【R18】彼女が友だちと寝ていたから

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第25話 晴人6

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 それから一週間が経ち、無事試験を終えた晴人は一人自室にこもっていた。
 趣味のもので固められた部屋は小奇麗に整頓されていて、フローリングは埃がなくワックスが照明を反射させている。
 折り畳みの机には勉強の跡が残っていた。開かれたノートには書きかけの文章が残っていて、すでにインクは乾いている。昨日からずっとその状況であった。
 晴人はベッドの上で寝転がっていた。枕元に置いたスマホを見ることもなく、視線はうつろに天井を眺め。
 ……なんか、なぁ。
 本日何度目かわからない溜息をついて、晴人は目を閉じる。
 あれから、あの日からも何度か海と会っていた。しかしその間にはいつも必ず和の存在があった。
 彼氏なんだから当然で、三人で遊ぶのもいつも通り。
 そう、いつも通りのはずだった。何事もなかったようにふるまってくれるなら晴人も諦めがつく。しかし明らかに海は意識していた。目線も態度も話し方も、遠慮のようなものが見られてしまっていた。
 まずいと、晴人は感じていた。急な態度の変化に和はすぐに気づいてしまうだろう。そうでなくてもほぼ不審者のような振る舞いに周りが気づいて、和に知らせてしまうかもしれない。 
 晴人はスマホを手に取って、そして何もせずにまた置きなおしていた。身体を弛緩させて、またため息をつく。
 ここ数日やる気の出ない毎日だった。中途半端に満たされたせいで、逆に腹が減るような感覚が嫌だった。吹っ切れてほかにいい人を探そうという気持ちにもなれず、忘れようにも海の態度がそうはさせない。
 ……ダメだなあ。
 晴人は苦虫をかみつぶしたように顔をゆがめる。簡単な方法は知っていた。海とも、和とも距離を置けばいい。それですべて解決するというのにできないと言い訳する自分が情けない。
 どこかで期待をしているのだ。二人が破局して、海が自分を選ぶ。そんなみみっちい考えを捨てられずにいた。
 その時、スマホが突然鳴動していた。
 連絡だ。誰かからの。
 取る気になれず、晴人は背を向ける。どうせ大した用ではないはずだと決め付けて不貞寝していた。
 三分、五分と過ぎて、晴人はスマホを手に取っていた。堪え性のないことに呆れた笑みを浮かべて、中身を確認する。
 ……まじか。
 画面を見て、晴人は固まっていた。固まらざるを得なかった。
 何故なら相手は愛しの彼女からだった。

『今日会える?』

 簡素なメッセージを一目見て、冷汗が止まらない。
 ……もしかして。
 内心焦りながら晴人は返事をする。

『和がいるのか?』

 ばれたから呼び出されたんじゃないか。そう思ってしまった。鼓動が早鐘を打ち胸を締め付ける。呼吸をするのも辛くなっていた。
 しかしすぐに来た返事は予想とは違うものだった。

『なんで? バイトでいないけど』

 ……んん?
 画面を見て、返信を打つ指が止まっていた。
 どういうことだと自問する。和がいないのに逢いたい理由はなんだ。何か困っていることでもあるのか、例えば男手が必要になったとか。
 晴人は眉間にしわを寄せて考えていた。打った文字を消してはまた打ち、また消してを繰り返す。
 ためらっているうちに再度海から返信が来ていた。

『慰めて』

 短い文章に晴人も答える。

『つらいことでもあったのか?』

 打って、あれ、と疑問が浮かぶ。その答えを導く前に返信が来た。

『身体』

「……お、おう」

 晴人は思わず声を出していた。あまりに直球な単語にたじろいでしまっていた。
 いや駄目だろと、すぐに否定をする。不貞を誘われた。一度なら事故と言ってもいいかもしれないが、わざわざ誘ったのならもう事故でも何でもない。
 同時に、この一週間の間に海と和がセックスをしていることも理解してしまった。その欲求不満を今ぶつけられているのだ。そう考えると、薄汚い優越感がむくむくと沸いてきてしまう。
 断る。断らなければいけない。
 晴人は深く息を吸って、気持ちを落ち着かせていた。冷静に、普段通り。焦らずに、理性を持って相対すれば問題はない。
 手早く返信をして、スマホを投げるように置く。浅い呼吸を繰り返して、晴人は枕に顔を押し付けていた。
 全身がむず痒い。くぅと口から息が漏れる。しばらくの間足をばたばたとさせていた晴人は、突然立ち上がると最小限の荷物を持って部屋を出ていった。
 その日から度々遅くまで帰らないことが増えるのだった。




「という訳で、はまっていった結果半年後に見つかったって訳だ」

 晴人は力無く笑いながら言う。
 その姿がおじさん臭くて、嫌だなと思いながら夕凪は彼を見ていた。
 よく分からない。それが話を聞いた感想だった。好きで好きでたまらないのに、最初の一歩に躓いてしまった。その結果が浮気というのは違うとわかっていてものめり込む。これが少女漫画ならそこまで行く前に本命が助けに来るだろう。でもそうならなかった時の知識が夕凪にはなかった。
 ……やだなぁ。
 夕凪は口を尖らせながら考えていた。誰が悪いというなら皆悪い。手を出した晴人も誘いに乗って関係を続けた海も。その原因を作った和も。誰かがもう少し自省の心を持っていたらそうはならなかった。それだけの話だ。
 でもそうすると自分は生まれていなかっただろう。この家もなく、姉と呼べる人もいない。三人の母も三人の父もいない。それが普通であり、普通じゃない自分は存在してはいけない物だった。
 すべてが狂った原因があるとするならば、それは一つしかない。セックスだ。それのせいで全部がおかしくなる。つまりそれだけ人を狂わせる魅力があるということだった。
 それほど気持ちがいいものなのか。興味はあれど体験したことがない夕凪にとって完全に未知なことだった。そしていずれ体験することになることを想像して末恐ろしいと感じていた。

「ごめんな」

「ふえ?」

 突然の謝罪の言葉に、夕凪は気の抜けた返事をしていた。
 晴人は背を丸めて、指を付け合わせていた。大きいはずの身体を小さく見せて、彼は口を開く。

「俺たちの事をちゃんと聞いたのは子供の中では夕凪が初めてなんだ。だから何処まで話していいか皆も手探りでな。それでもちゃんと聞いてくれることに甘えてるんだと思う」

「お兄ちゃんもお姉ちゃんも……」

「あぁ。と言っても柾《まさき》だけは事情が別だけどな。晴海はいつの間にか気付いてて、でも対して変わらなかったように見えたよ」

 ……お兄ちゃん、か。
 夕凪は唯一家を出ている兄の顔を想像していた。
 金堂 柾。左近と陽菜の子供であり、既に成人を迎えている彼は、今日本にはいない。オーストラリアで楽団に入り生活をし、既に結婚もしている。子供はまだないが、イギリス人の奥さんと仲良くしているとの事だった。
 変人が多い我が家の中で違うベクトルで変なのが彼だった。高校を卒業後特に理由もなくベトナムへ行き、インドで結婚して今はオーストラリア。彼の話をするには世界地図を用意しなければならないし、用意したところでその行動の理由は誰にも分からない。
 つくづく変人しか居ない家だと、夕凪は呆れていた。だからこそ今はまだ落ち着いていられるのかもしれないと考えると、良くもあり悪くもある。奇抜に慣れてしまうような人生を望んではいなかった。
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