

「紅蓮が俺より年上なのはわかってるって」

 といいつつ、俺におんぶをされる紅蓮。普段から表情が一定で何事にもクールだから、俺からしたら紅蓮は完璧って印象だった。だけど、暗い所が苦手っていう弱点を見つけると紅蓮もちゃんと人間なんだなと思ってしまう。

 肩に力を入れっぱなしの俺だったが、今ので少し気が緩んだ気がする。常に気を張ってたんじゃ疲れるだけだもんな。ルリエの心配はいつだって付きまとうが旅はまだ始まったばかりなんだから。

「暁月の手紙によるとまずは幻覚の森を抜けて、記憶の湖に向かえって言ってたよな。幻覚の森っていうのは、ここで合ってるのか?」

 歩いても歩いても出口は見えない。この森はどれだけ広いんだ?

「……?」

 俺はふと違和感を感じた。紅蓮を背負っていたはずなのに何故か背中が軽いのだ。おかしい。さっきまではしっかりと紅蓮の重みを感じていたのに。

「紅蓮……? い、いない。紅蓮、どこに行った!?」

 紅蓮は俺の背中にいないどころか、あたりにもいなかった。俺は紅蓮の名前を呼び続けた。

 はぐれた? そんなはずはない。だって、俺は紅蓮をおぶっていたんだぞ。

「紅蓮……俺を一人にしないでくれ……」

 しばらくまわりを探したが、紅蓮の姿はどこにもなかった。俺は一人孤独に襲われた。一人でもルリエを助けないといけない。
 記憶の湖でルリエの姉であるレナを見つけて人間界に連れていかないと。頭では次にする行動はわかっているはずなのに、何故か身体が言うことを聞かない。

「ねぇ、ここで何してるの?」
「ルリエ……?」

 俺がその場に座り込んでいると、上から声がした。見上げるとそこにはルリエそっくりの少女がいた。が、よく見るとルリエよりも少しだけ身長が高くて、大人っぽかった。

「そうだよ。……りゅうげん、こんなところに座り込んでどうしたの?」
「ルリエ!? いや、お前はルリエじゃないな」

「どうしてそう思うの?」
「だってルリエは……」

 本物のルリエは銃に撃たれて重症だ。意識もない。身体だって氷のように冷たい。だから、こんな風に自由に動けるわけないし会話だって出来ない。

 そもそも、ルリエが魔界にいるはずがない。ルリエの姉かと思ったが、レナは俺の名前を知らない。

「そんなことより、私と気持ちいいことするんでしょ?」
「は!?」

 ドサッと俺は押し倒され、ルリエと名乗る少女は俺の上に乗った。

「私、サキュバスだもん。だから、りゅうげんが望むことはなんだってしてあげるよ。何が望み? あっ、りゅうげんは童貞を卒業したいんだっけ?」
「お前は誰だ?」

「だからルリエだよ」
「ルリエは今のお前みたいに軽い女じゃない。俺にキスをしただけで顔を真っ赤にして、それ以上なにも出来ない」

「りゅうげんはそれでいーの?」
「俺はルリエが嫌がることはしない。そのためなら一生童貞でいる覚悟だ」

「つまんない~」

 そういって俺の上から降りた少女は俺から少し距離を置いて座った。

「自分が気持ち良くなるためにルリエを召喚したくせに、何カッコつけちゃってんの?」
「……最初はそうだったさ。召喚する動機はお世辞でも純粋だとは言えなかった。だけど、俺はルリエと過ごすうちに変わったんだ」

「変わった? まだ記憶も思い出してないのに?」
「お前は俺のなにを知っている?」

 これは森が見せている幻覚だ。このルリエは幻。俺はすぐに見抜いたが、どうやら偽物のルリエは俺をここから出すつもりがないらしい。

 偽物のルリエは俺にグッと近づいて腕を掴んできた。ギリギリと腕を掴む力は強くなっていく。

「さぁ? けどさ。俺は変わった。強くなったってわりにルリエを守れなかったじゃん?」
「それは……」

「失ってから気付いたって遅いんだよ。後悔したってルリエは戻って来ないんだよ」
「だから俺はここに来たんだ!」

「その間にルリエが死んだら? 紅蓮くんの魔法が破られてルリエが敵の手に渡ったら? そしたらルリエは一生帰ってこないんだよ」
「……俺は紅蓮の魔法を信じる」

「知ってる? 魔法は万能じゃないってこと。その証拠に紅蓮くんはどこに行ったの? 魔界が怖くて逃げたんじゃない?」
「紅蓮はそんな奴じゃない」

 腕を掴むだけじゃない。俺を引き寄せて、俺の耳元で不快な言葉を囁き続ける偽物のルリエ。

 引き剥がそうとしても偽物のルリエの力が強すぎて無理だった。コイツ……なんつー力してやがる。

「前世の記憶を思い出したって言っても断片的でしょ? 紅蓮くんの全部を思い出したの? 本当に紅蓮くんは、りゅうげんの親友だったの?」
「やめろ……」

「何者かわからないりゅうげんと仲良くするなんて紅蓮くんも馬鹿がつくほどお人好しだね。りゅうげんみたいに人付き合いが下手で、陰キャで根暗で、魔法だってろくに使えない人と紅蓮くんが本当に仲良くすると思ってるの?」
「やめ……」

 耳を塞いでも頭の中に響いてくる雑音。徐々に俺の心は支配されていく。偽物のルリエの言葉に耳を貸してはいけないはずなのに……。

「一般人と変わらない魔法を覚えたてのりゅうげんが世界を救う? ルリエを助ける? 天使と魔族の共存?……そんなの出来るわけない」
「っ……」

「本当のりゅうげんは何も出来なくて、非力なただの一般人。自分の正体もわからない人間が誰かを助けるなんて無理に決まってる」
「うっ……」

「だからさ、私とずっとここに居ようよ。私ならりゅうげんのこと、わかってあげられるよ。この場所にいたら何も考えなくていい。楽しいことだけしていればいいんだよ」
「……」

 そうだ。俺は自分のことさえわからない。

 そんな奴がルリエを救う? そんなの、最初から無理だったんだ。俺が弱くて可哀想だから紅蓮は同情で俺と友達になってくれたんだ。

『龍幻。その子の言葉に惑わされちゃ駄目だよ』

「お前は……」
「誰もいないじゃない。頭おかしくなっちゃった?」

 目の前にいるのは夢の中に現れた天使だった。

 これは夢か? それとも現実?

『ここは幻覚の森。その名の通り、幻覚を見せるの。森の中にはその人の心の闇が見える魔物が住んでいる。その人の大切な人の姿になって現れ、惑わし、時には、その人の心を壊す。
戦意喪失した人はそのまま魔物の言いなりになってしまう。ここはそんな森。その子が幻なのも龍幻はわかってるはず。でも、惑わされてしまったんだね』

 懐かしい声がした。あたたかくて、落ち着く声。その天使は金髪に青い瞳をしていて、髪色や目の色は違うものの、ルリエと瓜二つだった。

 この天使は森が見せている幻覚なんかじゃない。

 俺はこの天使のことをよく知っている。
 天使は俺の記憶の中にたしかに存在している。

「お前は一体何者なんだ?」

『……私はもうこの世にいない。だから名前なんて、とっくに忘れてしまった。だけど、私は龍幻のことをよく知っている。龍幻、偽物のルリエに惑わされてはいけない。貴方はここに何しに来たの?』
「俺はルリエを助けたい。ルリエを助けるためにここに来た!」

『それなら早く幻覚の森を抜けましょう。紅蓮も龍幻のことを待っているわ』
「あぁ」

「私と楽しいことしよーよ。ねっ? せっかく一度きりの人生なんだから楽しいことだけしてればいいでしょ? そっちのほうがりゅうげんも幸せでしょ?」
「そんな退屈な人生、こっちから願い下げだ」

「っ……!」
「なっ……!?」

 俺が偽物のルリエを拒絶すると、俺の魔導書が光出し、偽物のルリエは俺の魔法の影響なのか、醜い姿を現した。その正体は森に入ってすぐ見ていた気持ち悪い色をしていた花だった。

「キシャァァァァ」
「なんだ?」

 威嚇をしているようだが、さっきとは違い、なんて言ってるのかわからない。

『龍幻が幻覚を破ったから変身出来なくなったみたい。人間の姿を保てなくなったから会話も出来なくなったの』
「助けてくれてありがとな。て、天使……でいいのか?」

 名前がわからない以上、天使と呼ぶしかなかった。なんだか照れくさい。

『どういたしまして。それより、約束は守ってくれた?』
「約束……?」

『貴方が立派な魔法使いになったら魔族も天使も共存出来て、世界に平和をもたらすって話』
「まだ果たせそうにない」
『そっか』

「今の、中途半端な俺じゃ、どうして魔族と天使を仲良くさせようとしてたのかわからないんだ」

『仕方ないよ。覚えてないんだから』
「だけど、全てを思い出したその時はお前のことも思い出せる。絶対にお前との約束を果たしてみせるから」

『ありがとう、龍幻』

 ……チュ。と、軽いリップ音が聞こえた。

「なっ!?」
『先払いのお礼だよ。あ、こんなことしたら怒られちゃうかな。でも、いいよね? どっちも私なんだし』

「それってどういう……」
『龍幻、またね。いつか絶対世界を救ってね。……約束だよ』

「まっ……!」

 手を伸ばすも、天使はフッと消えてしまった。

「どっちも私? って……まさか、な」

 俺はありえないことを考えていた。が、俺の予想なんて当たるわけないのだから、言葉にするのはやめておこう。

「まずは記憶の湖に進まないとな」
「……けて」

「え?」
「助けて……誰か……」

「そこで待ってろ!」

 少女の声がする。その少女は助けを求めていた。俺は少女の声がするほうへと走った。

「紅蓮、悪い……!」

 合流しないといけない紅蓮を置いて、俺は幻覚の森を抜けたのだった。
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