一人の少女の物語

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王太子殺害事件からひと月が経過しました。

私はアリア・ユーンダルト公爵令嬢様に幼少期からお仕えしていました。アリア様のお母様であらせられるリアネスタ様はとてもお美しく、旦那様に冷たく接せられても笑顔を絶やさない素敵な芯が通ったお方でした。

奥様が亡くなられた時はアリア様はまだ幼く、唯一心を開いていらした奥様の死ということで、アリア様は心を誰にも許すことが無くなってしまいました。旦那様はアリア様を可愛がることはなく、王太子殿下を可愛がっておいででした。

幼少期から仕えていたとしても所詮私は旦那様に採用され、派遣された侍女に過ぎません。どれだけアリア様を思っても顔に出すことも声に出すことも出来ません。私のような下働きの侍女が差し出がましい真似をすればこの首ひとつなど容易くとんでしまうのですから。結局のところ私も自分が可愛くて自分の身を差し出すことが出来ない臆病者なのです。

そんな環境の中でも、アリア様はたいそう美しく儚げな雰囲気を持った女性に成長されました。私はそれを心の中で嬉しく思いつつも、それを口に出すことはやはり出来ませんでした。

ですが、今はそれを酷く後悔しているのです。あの時あの瞬間アリア様にお声をかけていればアリア様が死ぬことなど決してなかったのではないかと。私の弱さがアリア様を救えなかったのだと。

声を発することも行動することも何も出来なかった自分が後悔など大変ふざけていることだとは自覚しておりますが、それでも後悔することしかできませんでした。アリア様を思っているつもりでなにも出来ない自分を責め続けることでしか私はアリア様がいない事実を受け止めきれないからです。

そんな中、私は今日も一人の侍女としてユーンダルト家にお仕えするのです。願わくは、アリア様の面影が屋敷からたえることがありませんように、と。
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