上 下
39 / 82

2章 幕間

しおりを挟む
 闇の中で光るものがある。
 刃物のように細く、鋭い。触れるものを、いや触れずとも見ただけで斬られてしまう、そんな気配を漂わせていた。
 それが暗闇にひとつふたつと浮かんでいる。白い縁取りに丸く澄んだ黒い点。人の瞳である。

「ここも終わりだな」

 一組の目が揺れ動く。周囲の目も追従する。

「これからどうするの?」

 幼さの残る少女の声が反響する。
 ……そうだな。
 問われた側はすぐには答えない。浅い呼吸を繰り返し、瞳は闇に消える。
 その時だった。獣の咆哮のような音が響き、壁が震える。同時に明かりが灯り、眩い閃光が駆け抜ける。
 床に壁にと置かれた投光器が一斉に光を放っていた。中央に置かれた発電機はガソリンを喰らい、唸りを上げる。闇に紛れていたものがその姿をさらけ出していた。

 数十人の男女が立ち並ぶ。目を閉じていたのは男性で、その身体に絡みつく少女の姿があった。
 そして、その下には数多の人間が層を作っていた。どれも赤い化粧が施されて、酸素を吸えるものは残っていない。
 死体の山に立つ男性は少女の頭に手を乗せる。そして引き剥がすように押しのけ、もう片方の手に持っている銀の長剣を足元に刺す。
 肉を千切る音が鳴り響く。幸いなのが既に息絶えていることだろう。絶命の悲鳴が再度上がることはなかった。
  
「北のスワンプウィードか、南のフロントタワーか…」

 指折り数えるが、すぐに止まる。彼らの目的地が多くないことを示していた。
 ……さて。
 男性は無意味に彷徨う手を下ろして考える。
 燃料はある程度確保できた。しかしいつも不足しがちになるのは食糧だ。
 並んでいる顔を見る。どれも飢えて目がくぼんだもの達だ。率いる者としては何としても食わせていかなければならない。
 どこのコロニーも余裕がないことはわかっている。優先順位をつけるならばまず身内から、よそ者に分け与えるにしてもそれからだ。
 男性は頭の中にあるデータを片っ端からひっくり返す。次がハズレなら餓死者が出る。その事実は何時だって足を竦ませる。
 ……ん。
 ひとつ。ひとつだけ候補が上がる。
 少しだけ遠いが食糧は切り詰めればどうにかなるはずだった。
 ならば進もう。それ以外の道は崩れているのだから。
 男性は顔をあげて着いてくる者たちを一望する。

「次はタールフルスだ。準備を急げ」

 それが吉と出るか凶と出るか。答えは降りしきる雪の先にあった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...