17 / 47
第17話 夕凪2-2
しおりを挟む
「金曜はごめん!」
週明け。
学校に着いてそうそう席に座っていたゆかりに対して、勢いよく頭を下げていた。
他の生徒の注目を集める中、目を白黒させていたゆかりは一呼吸置いて柔らかく微笑んでいた。
「いやー、私も悪かったよ。ごめんね」
「ううん、大丈夫」
夕凪は首を横に振る。そして顔を近づけ、小声で囁いていた。
「でも、悪ふざけでもあれは駄目だよ。ちょっと怖かったんだから」
「そんなこといってぇ、身体は受け入れてるように見えたぞー」
「止めろっての」
不用意に伸ばされた腕を夕凪は軽く叩き落とす。
何時もの感じに、笑い混じりのため息が漏れた。
「興味があるのはいいけど勘違いしてると大人になって大変だよ?」
「勘違い?」
可愛らしく小首を傾げる彼女に、夕凪はそうよと断言する。
「自分はレズなのかもって、思春期特有のあるあるらしいよ。一過性のものけど引きずるとチャンス逃しちゃうかもしれないし」
「は、はぁ……」
ゆかりは力無く頷いていた。
いつもと違う調子に、消化出来ない異物感を胃に感じる。
どうしたんだろう。なんか気持ち悪いよ。
夕凪は励ますようにゆかりの手を握る。冷えた手に驚きつつも、体温で溶かすように擦り、
「どうかした?」
「いや、別に」
「別にって……んー」
ゆかりが別にという時はだいたい何かある時だった。それがわかって問い詰めようとして夕凪は息を吸うに留めていた。
このまま続けていれば意固地になったゆかりは何も話してくれなくなる。それを嫌って夕凪は、
「……わかった。言いたくなったら相談してよね」
「うん……」
煮え切らないなぁ……
ゆかりの態度に思うところがあっても夕凪は飲み込むしかなかった。
いずれ話してくれる。今はそう信じるしかなかった。
いつの間にかに放課後を迎えていた。
今日一日ろくにゆかりと話せていない。見えない壁があっていつも通りに接することが憚られていた。
……はぁ。
夕凪は憂いを込めた吐息を吐いて、独り下校をしていた。
このまま帰れば家族が待っている。家にいるのは産休中の陽菜と、その子供たち。他の大人たちはまだ仕事をしている時間だった。
慣れ親しんだ道を歩き進む。ただ家に近づくにつれ、その足取りは重く苦しいものとなっていた。
理由は特にない。何となく、ただ何となく直ぐに帰りたくはなかった。
「あれ、夕凪ちゃん?」
突然後ろから話しかけられ、夕凪は立ち止まる。最近聞いた声に誰だっけと思いながら、夕凪は振り返っていた。
「あ……えっと」
「晴海先輩の後輩の、晃だよ」
ああ、そうだと記憶が呼び起こされる。
夕凪は姉ともども迷惑をかけたのに記憶から飛んでいたことを恥じて、
「その節はどうも」
「あ、いや。難しい言葉を使うんだね」
そうかな?
苦笑する晃に合わせるように夕凪も苦笑を浮かべていた。
「今日は……一人ですか?」
夕凪は辺りを見渡してからそう尋ねていた。
そこにあの姉の姿はない。いつも一緒のように言っていたのに、不審に思っていると、晃ははにかむように笑っていた。
何かあったようだ。その理由は彼の口から直接聞くことができた。
「先輩は部活中だよ。ちょっと居づらくて、一年は全員帰らせられたんだ」
「どうしたんですか?」
「んー……」
晃はためらいがちに空を見上げていた。そしてま、いいかと頷いてから、
「ゲーム部なのは聞いてる?」
「はい」
夕凪はこくりと頷いていた。
晴海の所属している部活がそれなのは本人の口から聞いていた。ただでさえ四六時中ゲームをしているのに部活動までゲームにしなくてもと母親の海が呆れていたのが印象的だった。
晃はうんと頷いてから、
「ゲーム部も活動が二つあってね。プレイするほうと制作するほうに大体わかれているんっだ。で、今日が制作したゲームのお披露目だったんだけど、先輩が一から十まで駄目だししちゃってね」
「ああ……」
「商業用じゃないんだからそこまでクオリティーを追求しなくてもとは思うんだけど、先輩は妥協とかしないから。プレイヤーの意見を全部取り入れてたら完成なんてできないけど、あの人正論で叩き潰すでしょ。せっかく作ったものを頭ごなしに指摘されたら他の先輩も引くに引けなくなって大戦争中なんだ」
「……すみません」
夕凪は申し訳なくなって頭を下げていた。
強情なところは海そっくりで、理詰めで追い詰めるところは一紗に似ている。両者の面倒くさいところを合わせて煮詰めたような晴海の性格に、家族内でも手を焼いていた。
流石に外では猫をかぶっているだろうと楽観していたがそうではないらしい。もう少しうまくやればいいのにと夕凪は歯を食いしばっていた。
「大丈夫、皆慣れてるし、良くしたいって気持ちは一緒だから。たまにはああやって本気でぶつかることも大事なんだよ」
「ありがとうございます」
「でも蚊帳の外みたいに追いやられちゃったから気晴らししようかなって思っていたら夕凪ちゃんを見つけたって訳。どう? またエスコートされてみない?」
明るく振舞う晃に、夕凪は頬の緊張を解いていた。意趣返しなのか、あの時言ったことを引きずられて、それでも嫌な感じはなかった。
夕凪は手を差し出して、
「では、お願いします」
「はい、お嬢様」
何それと夕凪が笑うと、少しだけ頬を赤く染めた晃が手を引いて歩き始めていた。
週明け。
学校に着いてそうそう席に座っていたゆかりに対して、勢いよく頭を下げていた。
他の生徒の注目を集める中、目を白黒させていたゆかりは一呼吸置いて柔らかく微笑んでいた。
「いやー、私も悪かったよ。ごめんね」
「ううん、大丈夫」
夕凪は首を横に振る。そして顔を近づけ、小声で囁いていた。
「でも、悪ふざけでもあれは駄目だよ。ちょっと怖かったんだから」
「そんなこといってぇ、身体は受け入れてるように見えたぞー」
「止めろっての」
不用意に伸ばされた腕を夕凪は軽く叩き落とす。
何時もの感じに、笑い混じりのため息が漏れた。
「興味があるのはいいけど勘違いしてると大人になって大変だよ?」
「勘違い?」
可愛らしく小首を傾げる彼女に、夕凪はそうよと断言する。
「自分はレズなのかもって、思春期特有のあるあるらしいよ。一過性のものけど引きずるとチャンス逃しちゃうかもしれないし」
「は、はぁ……」
ゆかりは力無く頷いていた。
いつもと違う調子に、消化出来ない異物感を胃に感じる。
どうしたんだろう。なんか気持ち悪いよ。
夕凪は励ますようにゆかりの手を握る。冷えた手に驚きつつも、体温で溶かすように擦り、
「どうかした?」
「いや、別に」
「別にって……んー」
ゆかりが別にという時はだいたい何かある時だった。それがわかって問い詰めようとして夕凪は息を吸うに留めていた。
このまま続けていれば意固地になったゆかりは何も話してくれなくなる。それを嫌って夕凪は、
「……わかった。言いたくなったら相談してよね」
「うん……」
煮え切らないなぁ……
ゆかりの態度に思うところがあっても夕凪は飲み込むしかなかった。
いずれ話してくれる。今はそう信じるしかなかった。
いつの間にかに放課後を迎えていた。
今日一日ろくにゆかりと話せていない。見えない壁があっていつも通りに接することが憚られていた。
……はぁ。
夕凪は憂いを込めた吐息を吐いて、独り下校をしていた。
このまま帰れば家族が待っている。家にいるのは産休中の陽菜と、その子供たち。他の大人たちはまだ仕事をしている時間だった。
慣れ親しんだ道を歩き進む。ただ家に近づくにつれ、その足取りは重く苦しいものとなっていた。
理由は特にない。何となく、ただ何となく直ぐに帰りたくはなかった。
「あれ、夕凪ちゃん?」
突然後ろから話しかけられ、夕凪は立ち止まる。最近聞いた声に誰だっけと思いながら、夕凪は振り返っていた。
「あ……えっと」
「晴海先輩の後輩の、晃だよ」
ああ、そうだと記憶が呼び起こされる。
夕凪は姉ともども迷惑をかけたのに記憶から飛んでいたことを恥じて、
「その節はどうも」
「あ、いや。難しい言葉を使うんだね」
そうかな?
苦笑する晃に合わせるように夕凪も苦笑を浮かべていた。
「今日は……一人ですか?」
夕凪は辺りを見渡してからそう尋ねていた。
そこにあの姉の姿はない。いつも一緒のように言っていたのに、不審に思っていると、晃ははにかむように笑っていた。
何かあったようだ。その理由は彼の口から直接聞くことができた。
「先輩は部活中だよ。ちょっと居づらくて、一年は全員帰らせられたんだ」
「どうしたんですか?」
「んー……」
晃はためらいがちに空を見上げていた。そしてま、いいかと頷いてから、
「ゲーム部なのは聞いてる?」
「はい」
夕凪はこくりと頷いていた。
晴海の所属している部活がそれなのは本人の口から聞いていた。ただでさえ四六時中ゲームをしているのに部活動までゲームにしなくてもと母親の海が呆れていたのが印象的だった。
晃はうんと頷いてから、
「ゲーム部も活動が二つあってね。プレイするほうと制作するほうに大体わかれているんっだ。で、今日が制作したゲームのお披露目だったんだけど、先輩が一から十まで駄目だししちゃってね」
「ああ……」
「商業用じゃないんだからそこまでクオリティーを追求しなくてもとは思うんだけど、先輩は妥協とかしないから。プレイヤーの意見を全部取り入れてたら完成なんてできないけど、あの人正論で叩き潰すでしょ。せっかく作ったものを頭ごなしに指摘されたら他の先輩も引くに引けなくなって大戦争中なんだ」
「……すみません」
夕凪は申し訳なくなって頭を下げていた。
強情なところは海そっくりで、理詰めで追い詰めるところは一紗に似ている。両者の面倒くさいところを合わせて煮詰めたような晴海の性格に、家族内でも手を焼いていた。
流石に外では猫をかぶっているだろうと楽観していたがそうではないらしい。もう少しうまくやればいいのにと夕凪は歯を食いしばっていた。
「大丈夫、皆慣れてるし、良くしたいって気持ちは一緒だから。たまにはああやって本気でぶつかることも大事なんだよ」
「ありがとうございます」
「でも蚊帳の外みたいに追いやられちゃったから気晴らししようかなって思っていたら夕凪ちゃんを見つけたって訳。どう? またエスコートされてみない?」
明るく振舞う晃に、夕凪は頬の緊張を解いていた。意趣返しなのか、あの時言ったことを引きずられて、それでも嫌な感じはなかった。
夕凪は手を差し出して、
「では、お願いします」
「はい、お嬢様」
何それと夕凪が笑うと、少しだけ頬を赤く染めた晃が手を引いて歩き始めていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる