【R18】彼女が友だちと寝ていたから

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第17話 夕凪2-2

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「金曜はごめん!」

 週明け。
 学校に着いてそうそう席に座っていたゆかりに対して、勢いよく頭を下げていた。
 他の生徒の注目を集める中、目を白黒させていたゆかりは一呼吸置いて柔らかく微笑んでいた。

「いやー、私も悪かったよ。ごめんね」

「ううん、大丈夫」

 夕凪は首を横に振る。そして顔を近づけ、小声で囁いていた。

「でも、悪ふざけでもあれは駄目だよ。ちょっと怖かったんだから」

「そんなこといってぇ、身体は受け入れてるように見えたぞー」

「止めろっての」

 不用意に伸ばされた腕を夕凪は軽く叩き落とす。
 何時もの感じに、笑い混じりのため息が漏れた。

「興味があるのはいいけど勘違いしてると大人になって大変だよ?」

「勘違い?」

 可愛らしく小首を傾げる彼女に、夕凪はそうよと断言する。

「自分はレズなのかもって、思春期特有のあるあるらしいよ。一過性のものけど引きずるとチャンス逃しちゃうかもしれないし」

「は、はぁ……」

 ゆかりは力無く頷いていた。
 いつもと違う調子に、消化出来ない異物感を胃に感じる。
 どうしたんだろう。なんか気持ち悪いよ。
 夕凪は励ますようにゆかりの手を握る。冷えた手に驚きつつも、体温で溶かすように擦り、

「どうかした?」

「いや、別に」

「別にって……んー」

 ゆかりが別にという時はだいたい何かある時だった。それがわかって問い詰めようとして夕凪は息を吸うに留めていた。
 このまま続けていれば意固地になったゆかりは何も話してくれなくなる。それを嫌って夕凪は、

「……わかった。言いたくなったら相談してよね」

「うん……」

 煮え切らないなぁ……
 ゆかりの態度に思うところがあっても夕凪は飲み込むしかなかった。
 いずれ話してくれる。今はそう信じるしかなかった。


 いつの間にかに放課後を迎えていた。
 今日一日ろくにゆかりと話せていない。見えない壁があっていつも通りに接することが憚られていた。
 ……はぁ。
 夕凪は憂いを込めた吐息を吐いて、独り下校をしていた。
 このまま帰れば家族が待っている。家にいるのは産休中の陽菜と、その子供たち。他の大人たちはまだ仕事をしている時間だった。
 慣れ親しんだ道を歩き進む。ただ家に近づくにつれ、その足取りは重く苦しいものとなっていた。
 理由は特にない。何となく、ただ何となく直ぐに帰りたくはなかった。

「あれ、夕凪ちゃん?」

 突然後ろから話しかけられ、夕凪は立ち止まる。最近聞いた声に誰だっけと思いながら、夕凪は振り返っていた。

「あ……えっと」

「晴海先輩の後輩の、晃だよ」

 ああ、そうだと記憶が呼び起こされる。
 夕凪は姉ともども迷惑をかけたのに記憶から飛んでいたことを恥じて、

「その節はどうも」

「あ、いや。難しい言葉を使うんだね」

 そうかな?
 苦笑する晃に合わせるように夕凪も苦笑を浮かべていた。

「今日は……一人ですか?」

 夕凪は辺りを見渡してからそう尋ねていた。
 そこにあの姉の姿はない。いつも一緒のように言っていたのに、不審に思っていると、晃ははにかむように笑っていた。
 何かあったようだ。その理由は彼の口から直接聞くことができた。

「先輩は部活中だよ。ちょっと居づらくて、一年は全員帰らせられたんだ」

「どうしたんですか?」

「んー……」

 晃はためらいがちに空を見上げていた。そしてま、いいかと頷いてから、

「ゲーム部なのは聞いてる?」

「はい」

 夕凪はこくりと頷いていた。
 晴海の所属している部活がそれなのは本人の口から聞いていた。ただでさえ四六時中ゲームをしているのに部活動までゲームにしなくてもと母親の海が呆れていたのが印象的だった。
 晃はうんと頷いてから、

「ゲーム部も活動が二つあってね。プレイするほうと制作するほうに大体わかれているんっだ。で、今日が制作したゲームのお披露目だったんだけど、先輩が一から十まで駄目だししちゃってね」

「ああ……」

「商業用じゃないんだからそこまでクオリティーを追求しなくてもとは思うんだけど、先輩は妥協とかしないから。プレイヤーの意見を全部取り入れてたら完成なんてできないけど、あの人正論で叩き潰すでしょ。せっかく作ったものを頭ごなしに指摘されたら他の先輩も引くに引けなくなって大戦争中なんだ」

「……すみません」

 夕凪は申し訳なくなって頭を下げていた。
 強情なところは海そっくりで、理詰めで追い詰めるところは一紗に似ている。両者の面倒くさいところを合わせて煮詰めたような晴海の性格に、家族内でも手を焼いていた。
 流石に外では猫をかぶっているだろうと楽観していたがそうではないらしい。もう少しうまくやればいいのにと夕凪は歯を食いしばっていた。

「大丈夫、皆慣れてるし、良くしたいって気持ちは一緒だから。たまにはああやって本気でぶつかることも大事なんだよ」

「ありがとうございます」

「でも蚊帳の外みたいに追いやられちゃったから気晴らししようかなって思っていたら夕凪ちゃんを見つけたって訳。どう? またエスコートされてみない?」

 明るく振舞う晃に、夕凪は頬の緊張を解いていた。意趣返しなのか、あの時言ったことを引きずられて、それでも嫌な感じはなかった。
 夕凪は手を差し出して、

「では、お願いします」

「はい、お嬢様」

 何それと夕凪が笑うと、少しだけ頬を赤く染めた晃が手を引いて歩き始めていた。
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