【R18】彼女が友だちと寝ていたから

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第31話 晴海1

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「いやまぁ、それが原因というかそれも原因というか……」

 夕凪は隠し事しても無駄だと思い白状していた。晴人の話では既に親同士の関係を知っている彼女に嘘は通用しないのと、ついたら大人と同じになると思っていた。

「……そ。とうとう気付いたんだね」

 一段低くなったトーンで晴海は言う。
 彼女は夕凪の後ろに回ると、その両肩に手を置いて、

「それでどうしたい?」

 優しく問いかけていた。
 ……どうしたい、か。
 夕凪は直ぐに返答を用意出来なかった。どうしたいか、一番悩んでいるのがそこだったからだ。
 嫌だと言ってやめるものではない。特に一紗は強く拒否するだろう。子供には関係ないと言って。
 今更普通になれと言っても同じことだった。既に産まれている子供もいる。そう考えれば意味の無いことだった。
 ただあえて言うのなら、

「男同士はさすがにどうかと思う」

「……えっ?」

「ん?」

「あ、えっと……ごめん、そこまでは知らなかったわ」

 晴海は苦笑いをしていた。
 ……気づいてるって言ったじゃん!
 話が違うと夕凪は頬を膨らませていた。事情を知っているのではないのか、そう思って話し始めたのに。

「えっと、お姉ちゃんはお父さん達から話を聞いてるんだよね?」

「いや聞いてないよ。だいたいそうなんだろうなって察してそれ以上はね。触れていい問題なのか迷うじゃん?」

 分かる。ノータイムで聞いた自分が言うのはなんだが、信じたい気持ちがあれば普通は躊躇うような気がして夕凪は頷く。
 いっそ知らないままならよかった。でももう遅い。

「でさ、詳しく教えてよ。どんな話してたの?」

「言っていいのかなぁ……」

「もう言ったようなものじゃん。隠されるとお姉ちゃん除け者みたいで寂しいよぉ」

 晴海は口元に笑みを貼り付けて泣き真似をしていた。
 ……仕方ないか。
 聞こうと思えば一紗か和なら快く教えてくれることだろう。それを先に言っても不義理には当たらないはずだ。

「えっとね──」

 夕凪は自分の聞いたことを話始める。
 改めて整理していくと、もやもやとした気持ちが少しだけ晴れるようだった。





「──はえぇ」

 話を聞いた晴海は奇声をあげていた。目には困惑を浮かべて、中途半端に開いた口は閉じ方を忘れていた。
 その知性の感じられない表情に、夕凪は苦笑していた。誰だって親の痴態を目の当たりにすればそうなるのは仕方がなかった。

「で、お姉ちゃんはどう思ったの?」

 自分よりも早く真相に気付いた姉の意見を夕凪は待つ。
 ゲームオタクだが決して馬鹿ではない。それどころか秀才、天才の部類に当てはまる彼女がどう結論付けたのかが気になった。
 晴海はうーんと短く唸ると、

「私の時はとりあえず事実確認だよね。人に聞けないから」

「どうやって?」

「親の部屋に録画したスマホを置いといた。拾えたのは音声だけだけどね」

 なるほど……
 夕凪はこくこくと頷いていた。音声だけとはいえ状況を把握するならば十分。別に証拠集めをして訴えたいわけではなく自分が納得できればいいのだから。
 晴海はにへっと笑って見せた。なぜ、という間もなくスマホを取りだすと、

「聞きたい?」

「え?」

「これはこれで結構生生しいよ」

「やめなよ、趣味悪い」

 夕凪がそういうと、晴海ははーいとやる気のない返事とともにスマホをポケットにしまっていた。
 そのまま下がり、ベッドに腰かけた彼女に、夕凪は椅子を回して相対する。

「その後はどうしたの?」

 そう尋ねると、晴海は笑顔のまま、

「あー、ぶっ殺そうかなって思ってた」

「……本気?」

 その言葉に返答はなかった。ただ晴海は笑みを強くして夕凪の芯に目を向けているようだった。
 怖い。いつもの姉とは違う空気を感じ取って、身震いする。
 先ほどの言葉が嘘や冗談には思えず、夕凪は下唇を噛みつつ晴海を見つめていた。
 すると、彼女はゆっくりと首を振って、

「やだなぁ。実際するわけないじゃん。ちょっと気持ち悪いくらいでそこまでするほど馬鹿じゃないよ」

「わかりにくいんだよ」

「まあ。しんじゃえって思ったのは事実だけどね」

 腹の底から鳴る声に、夕凪は息を飲む。
 ……本気なんだ。
 想像と違う答えに驚きを隠せない。いつものらりくらりと悩みのない顔をしている姉の姿とは違う一面に、本人かどうかすら疑わしくなる。

「でさ」

 晴海は力ない笑みを浮かべてベットに倒れこんでいた。そして片手を持ち上げるとこっちにこいというように手招きをする。
 何だろうと思いながら夕凪は素直にそれに従っていた。彼女に並ぶように座ると、左手に晴海の右手が重なっていた。

「何?」

「とりあえず家出した」

 とりあえずって……
 本心を隠すような冗談っぽい答えに夕凪はむっと唇を前に突き出していた。適当なことを言われるのは心外だった。
 ……えっ?
 震えていた。重ねられた手が細かく。
 弱弱しさすら感じる行為に夕凪は思考が停止する。不遜《ふそん》な姉らしくない態度に言葉を失っていた。
 そんな夕凪を置いて、晴海は話を続けていた。

「あの時は、十五、中三の頃だったかな。こんな家いたくないって飛び出して。友達の家にも行けなくてさ。このまま一人で生きてやるって思いあがってたのよ。つっても金も家もないからね、公園とかにいても警察に補導されちゃうじゃん。だからさ――」

 彼女はそこで長い一息をつく。喉の奥に引っかかってなかなか出てこない言葉を無理やり押し出すように、

「――結局頼った方法は援助交際だったんよ」

「本当?」

「マジマジ」

「……そんなことなんで私に言うの?」

 冗談にしては笑えない。本当だとしたら頭がおかしい。
 夕凪は手を返して掴むように握っていた。そしてかすかに潤んだ晴海の目に自分の目を近づける。

「隠していれば良かったじゃん。なんで言っちゃったん?」

「ゆーちゃんには知っていて欲しかったんだよ。馬鹿が馬鹿だったから馬鹿やったってことを」

「お姉ちゃんが馬鹿だったらみんな馬鹿だよ」

「学校の勉強だけが全部じゃないんだよ。救いようのない馬鹿って言うのはね、どんどん自分の価値を下げるようなことを平気でしちゃう奴のことを言うんだよ」

 わからない。わかりたくなかった。
 晴海は身体を起こすと、夕凪に抱きついていた。首を肩に乗せて、ゆっくりと息を吸う。

「高々五千円とコンビニのお弁当の為に名前も知らない男に処女散らしてさ。同じような頭の悪い女の子達と並べて輪姦されて。翌日汚ったない身体と晴れた頭で考えたんよ。殺したいほど嫌いな親達より下になっちゃったらなんの意味もないってね」

「もっと早く気付こうよ」

 晴海はそうだねと苦笑していた。
 ……あぁそっか。
 荒れてたというのはこういうことかと夕凪は納得する。同時に腹立たしくも思っていた。そこまで追い詰められていたことにも気付かずにのうのうと生きていた自分に。
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