【R18】彼女が友だちと寝ていたから

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第10話 一紗2

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「なんでか聞いてもいい?」

 男性は少しだけ身を乗り出して聞いてくる。
 好奇心が吐息となって頬を撫でる。
 それはもう聞いているのと同じだろと、一紗は鼻で笑うと、

「私は彼氏とか作らないから。だからそもそも別れるなんて発想がない」

「彼氏じゃない人と寝るの?」

 その一言に、しつこく持っていた割りばしがぱきっと快音を響かせる。

「説教?」

 一紗は身を乗り出していた。ほとんど額が触れるかという距離で彼をにらむ。
 磁石のように反発して距離を取ろうとするが、一紗はその胸元に手を伸ばしていた。着古したシャツを容赦なく掴み逃げ場をなくす。

「そんな意味じゃなかったんだ」

「別に、怒ってるわけじゃないし。ただ好きな人としかセックスしちゃいけないなんて誰が決めたん? その線引きは? 誰がどういう基準を作って誰が認めたの?」

「それは……」

 彼は返答に困っておびえた目で一紗を見ていた。
 一紗が目に力を入れると、上や下に目が泳ぐ。それを咎める気はなかった。
 どんな口答えをするのか楽しみだ、と一紗は思う。それに合わせて、小悪魔的に頬が緩んでいた。
 一度、催促するように握る手をゆすると、

「ほら、子供ができるかもしれないし」

「いや、避妊しろよ」

「はい……」

 一紗の言葉に、男性は視線を落として頷いていた。
 勝った、と思って一紗は手を離す。非常に虚しい勝利だ。何せ得るものが何もないのだから。
 しかしわからないと、一紗は男性を見て思う。こんな人間に相談してまで得たかった答えとはいったい何だろうかと。
 浮気をされていたという事実は覆らない。しかし別れたがっている様子もない。
 なら許せばいい。そして過去を忘れて一からやり直せばそれで終わるだけのことだろう。
 それが出来ないのは、

「――くやしいのか?」

 思考の出口に出てきた答えを口にする。
 しかし、彼はためらいのない動きで首を横に振る。

「いや、そんなことはないよ」

「憎く思っては?」

「そうでも、ないかな」

 一瞬戸惑ったように見せるが、彼はそう断言した。
 後はなんだと一紗は頭を捻る。
 交際相手に対して、浮気を咎める様子は見られない。そして彼は相談相手として、一紗を選んでいた。つまりは複数人と関係を持つことについて聞いているのだと理解はできる。

「羨ましかったとか?」

 相手は遊んでいるのに自分は一途。それを不公平に感じたのではと一紗は答えを出していた。
 しかしそれも否定される。

「そういうんじゃないんだよ。確かに黙っていたことに思うところがないわけじゃないけど、浮気されていたことに関してもやもやするところがないんだ。それが何でか知りたくて……」

「えっと……知らないし、そんなこと」

 何かと思えばそんなことかと、一紗はため息を漏らす。
 浮気をされたこともしたこともない人間に問うにはお門違いなことだ。相談する相手を根本から間違っていると、肩を震わせて嘲笑する。
 突き放すような言葉に彼は苦笑を浮かべて、だよね、と肩を落としていた。小さく見えたその身体がより小さく見えて、かわいそうな小動物のように思えてくる。
 かまってもらえないことに心傷ついた兎の姿が思い浮かぶ。
 ……ありだな。
 たまには違うものを食べるのも悪くない。普段食べていたものが和食とするならば、目の前の獲物はクリームたっぷりのケーキ、いや素朴の和菓子のように見えていた。
 一紗は手を取っていた。軽く汗ばんだ手は細長くて柔らかく、少々爪が伸びているのが気にかかる。
 急に掴まれた彼は跳ねるように顔を上げていた。
 目と目が合って、

「じゃあさ、私と浮気してみる?」

 逃がさない。そう告げるように手に力を込めていた。
 細い指が彼の腕に後をつける。一紗の言っている言葉を理解するのにかなりの時間を要して、

「えっと……今どこからそういう話になったの?」

「わかんないんだったら試してみるしかないでしょ。相手の気持ちも自分の気持ちも」

 それでどうにかなるとは思わないけどね、と心の中で付け足した。
 それでもこんな所で無意味に時間を潰すよりは数倍ましなはずだ。一発抜いてスッキリすれば馬鹿みたいな堂々巡りも止むだろう。
 しかし、彼は首を傾けて納得していない表情を浮かべていた。

「浮気された方だし、した側に回っても仕方ないんじゃないかなぁ……」

 ならそもそも相談相手が間違ってんだよ。
 一紗はそう思いながら手を離す。

「やっぱ、こんな女じゃ立たないか」

 決して清い身体でないことは自覚していた。ましてや浮気されていたのだから、少しは女性やセックスに対して嫌悪感があってもおかしくは無い。
 やってる最中に泣かれても面倒だしなぁ……
 ちょっと期待していただけに、疼きが止まらない。難儀な身体に一紗は呆れていた。
 その時だった。
 引いたはずの手が掴まれていた。両手で、包み込むように手を持たれ、その温かさがじんわりと染み込んでいた。
  
「そんなことないよ。綺麗だし誘いを無下にするのはもったいないとも思ってる。でも先に自分の問題を片付けてからじゃないと駄目だから」

「なるほど」

 一紗は頷き、笑みを浮かべる。
 自分と違ってずいぶんまともなことを考える彼が、どうにも気になっていた。
 その価値観を自分の手でぶち壊したらさぞかし楽しいのだろう。連れはいても他所の男を選ぶような女だ、それなら捨てられる前に拾ってあげることも人情ではないだろうか。

「ねえ、この後暇だよね」

 断定する。予定があろうがなかろうが関係ない。最優先を変更すればいいだけだ。
 問われ、彼は身を引く。掴まれていた腕は温かさを失い、代わりに一紗が腕を掴む。
 逃がさない。今日はお前と決めたのだから。

「暇だろ?」

 もう一度聞く。口調はいつもの調子に戻り、目尻は下げてもその奥の瞳は笑っていなかった。

「えっと……まあ、はい」

「じゃああんたんち行くよ」

「……なんでかな?」

「なんでも何も、やることなんて一つしかないし」

 一紗は椅子から腰を浮かせて浅く座りなおしていた。お互いの膝が当たり、肩も触れそうな距離になる。

「ひゃっ!?」

 テーブルの下では、一紗の手が男性の股間を撫でていた。形を確かめるように内腿からゆっくりとなぞり、きゅっとしまった袋からまだかわいらしく収まる竿を掬うように触っていく。

「ちょっ、まずいって」

「いいだろ? ここまで話聞いてやったんだから、授業料だと思えって」

「彼女いるんだけど」

「よかったな。イーブンだ」

 むくむくとズボンの中で成長するものを感じて、一紗はその先端を指ではじいていた。それに合わせてびくっと肩が跳ねる様が面白くて、

「……ここで抜いてあげてもいいよ?」

 しだれかかるように男性の肩に顔を乗せると、その耳元で小さくささやいた。
 下半身から悪寒のような身震いがせりあがってくる。それに合わせて手の中にあるものがびくびくと暴れていた。

「……家でお願いします」

 絞りだしたような、観念した声に一紗はその無防備な耳に息を吹きかけていた。
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