【R18】彼女が友だちと寝ていたから

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第30話 晴人11

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 話の九割以上をぼかして語り、晴人は一息ついていた。
 ……さすがにな。
 目の前にいる夕凪はもう中学三年になる。性知識も人並みにはあるだろうから、ちゃんと話せば情景を思い浮かべることは簡単だろう。教育に良くない内容かもしれ ないが、正しく理解できる聡い子であると晴人は信頼していた。
 ただそれ以上に痴態を赤裸々に語ることへの羞恥が晴人の口を重くしていた。結局は怒られて罰としてフェラをした程度のことしか語れていなかった。
 それを聞いた夕凪は無表情を浮かべていた。その皮の下にどのような感情があるかは分からず、ただ溜息を一つ漏らすと、

「おかしくない?」

「おかしいよなぁ」

 真顔で言われたことに対して晴人も同意する。
 今考えても明らかにおかしい。揶揄されたからと言って普通は男の股間を舐め回させたりはしない。
 しかししてしまったのは、

「……若さって怖ぇよな」

 ただの若気の至りとしか言いようがなかった。
 特異な環境でタガが外れていた。でなければ強く拒否していただろう。
 とはいえ今となっては過ぎてしまったことだ。もうどうにもならないし、どうだっていい。
 しみじみと頷いていると、夕凪が覗き込むように視線を向けていた。
 そして躊躇いがちに、

「……今はそういうことしてないんだよね?」

「してないしてない」

「ほんと?」

「本当だって。するわけないだろ」

 晴人はそう言って笑みを浮かべていた。
 ……すみません。
 本当は時偶している。女性陣の要望で仕方なくだが、やりやられは数え切れない。今ではそう忌避感もなくなってしまったことが少し悲しくも思えていた。
 勿論それ以上はしていない。そもそも乱交自体滅多にないのだ。夜男同士で集まったとしてもそういう雰囲気になる訳もなく、くだらない話やテレビを見て終わることの方が多かった。
 夕凪はしばらくじとっとした目で見つめていたが軽く息をつくと、

「わかった。信じる」

 口を真横に結んで頷いていた。
 よかった、と思ったのもつかの間、

「一応お母さんに確認しておくね」

「待て」

「なんで?」

「……待ってください」

「だからなんで?」

 晴人は冷や汗をかいていた。心臓の下が恐ろしく冷えて、腹痛を起こす。
 笑顔が怖い。ここは失敗できないと決心して言葉を選ぶ。

「……お小遣いで手を打ちませぬか?」

「さいてー」

 信用が底値を割る音がした。




 ……なんなんだろうなぁ。
 夕凪は一人自室にいた。学習机に向かいノートを開いたまま、物思いにふけっていた。
 晴人から話を聞いて数日が経ち、気持ちの晴れない毎日を送っていた。原因は両親達のせいとわかっている。想像以上にヤバい奴らだったし、あと数年はその庇護下にいなければいけないことも理解していた。
 短い言葉で言えばキモい。汚らしい。人様に顔向け出来ない。ビッチとヤリチンの間に産まれたことを後悔してもしきれない。
 でも、悔しいことに家族仲は非常に良好だった。子供を蔑ろにしたことも無いし、お金に不自由もしていない。身嗜みには気を使い、旅行だってシーズンに一度以上行くほどだ。
 大変恵まれている家庭なのは、この歳になると実感する。学校のクラスの中にひとり親家庭の子も珍しくはなく、どう見てもお下がりのボロを着ている子もチラホラと見かける。
 ニュースでも親の虐待だなんだで亡くなる子供がいる中、五体満足で好き勝手出来ることは感謝しかない。しかしこれで普通の家庭だったらと思わなくもない。
 ……無理だろうなぁ。
 親達は何処か欠けているのだ。そこを補うように生活をしている。普通の家庭のように二人で子育てなんてしていたら早晩破綻していたことだろう。
 互いに補いながら、それがたまとまうまくいっている。そして子供達もその恩恵を受けていた。十四年と少しという年月は、感情的になって家出を考えるほど子供でいさせることを許しはしなかった。
 嫌なものは嫌。しかし今更普通にはなれない。夕凪にはやり場のない気持ちを吐き出す場所がなかった。
 その時、

「イエーイ。ゆーちゃん起きてる?」

 そう言って我が物顔で入ってきたのは晴海だった。彼女は寝間着姿で手には二リットルの炭酸飲料とグラスを二つ持っていた。
 嫌になるほどテンションが高い彼女に夕凪はため息を漏らす。単純な上機嫌さの原因は恐らくゲーム関係だろう。

「何?」

「……あら、随分トゲトゲしいじゃん。なんかあった?」

 近づいてきた晴海はグラスを机に置きながら聞いてくる。
 そんなに態度に出ていたかなと反省しながら、夕凪はただ首を横に振っていた。

「なんでもないよ」

「そう? あ、もしかしてちょっと前にお父さんが家を追い出されてたのが関係したりして」

 なわけないかと笑う彼女にドキリと心臓がなる。
 晴人と話をした後、速攻で一紗に事実確認をしたことが海の耳にも入り、猛烈に怒った彼女が晴人を出禁にしていたのだ。一日だけで済んだとはいえ着の身着のまま放り出された晴人に少しだけ罪悪感を覚えるとともに、海からも小言というか言い訳を聞かされていた。
 まったく気にする様子のない一紗と比べて、海はそういうところは保身に走る。

「いい? 別に趣味とか性癖とかそういうのじゃないの。馬鹿につける薬がないっていうか、悪いことしたらお仕置きが必要でしょ? 何回言っても聞かないんだから仕方がないの。こっちだってやりたくてやってるわけじゃないのよ、わかるわよね?」

 子供のようにつらつらと意味のない言葉を重ねては、最後は決まって、

「そうか? 男どもの絡みの後は積極的になるって和が言ってたぞ?」

「一紗っ! そういうことは言わないの!」

 一紗にからかわれて喧嘩するのがお決まりの流れになっていた。
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