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二章

24話 悪魔の男、アレン現る

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「久々だったせいか話し込んでしまった。ルリエ、腹減って待ってるだろうな……」

俺は早足で家に帰ろうとしていた。その途中、誰かの視線を感じ、その場で止まる。

導の家を出てからすぐに人の気配には気付いていたんだが、同じ方向だと思って無視をしていた。だが、あきらかに俺をつけて来ているのがわかった。

……足音は聞こえない。相手が俺の行動を読み、近くで隠れているとかか?

「へぇ。自称人間のくせに俺様の気配を察知するとはな。それは力のせいか、それとも直感ってやつ?どっちにしろ、俺様の姿を見られたからにはタダで家に帰すわけにはいかねぇな。つーか、返す気もねえけど」

「自称人間って俺は正真正銘ただの人間……って、お前、その翼……」

俺の視線は上にあった。何故なら、相手は飛んでいたからだ。黒い翼。人ではない。

あまりに現実とかけ離れているせいで思考が追いつかない。だが、俺に敵意を向けているのだけはわかる。

どう見ても悪魔だろ、あれ。こんな知り合い、俺には心当たりもないぞ。

「驚いたか。でも、自称人間のお前は何度も目にしたことがあるだろう?お前に言いたいことは一つ。一回しか言わないからよく聞けよ。お前が持っている魔導書を渡せ。そうすればお前の身は半殺しで許してやる」

「半殺しってほとんど助かる余地ないだろ、それ。魔導書って何のことだ。誰だか知らないが、俺を誰かと勘違いしてるんじゃないのか?俺に悪魔の知り合いはいないはずなんだが」

何度も目にしたことがある。その言葉を聞いて、俺は思い出す。ルリエが暴走した時に出していた黒い翼。そして、それは暁月にもあった。

「心当たりがあるんだろう?自称人間。死にたくなければ、とっとと魔導書を置いていけ」

「自称自称って、俺は人間だって言ってる。それに、俺は何も知ら、っ……!?」

「口の聞き方には気をつけろ、自称人間。次に俺様の機嫌を損ねたら、お前の首は宙に飛ぶことになるぞ」

「……」

地面に降りてきた相手は指をこちらに向けてきた。

一瞬、なにが起こったのかすらわからないままでいると俺の首からは血が出ていた。相手は本気で俺を殺しに来てるんだと錯覚させるには十分すぎるくらいの攻撃だった。

「ほら、渡せ。俺様も暇じゃないんだ。って、もう治ってやがるのか」

「何を言って……」

相手は少し驚いた表情をしていた。突然、痛みが無くなった。ふと首を見ると、傷は塞がっていた。

「やはり自称人間と言えども侮れねえってことだよな。なぁ、魔導書の正体がわからない人間さんよぉ。俺とタイマンでもしねえか?」

「タイマン?」

「もしかして、大学生にもなってタイマンの意味がわからねえってことはねえよな」

「意味はわかる。ただ、俺はお前と戦う気はない。それに人間じゃないお前に俺が勝てるわけがない。……お前は知ってるのか?これの正体について」

俺は鞄から魔術本を出した。ここで渡すのは簡単だ。だけど、どうせ相手は俺を無傷で返す気はないみたいだからな。それなら、魔術本の正体を聞いてからでも遅くはない。

もちろん、相手の機嫌次第では俺の命はどうなるかわからない。さっきのように傷が治ったのも偶然かもしれないし、俺はどうやって完治したのかすらわかっていない。そんな奇跡に頼るのは無謀すぎる。

「フッ。……プッ、ハハッ。こりゃあ傑作だなぁ」

「何がおかしい?」

「この状況だったら笑いたくもなるだろ。だって、使い方すら理解してないって。マジかよ。こんなの下見する価値もねぇじゃん。それなりに目覚めたって聞いたから、わざわざ来たのによォ」

「目覚めたって……どういうことだ」

腹を抱えて相手は笑い続ける。俺を小馬鹿にした態度を見るとイライラや不快感が増すばかりで、正直、逃げられるなら今すぐにでも立ち去りたい。

「魔導書の正体もお前のこともそれなり知ってるぜ。だけどなぁ、それを敵であるお前に話すわけねぇだろ!! 」

「!」

指をまた俺のほうに向ける。さっきと同じ攻撃か?それならギリギリで避けられないだろうか。

恐怖で足が動かないと思っていた。だが、頭は意外にもクールで、相手の先の行動を読もうと必死だった。

「へぇー、今のは避けるのか。でも、魔導書は光ってないし、力は発動してないみたいだな。んで、今の行動って魔導書は渡せないってことでいいのか?」

「お前の言ってることは正直、半分くらいしか出来ていない。だけど、この本を渡すことはできない。これは俺の直感が言っている!」

「まぁ、敵であることは今、俺様がポロッとこぼしちまったからなぁ。でもさ、この状況がピンチだってわかんねぇの?」

ボォォォと相手の手から炎が出る。さすがの俺もあれを全て避けられる自信はない。

「お前の思ってることを当ててやろうか?俺様が何者だってことだろ?いいぜ、そのくらいは教えておいてやる。自分を殺す相手の名を知らないのは可哀想だからなァ。俺様はアレン、魔族だ。魔族って言ってピンと来てないなら、悪魔って言った方が分かりやすいのか?俺様って優しいなぁ。こんなむさ苦しい童貞にも自己紹介してやってるんだから」

「男だから多少むさ苦しいところもあるかもしれないが、童貞は余計だ。悪魔が魔導書を狙う理由はなんだ。それに俺は人なのに。それとも、ルリエの仲間か何かなのか!?」

「お前、今なんつった?」

「……え?」

プツリ。敵であるアレンの堪忍袋の緒が切れた音がした。

「ルリエ様を呼び捨てにするとは何様だって聞いてんだよ!!!つーか、もうどうでもいい。魔導書を渡す気がないなら、俺様の炎で消しずみにしてやる。魔導書ごと灰になれ、自称人間!!!!」

「……ッ!?」

もう駄目だ。さすがに死ぬ。何故アレンはルリエの名前を出しただけで怒ったんだ?俺には悠長に考えてる暇は一秒たりともないっていうのに……。

俺は二度目の死を覚悟して、目を閉じた。

「ハッ。ハハハハハ!!自称人間はやっぱり大したことねぇな。良かったな、俺様みたいなイケメンで強い魔族に倒されて。これが俺様に仕えてる犬たちなら涙を流して喜んでるところだぜ?」

「こんなに人が大勢いる場所で攻撃するとは、魔族というものはよっぽど低俗なんですね。……いえ、貴方〝だけ〟が下品の間違いでしたね。他の魔族はまともだ。最も、自分は悪魔の類は嫌いですけど」

俺の目の前には大きな壁があった。それは炎の攻撃が飛んできたあと、炎を包むようにして消えていって……。

俺は如月先輩に守られ、命を救われた。

「どうして、俺を助けてくれたんですか?……如月先輩」

「そんなの決まっています。貴方が僕にとって守るべき対象だからです」

「テメェは何者だ!俺様の攻撃を食らって傷一つつけられないなんて、そんなことあるはずがねぇ!」

「それは貴方の攻撃がその程度ということです」

「アァ?」

どちらも臨戦態勢に入っているようだが、俺には今、目の前で起きている状況についていけなかった。

一つだけわかるとするならば、俺は死なずに生きている。ただそれだけ。

「如月先輩、俺は……」

「今は僕の側から離れないこと、それが貴方が唯一生き残れる方法。大丈夫です、結界は張ってるので他の一般人は巻き込んでいません。貴方が自ら死にたいというなら僕の前に出ても構いませんが」

「死にたくはないので側にいます。でも、どうして俺の居場所がわかったんですか?」

「それは、この戦いが終わってから答えることにします」

こんな状況なのに如月先輩は淡々と、クールなままだ。

そして、目の前にいるアレンに殺気を向ける。隣にいる俺にまで如月先輩の凍りつくような視線がビリビリと伝わってくる。

この人は敵に回してはいけない、感覚でそう思った。

「余裕ぶってるのも今の内だぞ、そこの人間!テメェなんざ、すぐさま片付けてやるよ!!」

「吠えると弱く見えますよ、魔族。いつでもかかってきてどうぞ。こちらの準備は整いました」

「……!」

そういって鞄から取り出したのは、俺が今持っている魔術本とソックリだった。
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