13 / 33
一章
12話 ルリエと一つのベッドで
しおりを挟む
朝8時30分。俺は二度寝しようとベッドの中にいた。
「こうやって、お兄ちゃんと寝るのは初めてだね」
「そ、そうだな」
そう、ルリエと一緒に。シングルベッドだから狭いと思っていたが、ルリエが小さいから案外二人でも大丈夫そうだ。
って、そうじゃない。俺は互いの息が当たるくらいの近い距離にドキドキしていた。だって、ルリエからは甘い匂いがするし。おかしい、俺と同じシャンプーを使っているはずなのに。
近くで見ると、ルリエってまつ毛も長いんだな。二重でクリクリしてるし、肌も白くて全くといっていいほど荒れてない。それは化粧なんか必要ないってほど。
俺がルリエのことをじっくりと見ていると、バチッと目が合う。そんな視線から、ルビー色の綺麗な瞳から俺は目を逸らすことが出来ずにいた。
いつもなら視線を合わせても何も感じないはずなのに。いや、少しは思ったりする。けど、いちいち可愛いなどをルリエに言っていたらキリがないとわかっているから言わない。
毎回のように同じ言葉を使えば、それは価値のないものへと変わってしまう。だから、仮に心から思っていたとしても気軽に言わないほうがいい。
それに俺はイケメンでも白馬の王子でもないんだし、こっ恥ずかしいセリフなんか吐けるものか。
キザだと思われるのは嫌だし、なにより、そういうのはイケメンだからこそ許されるしトキめくってもんだろ。
俺に言われても、ルリエだって嬉しいわけがないんだ。
「ルリエのことはいないものだと思って、お兄ちゃんはゆっくり休んでいいよ」
「……」
それは無理があるぞルリエ。隣にいたら嫌でも視界に入る。別にルリエと寝ることが不快というわけじゃない。
むしろ、こんな一大イベントは俺の人生で一生に一度体験できるのも奇跡くらいの確率で。俺自身こんなことはないと、とうに諦めていたくらいだからな。そんな俺に、夢にまで見た展開が今到来とあらば眠れるものも眠れない。
普段なら子供に欲情なんか……と思っているところだが、今のルリエは妙に大人っぽく見えるのは気の所為だろうか。きっと、俺によるフィルターがかかってるに違いないと自身を言い聞かせていた。そう思わないと、俺は間違いなくロリコンになってしまうから。
もしかしたら、もう既に手遅れの状態まできているかもしれないが。
「私は、龍幻がイヤじゃないなら毎日だってこうして寝たい」
「それは駄目だ!」
「どうして?やっぱりイヤ?」
「そういうわけじゃない」
やはりルリエはわかってない。毎日ルリエと一緒に寝るなんて、どうにかならないほうがおかしい。男女が同じ屋根の下暮らしてて何も起こらない今だって不思議だというのに、ベッドで……ルリエが仮になんとも思っていなくとも、こっちは平常心でいられるほど、俺は人間できていない。
「ルリエ。先に教えておくとだな……男女がこんなことをするのは変なんだぞ。
付き合ってる同士がしたらおかしくはないかもしれない。けど、それは何かしら起こっていて、互いに同意の上でっていうか、その……」
異性と手を繋ぐ以上やったことがない俺がルリエの上に立とうとするのは、上から目線にしても駄目だ。本当に何様のつもりなんだ俺は。それもこれもルリエが男女のあれこれに疎いせいだ。
「さっき龍幻は私と寝ることを同意してくれたよ」
「それはそうだが、そうじゃなくてだな……」
「知ってる。そのくらい知ってる」
「え、ルリエ、今なんて?」
「流幻は私を子供だと思い込みすぎ。私だって、いつまでも子供じゃないよ」
まさかルリエにそれを言われる日がやってくるなんてな。正直、驚きすぎて言葉がでない。子供だと思っていたのは事実だ。けれど、それを思っていたのは俺だけ。
ルリエは一日でも早く、一秒でも早く大人になろうと努力をしていたんだ。
それなのに俺は……ルリエにいっちょ前に怒ったりして、本当に馬鹿だ。
「私は見習いでもサキュバスなんだよ。それに私の主は龍幻だもん。ここは主じゃなくて獲物って言ったほうがいいかな?私は私なりに頑張ってるんだよ。それとも、お兄ちゃんは私が子供のままのほうがいい?」
「……そんなことあるわけないだろ。ごめんな、さっきは変なこといったりして」
どうしよう。こんなにも頑張っていたなんて知らなかった。俺がいない間にルリエは勉強してたんだな。それは俺が思ってる以上に大変で、困ることもあっただろう。
今はルリエを叱るんじゃない、褒めるべきなんだ。それが主としての俺の役目。
「ルリエ、俺のためにありがとな」
「どういたしまして。でも、抱き枕の代わりとして私を使っていいって言ったのはホントだよ。今はサキュバスの課題よりも、純粋にお兄ちゃんが心配なんだもん」
「っ……」
俺の親もこんな感じで俺が一人暮らしをするときに送り出したんだろうか。不安でいつも心配でたまらない、そんな気持ちで。今の俺と同じなんだろうな。
けれど、子供は親が思っているよりも早く成長するし両親が知らないところでは、意外と大人なんだということを俺はルリエを通して知った。
「龍幻どうして泣いてるの?どこか痛い?」
「いや……大丈夫だ。ルリエ、俺は今から寝るから側にいてくれないか?」
「うん、いいよ。私、龍幻が寝るまで頭を撫でてあげるね」
頭を優しく撫でられる。すごく安心する。なんだろう、急激に眠気に襲われる。俺、疲れてたのか。
これはサキュバスとしての力なのか、それともルリエにより癒やしの力なのか。そのどちらかが正解なのかは言うまでもないだろう。
「俺、いつの間に寝ていたんだ。って、もう11時……」
ルリエが隣にいるから寝れないとか言ってた奴はどこの誰だ。普段ならお腹空いたとか言ってきて俺を起こしに来るルリエが声をかけなかったから、思ったよりも寝てしまっていた。久しぶりにゆっくり休めた気がする。
……あれ?せっかく女の子と寝たのに何もせず、普通に寝てしまった。俺はチャンスを自分から棒に振ったんじゃないだろうか。
それとも、覚えていないだけで実はルリエに手を出している……なんて、俺に限ってそんなことをするとは思えないが念のため、あとでルリエに聞いてみるか。
そういえば、ルリエがいない。抱き枕にしていいと言っていたからてっきりあのまま寝たとばかり。
ごうんごうん。……これって洗濯機の音か?今日の分はまだ回していないはず。隣にしては音がうるさいし、なんだか近くで聞こえる。
ガタガタガタガタ。
次の瞬間、明らかにヤバい音がした。
ま、まさか……。
俺は、ベッドからバッ!と起き上がり洗面所に向かう。
「ルリエ、大丈夫か!?」
「龍幻、ど、どうしよう。洗剤が……泡が止まらないの」
ルリエは半泣きで、その場にペタりと座り込んでいた。どうすればいいかわからないとパニック状態だった。
「泡?って……今すぐ止めろ!」
俺はストップのスイッチを押す。
ピー。
「ルリエ、これで大丈夫だ」
「これで洗濯機、攻撃してこない?」
「してこない。だから安心しろ、なっ?」
「うん」
と、言ったものの、床は洗剤まみれで散らかっている。これは片付けが大変そうだ。
「なぁ、ルリエ。なんで洗濯機を回したんだ?」
「龍幻の役に少しでも役に立ちたくて……」
「洗濯はどのくらい入れたんだ?」
「……そこにあるやつをいっぱい」
「いっぱいって全部か!?」
「そう。そしたら綺麗になると思って」
さっきは色気があるとか成長したんだなって関心して褒めたばかりだってのに。これはデジャブだ。今のは、以前のダークマターを彷彿とさせた。
最近の俺が疲れてるのを察してか、ルリエは家事を手伝おうとしたに違いない。けれど、やはりルリエには家事スキルはないようだ。いくら人間界について勉強したとはいえ、たった数日で劇的に良くなるはずもない。
これは、もはや才能といっていいレベルなのかもしれない。ちなみに、この場合の才能は決して褒めてるとか、いい意味で使っていない。
洗剤を大量に入れたら綺麗になると考えが浮かぶ時点で根本的に間違ってるんだよな。一体、どこでこんなことを覚えてきたんだ。
もしや、ルリエの家庭は実は金持ちだったりするのか?家にはメイドが何人もいて、家事を一切したことがないとか。それなら、多少納得いくところもあるが、それにしたってこれは酷すぎる。
「ごめんなさい、龍幻。私、逆に龍幻に負担をかけてるよね」
「いや、そんなことは……」
ない。と、はっきり言えなかった。何をやるにしても不器用……ここまでいくと不器用を超えてる。それでも、ルリエは俺のために何かしようと頑張っている。それは凄く伝わるんだけどな。
「私、龍幻のためなら何でもしたいの。本当は料理も掃除とかも……でも頭では理解してても、いざ行動すると思うように出来なくて」
「そんなに落ち込む必要はない。俺だって出来ないことの一つや二つくらいあるぞ」
「本当に?龍幻にもあるの?」
「あぁ、ある。……それに俺だけじゃない。誰しも出来ないことはあるし、それこそ今のルリエと同じ考えを持つ奴はたくさんいる。だからこそ、自分に出来ることをして、互いのことを支え合うんだ。パートナーとはそういうものだぞ、ルリエ」
今の俺は、ちゃんと正論を言えているだろうか。ルリエを正しく教育出来ているか、そんな衝動に駆られる。しかし、恋人がいたことない俺が何故こんなにも熱く語れるのか不思議だ。
ルリエと数日暮らしたことによって、俺も少しは成長したってことか?そう思うことにするか。
「だから、ここは俺に任せてくれ。床に散らばった洗剤で滑ると危険だから、ルリエはリビングで待っててくれないか?」
「うん、そうする!」
どうやら、いつものルリエに戻ったようだ。落ち込んでいるルリエも子猫みたいで可愛いとは思うが、やはりルリエには笑った顔のほうがいい。
ルリエはリビングのほうに行き、俺は片付けを始めた。
「あれ?」
俺は、ふと洗面台の鏡を見た。……なんでヒビが入ってるんだ?朝起きて顔を洗ってたときは割れてなかったんだが。
縁起が悪いとか聞くし、今日にでも大家に連絡してみるか。それから黙々と床を掃除していた。
鏡にヒビが入っていた原因がまさか✕✕にあるなんて、このときの俺は知る由もない。
「こうやって、お兄ちゃんと寝るのは初めてだね」
「そ、そうだな」
そう、ルリエと一緒に。シングルベッドだから狭いと思っていたが、ルリエが小さいから案外二人でも大丈夫そうだ。
って、そうじゃない。俺は互いの息が当たるくらいの近い距離にドキドキしていた。だって、ルリエからは甘い匂いがするし。おかしい、俺と同じシャンプーを使っているはずなのに。
近くで見ると、ルリエってまつ毛も長いんだな。二重でクリクリしてるし、肌も白くて全くといっていいほど荒れてない。それは化粧なんか必要ないってほど。
俺がルリエのことをじっくりと見ていると、バチッと目が合う。そんな視線から、ルビー色の綺麗な瞳から俺は目を逸らすことが出来ずにいた。
いつもなら視線を合わせても何も感じないはずなのに。いや、少しは思ったりする。けど、いちいち可愛いなどをルリエに言っていたらキリがないとわかっているから言わない。
毎回のように同じ言葉を使えば、それは価値のないものへと変わってしまう。だから、仮に心から思っていたとしても気軽に言わないほうがいい。
それに俺はイケメンでも白馬の王子でもないんだし、こっ恥ずかしいセリフなんか吐けるものか。
キザだと思われるのは嫌だし、なにより、そういうのはイケメンだからこそ許されるしトキめくってもんだろ。
俺に言われても、ルリエだって嬉しいわけがないんだ。
「ルリエのことはいないものだと思って、お兄ちゃんはゆっくり休んでいいよ」
「……」
それは無理があるぞルリエ。隣にいたら嫌でも視界に入る。別にルリエと寝ることが不快というわけじゃない。
むしろ、こんな一大イベントは俺の人生で一生に一度体験できるのも奇跡くらいの確率で。俺自身こんなことはないと、とうに諦めていたくらいだからな。そんな俺に、夢にまで見た展開が今到来とあらば眠れるものも眠れない。
普段なら子供に欲情なんか……と思っているところだが、今のルリエは妙に大人っぽく見えるのは気の所為だろうか。きっと、俺によるフィルターがかかってるに違いないと自身を言い聞かせていた。そう思わないと、俺は間違いなくロリコンになってしまうから。
もしかしたら、もう既に手遅れの状態まできているかもしれないが。
「私は、龍幻がイヤじゃないなら毎日だってこうして寝たい」
「それは駄目だ!」
「どうして?やっぱりイヤ?」
「そういうわけじゃない」
やはりルリエはわかってない。毎日ルリエと一緒に寝るなんて、どうにかならないほうがおかしい。男女が同じ屋根の下暮らしてて何も起こらない今だって不思議だというのに、ベッドで……ルリエが仮になんとも思っていなくとも、こっちは平常心でいられるほど、俺は人間できていない。
「ルリエ。先に教えておくとだな……男女がこんなことをするのは変なんだぞ。
付き合ってる同士がしたらおかしくはないかもしれない。けど、それは何かしら起こっていて、互いに同意の上でっていうか、その……」
異性と手を繋ぐ以上やったことがない俺がルリエの上に立とうとするのは、上から目線にしても駄目だ。本当に何様のつもりなんだ俺は。それもこれもルリエが男女のあれこれに疎いせいだ。
「さっき龍幻は私と寝ることを同意してくれたよ」
「それはそうだが、そうじゃなくてだな……」
「知ってる。そのくらい知ってる」
「え、ルリエ、今なんて?」
「流幻は私を子供だと思い込みすぎ。私だって、いつまでも子供じゃないよ」
まさかルリエにそれを言われる日がやってくるなんてな。正直、驚きすぎて言葉がでない。子供だと思っていたのは事実だ。けれど、それを思っていたのは俺だけ。
ルリエは一日でも早く、一秒でも早く大人になろうと努力をしていたんだ。
それなのに俺は……ルリエにいっちょ前に怒ったりして、本当に馬鹿だ。
「私は見習いでもサキュバスなんだよ。それに私の主は龍幻だもん。ここは主じゃなくて獲物って言ったほうがいいかな?私は私なりに頑張ってるんだよ。それとも、お兄ちゃんは私が子供のままのほうがいい?」
「……そんなことあるわけないだろ。ごめんな、さっきは変なこといったりして」
どうしよう。こんなにも頑張っていたなんて知らなかった。俺がいない間にルリエは勉強してたんだな。それは俺が思ってる以上に大変で、困ることもあっただろう。
今はルリエを叱るんじゃない、褒めるべきなんだ。それが主としての俺の役目。
「ルリエ、俺のためにありがとな」
「どういたしまして。でも、抱き枕の代わりとして私を使っていいって言ったのはホントだよ。今はサキュバスの課題よりも、純粋にお兄ちゃんが心配なんだもん」
「っ……」
俺の親もこんな感じで俺が一人暮らしをするときに送り出したんだろうか。不安でいつも心配でたまらない、そんな気持ちで。今の俺と同じなんだろうな。
けれど、子供は親が思っているよりも早く成長するし両親が知らないところでは、意外と大人なんだということを俺はルリエを通して知った。
「龍幻どうして泣いてるの?どこか痛い?」
「いや……大丈夫だ。ルリエ、俺は今から寝るから側にいてくれないか?」
「うん、いいよ。私、龍幻が寝るまで頭を撫でてあげるね」
頭を優しく撫でられる。すごく安心する。なんだろう、急激に眠気に襲われる。俺、疲れてたのか。
これはサキュバスとしての力なのか、それともルリエにより癒やしの力なのか。そのどちらかが正解なのかは言うまでもないだろう。
「俺、いつの間に寝ていたんだ。って、もう11時……」
ルリエが隣にいるから寝れないとか言ってた奴はどこの誰だ。普段ならお腹空いたとか言ってきて俺を起こしに来るルリエが声をかけなかったから、思ったよりも寝てしまっていた。久しぶりにゆっくり休めた気がする。
……あれ?せっかく女の子と寝たのに何もせず、普通に寝てしまった。俺はチャンスを自分から棒に振ったんじゃないだろうか。
それとも、覚えていないだけで実はルリエに手を出している……なんて、俺に限ってそんなことをするとは思えないが念のため、あとでルリエに聞いてみるか。
そういえば、ルリエがいない。抱き枕にしていいと言っていたからてっきりあのまま寝たとばかり。
ごうんごうん。……これって洗濯機の音か?今日の分はまだ回していないはず。隣にしては音がうるさいし、なんだか近くで聞こえる。
ガタガタガタガタ。
次の瞬間、明らかにヤバい音がした。
ま、まさか……。
俺は、ベッドからバッ!と起き上がり洗面所に向かう。
「ルリエ、大丈夫か!?」
「龍幻、ど、どうしよう。洗剤が……泡が止まらないの」
ルリエは半泣きで、その場にペタりと座り込んでいた。どうすればいいかわからないとパニック状態だった。
「泡?って……今すぐ止めろ!」
俺はストップのスイッチを押す。
ピー。
「ルリエ、これで大丈夫だ」
「これで洗濯機、攻撃してこない?」
「してこない。だから安心しろ、なっ?」
「うん」
と、言ったものの、床は洗剤まみれで散らかっている。これは片付けが大変そうだ。
「なぁ、ルリエ。なんで洗濯機を回したんだ?」
「龍幻の役に少しでも役に立ちたくて……」
「洗濯はどのくらい入れたんだ?」
「……そこにあるやつをいっぱい」
「いっぱいって全部か!?」
「そう。そしたら綺麗になると思って」
さっきは色気があるとか成長したんだなって関心して褒めたばかりだってのに。これはデジャブだ。今のは、以前のダークマターを彷彿とさせた。
最近の俺が疲れてるのを察してか、ルリエは家事を手伝おうとしたに違いない。けれど、やはりルリエには家事スキルはないようだ。いくら人間界について勉強したとはいえ、たった数日で劇的に良くなるはずもない。
これは、もはや才能といっていいレベルなのかもしれない。ちなみに、この場合の才能は決して褒めてるとか、いい意味で使っていない。
洗剤を大量に入れたら綺麗になると考えが浮かぶ時点で根本的に間違ってるんだよな。一体、どこでこんなことを覚えてきたんだ。
もしや、ルリエの家庭は実は金持ちだったりするのか?家にはメイドが何人もいて、家事を一切したことがないとか。それなら、多少納得いくところもあるが、それにしたってこれは酷すぎる。
「ごめんなさい、龍幻。私、逆に龍幻に負担をかけてるよね」
「いや、そんなことは……」
ない。と、はっきり言えなかった。何をやるにしても不器用……ここまでいくと不器用を超えてる。それでも、ルリエは俺のために何かしようと頑張っている。それは凄く伝わるんだけどな。
「私、龍幻のためなら何でもしたいの。本当は料理も掃除とかも……でも頭では理解してても、いざ行動すると思うように出来なくて」
「そんなに落ち込む必要はない。俺だって出来ないことの一つや二つくらいあるぞ」
「本当に?龍幻にもあるの?」
「あぁ、ある。……それに俺だけじゃない。誰しも出来ないことはあるし、それこそ今のルリエと同じ考えを持つ奴はたくさんいる。だからこそ、自分に出来ることをして、互いのことを支え合うんだ。パートナーとはそういうものだぞ、ルリエ」
今の俺は、ちゃんと正論を言えているだろうか。ルリエを正しく教育出来ているか、そんな衝動に駆られる。しかし、恋人がいたことない俺が何故こんなにも熱く語れるのか不思議だ。
ルリエと数日暮らしたことによって、俺も少しは成長したってことか?そう思うことにするか。
「だから、ここは俺に任せてくれ。床に散らばった洗剤で滑ると危険だから、ルリエはリビングで待っててくれないか?」
「うん、そうする!」
どうやら、いつものルリエに戻ったようだ。落ち込んでいるルリエも子猫みたいで可愛いとは思うが、やはりルリエには笑った顔のほうがいい。
ルリエはリビングのほうに行き、俺は片付けを始めた。
「あれ?」
俺は、ふと洗面台の鏡を見た。……なんでヒビが入ってるんだ?朝起きて顔を洗ってたときは割れてなかったんだが。
縁起が悪いとか聞くし、今日にでも大家に連絡してみるか。それから黙々と床を掃除していた。
鏡にヒビが入っていた原因がまさか✕✕にあるなんて、このときの俺は知る由もない。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる