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一章

8話 改めてルリエの胸が小さいことを知った

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人間は、絶対に無謀だと思ったことは最初から挑戦しない。それは武器も持たず、敵に立ち向かうようなもの。

それをするのは、無理だとわかっていても戦いをやめない人か、それを強制的にしなければならないときの2択である。そして俺は今、その後者になっていた。

「龍幻、どれがいいと思う?」
「どれって言われても……」

服の買い物が終わり、隣にはゴスロリ服を着たルリエ。一人称も「私」、口調も一般的な話し方。身長は低いが、男にとっては小さいほうが好みだったりする。

今のルリエは知らないことが多くても、見た目は誰が見ても美少女の分類に入る。ここの店に来る間も男たちがチラチラ見ていた。俺がいなければ、間違いなくナンパされるだろう。が、しかし、だからこそ俺とこんな場所に来るのは良くない。

俺だって出来ることなら手伝いたい。一応、ルリエの保護者のようなものだし。けど、男の俺が女物の下着を選ぶなんて無理じゃないか?右を見ても左を見てもあるのは下着だけ。それはキラキラしたモノから、下着なのか?といったものまでさまざま。

正直、目のやり場に困る。さっきからソワソワして落ち着かない俺。こんなの童貞じゃなくても平常心でいられる人がいるなら今すぐにでも俺と代わってくれ。

「私じゃよくわからなくて」

俺だってわかんねぇよ。俺に聞かれてもと困った表情を見せるも、ルリエはこっちをジッと見つめるだけ。ピンチなんですと言わんばかりの顔だ。

「こ、これなんかいいんじゃないか?」

俺は近くにあった下着を一つ取って、ルリエに渡す。サイズなんて見てない、適当だ。こんなものまじまじと見れるほうがどうかしてる。俺には刺激が強すぎる!

「わかった。じゃあ、試着するから一緒についてきて」
「は?」
「だって自分じゃ似合ってるかわかんないし。試着室の前で待っててくれたらいいから」
「……わかったから着てこい」
「ありがとう。少し待ってて」

はぁ~と深い溜息を吐く。俺はルリエに頭が上がらない。動物を飼う時に躾のために悪いことをしたら叱ることも必要なんていうが、俺にはそれを実行することは不可能かもしれない。あんな可愛い子を怒るなんて出来ない。別に悪いことをしているわけじゃない。ルリエは、ただわからないことやヘルプを求めてるだけにすぎない。それが相手にとって恥ずかしいとか困るとか知らないだけなんだ。

慣れるより慣れろっていうしな……。相手を注意出来ないなら、俺のほうがルリエに従うしかない。人は時に諦めも必要とかいうし。……俺、ルリエに甘すぎるかも。と、思った。今は召喚した罪悪感はない。ただ俺がそうしたいと心から望んだだけ。せっかくルリエが楽しそうにしてるのに俺が断って空気を悪くするのは嫌なんだ。

ルリエには悲しい顔をしてほしくない。ルリエには笑っていてほしい。まだ出会ったばかりでこんなこと思うのは変かもしれない。けれど、思ってしまった。一人にすると危なっかしいのも事実だし……。

仕方ない、ここは俺が大人になろう。と、覚悟を決めて今の状況を見るも、やっぱり慣れない。そもそも下着ショップに慣れるってなんだよ。自分で言ってて意味がわからないぞ俺。そんな男はもはや変態の域を超えているんじゃないのか。

「龍幻、いる?」
「ああ、いるぞ。どうしたんだ?」

声はかけるもカーテンは開かない。ルリエの声はさっきよりも大分小さい。

「あのね、コレ見てもらったらわかるんだけど……」
「!?」
ルリエの手が出てきたと思ったら、その瞬間グイッ!と中に引っ張られた。
幸い、店員もまわりの人も気付いていない様子だった。

「お前いきなりなにす……」
「龍幻が選んでくれたから着たんだけど、カポカポで……」
「な、なっ……」

やばい、適当に取ったのが仇となった。ルリエにはサイズが合っていないのがもろにわかる。

「だったら合ってないって言ってくれるだけで良かっただろ」

どうしよう、目を合わせられない。

「だって、龍幻がコレがいいって言ったから」
「……」

なんなんだよ。さっきから俺の心臓がうるさい。このドキドキの原因がルリエであることだけはわかる。可愛すぎなんだよ、お前は。どうして考えなかったんだ?俺が真剣に選んでないかもって。その可能性はまるでゼロみたいにいうからタチが悪いんだ。

「あー!もう、わかった」
「!?」

俺がいきなり大声を出すもんだからルリエは何事?といった感じで驚いている。

「今度は真剣に選んでくる。だから、そこで待ってろ。わかったな?」
「は……はい」

俺の勢いに負けて、ルリエが敬語になってる。こんなに可愛らしい態度を見せられたら俺だってその期待に答えたくなる。あたりに誰もいないのを見計らって、俺は試着室から出る。そして、ルリエに似合うかつサイズが合いそうなのを物色する。真剣に選んでるせいでまわりは何も言ってこない。

「もしかして彼女さんにプレゼントされるんですか?」

が、店員だけは違った。そうか、そういう体で買いに来る男性客もいるのか。

「まぁ、そんな感じです。えっと……この店で一番小さいのってありますか?」
「小さい……ああ、Aカップサイズのブラですね。コレなんかどうでしょう?」
「あ、えっと」

店員は恥ずかしげもなく、俺にソレを見せてくる。わかってはいたが、これは反応に困るやつだ。それ良いっすね、といったらそっけなさすぎるし、かといって可愛いですねと言えば何コイツ……的な目で見られかねない。こういうときの回答を彼女がいる男に是非とも問いたいくらいだ。

「しかも、ブラとパンツがセットになってるんですよ。今ならお得ですよ。今の男性は上下揃ってるほうが良いですよね」
「そ、そうですね。お得ならコレにしようかな。彼女は試着室にいるんで持っていってもいいですか?」
「あ、そうだったんですね。これは失礼しました。どうぞ」
「ありがとうございます」

今の俺、不自然じゃないか?しかし、上下揃ってるほうがってなんだろう。上下セットが今どきの男性が良いって……うん、わからないな。
俺は店員から進められたピンク色の下着を持って、ルリエの元に向かう。

「ルリエ、いるか?お前に合いそうなの持ってきたぞ」
「いる、ありがとう。手だけ出すから渡してくれる?」
「あ、あぁ」

下着を渡そうとした瞬間、近くで見知った声が聞こえた。

「やっぱり神崎紅先生の描くマンガは最高すぎるとは思わないかい?」
「ふふっ。先輩は相変わらず神崎先生がお好きなんですね」

「!?」

あれは導!?なんでここに……いや、デパートだからいても不思議じゃないか。って、隣にいる女は誰だよ。まさか彼女か。あの野郎、やっぱりモテるのか。イケメンはいいよな……って、いけねえ。仮にも友人に俺はなんてことを。が、この状況って危険じゃないか?遠い距離とはいえ、知り合いって目につきやすいんだよな。

「龍幻、どうしたの?」
カーテンから顔だけチラリと俺の様子を伺うルリエ。
「いや、ちょっと知り合いがな。でも、俺の見間違いだった」
「そう?それならいいけど」

ルリエ、悪い。つい嘘をついてしまった。心配はかけたくないし、なにより見つかるかもしれないから気をつけろなんて言った日にはルリエのことだから変な緊張が走り、逆に目立って見つかる可能性が高くなるかもしれない。だったら普段通りにしててくれたほうがまだマシだ。俺の彼女ですと言えばいい話だが、ルリエが自分の正体についてポロリと口走ってしまうことだってある。

---ゾクッ。なんだ、今すごく見られたような。前にも似たようなことが何処かであった気がする。……だけど、それがどこだったのか思い出せない。

俺は細心の注意を払いながら、ルリエが着替えるのを待っていた。それはもう心臓が口から飛び出そうになるくらいバクバクしながら。
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