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Prolog

童貞は怪しい儀式でサキュバスを召喚する

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「やっぱり夜は冷えるな……」

十一月半ば。俺は一人、山奥にいた。

そこは、一部の人しか足を踏み入れない。
それもそのはず。この場所は、ホラースポットとして有名だ。なにより、今は夜中。

好き好んでこんな時間にいるのはホラースポットに興味がある奴か、それ以外の理由だ。ちなみに俺は後者だ。

目の前には怪しい魔法陣。
これは俺が寒空の下で描いたものだ。

はたからしたら、不審者扱いされて通報も免れないだろう。

もし警察に職務質問されても、上手い言い訳は見つからない。

俺は大学生《がくせい》だ。
魔術なんてからっきしの、ただの人間。

ちなみに、年齢=彼女いない歴で気付いてる奴もいるかもしれないが、察しの通り童貞だ。

そんな俺が、何故こんなことをしてるかって?

それは……サキュバスを召喚するため。

サキュバス。それは美しい姿をしており、性行為を通じて男性を誘惑する。通称、淫魔とも呼ばれる。

今まで恋人が出来なかった俺は、今年で二十歳を迎える。

これから現実の彼女を作るなんて無謀な話だ。
諦めるのはまだ早い?女とキスも手すら繋いだことがない俺だぞ。

だから、こうして夜な夜な怪しい魔術に頼っている。

笑う奴がいるなら好きなだけ笑うがいい。
俺は今から童貞を卒業するのだから。

「最後に俺の血をっと……いてぇ」

ナイフで軽く手を切り、その血を魔法陣の中にポトンと落とす。

そして、俺は魔術本を読みながら召喚の儀を行った。

あと少しで最後のセリフ……と思いきや、

「は、は……はっくしゅん!」

盛大にクシャミをしてしまった。

やべぇ。この儀式は神聖なものなのに。
サキュバスは悪魔に分類されるから、神聖と言うにはさほど程遠いかもしれないが。

瞬間、魔法陣が光を放つ。

今ので成功、したのか?

大学の図書館で借りた、見るからに怪しい黒魔術の本に効果があるなんて誰が予想しただろうか。

案外、馬鹿にできないものだな。

ボフン!と煙が立ち込める。

「ゴホッゴホッ」

俺は咳き込む。だが、無事に召喚は出来たらしい。

だが、ここに来て召喚の途中にクシャミをしてしまった不安が残る。
 
ケルベロスなどといった魔物系だったらどうしよう。

いくら童貞とはいえ、動物とヤる趣味は持ち合わせていない。

「な、なんでぇ~!!いやっ、こんなの!」

「へ?」

女の声がする。その影はこちらに徐々に近づいてきて……

「キャンっ!?」

「ってぇ!?」

あろうことか女は、俺めがけてアタックしてきた。アタックというよりは激突したといったほうが正しいかもしれない。

俺は、咄嗟に相手が怪我をしないように抱きしめた。

が、あまりの衝撃に後ろに倒れる。頭をぶつけた。普通に痛い。

女は……見る限り怪我はしてないようだ。

「んっ……!」

「なんだ?この柔らかい……」

フニフニと柔らかい感触。だけど、手におさまるくらいの……まさか、これは

「やぁー!触んないでよ、エッチ!!!」

バシッ!!!!と響き渡る音。

何が起こったかわからなかったが、頬がジンジンと痛む。

どうやら俺は女にビンタされたらしい。

やはり、今のは胸だったのか。童貞には刺激が強すぎる。でも、小さすぎて触れた瞬間は判断に戸惑った。
 
煙が少しずつ消えていく。

女の姿も露わになって……

「あなたが私を召喚した人?
なにか着る服ちょうだい!」

月明かりに照らされてキラキラと照らされている銀色の髪。それは腰まで伸びている。が、枝毛一本すらないようにも思える。 そして、クリクリとしているルビー色の大きな瞳。

心を奪われそうになるほどの外見。

さすがはサキュバス。興奮したぜ……と言いそうになったが、前言撤回。

「こ……子供?」

何故なら、その正体は子供だったのだから。どういうわけかわからないが、全裸である。
心を奪われそうになった俺のトキメキを返してくれ。

さすがに小学生のガキに欲情するほど溜まっているわけじゃない。

……召喚はどうやら失敗したらしい。

いや、でも待てよ。俺は人を召喚したわけじゃない。見た目は子供でもサキュバスはサキュバス。きっと俺を気持ちよくしてくれるに違いない。

しかし、触れた時はぷにっとしたが見ただけだと本当に胸がない。

普通サキュバスっていったら、巨乳の年上姉さんを想像するだろ?

……うん、普通にヤバい。何がやばいかって?
この状況そのものが、だ。

夜中、大学生の俺と子供。誰がどう見ても即警察に電話するに違いない。ホラーマニアがたまたま通りかかって見られたら……と考えるだけで、冷や汗が。

「服ー!寒いっ!」

「わかった、わかったから!」

肩を捕まれ、揺らされる。そんなことをされたら、ぶつけた頭が響く。頭痛が悪化する。

って、俺が助けたのは、この子供にはわからないよな。

俺はコートを子供に着せてやった。

……ダラーン。スカートよりも長い。俺のコートが地面についてる。

これで歩くのは無理じゃないか?

「なぁ。お前さ、名前は?
あと、念の為に聞くが年齢とか聞きたいんだが……」

返答次第では、俺が救われるかもしれない。
成人していたら合法だし。って、サキュバスに合法も犯罪も存在しないか。

「十六!名前はルリエ」

「んー……十歳かな?」

「あなた耳が悪いの?十六。
こっちでいうと高校生!」

「え……嘘だろ」

相手には悪いとは思っていたが、信じられず言葉を発してしまう。

見る限り、身長140cmくらいで顔も幼い。胸に関していえば、お世辞にもあるとは言えない。むしろ、ないに等しい。

そんな子がまさかの高校生。ホッと安堵する。が、いや待て。高校生なら未成年ということになる。それは……間違いなく犯罪。これって援助交際とかそういうのに近い、のか?

だが、サキュバスなら問題はない。

「ルリエ。俺は白銀《はくぎん》龍幻《りゅうげん》。お前を召喚した主だ。サキュバスなら、この後は言わなくてもわかるよな?」

侍従関係。召喚したのが俺なら主はオレ。つまり、俺の命令は絶対というわけだ。

お決まりのセリフを吐いた。鏡で自分を見たのなら、今の俺はきっと悪い顔をしてることだろう。しかし、今はそんなことはどうだっていい。

「召喚をしたのが貴方なら、私は貴方の家に住む。責任取ってくれるってことでしょ?」

「ん?」

微塵も俺の話が伝わっていないようだ。なんだろう、さっきから感じるこの違和感は。

「私はサキュバスだけど、まだ見習い。
魔界で勉強してた。それで勉強終わったからお風呂入ってたら、急にここに……。
そもそも貴方が考えてるようなこと、私は一度もしたことがない」

「見習いぃぃぃぃ!?」

山奥に響く俺の大声。あまりの衝撃に俺は叫ばずにはいられなかった。

……俺、来世は魔法使いになろう。と決意した瞬間だった。

これが、見習いロリっ子サキュバスと童貞の俺、白銀《はくぎん》龍幻《りゅうげん》の出会いである。
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