【R18】彼女が友だちと寝ていたから

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第6話 夕凪1-2

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「ん、大丈夫? 具合でも悪い?」

 ゆかりが聞いてくる。いやらしい意味はない、肩に回った手が力強く引き寄せて、

「不倫のこと?」

「……言うなっての」

「夕凪は転校しちゃやだよ?」

 しない。それだけははっきり言えるのに口からは短い吐息しか出なかった。
 夕凪はしばらく体重を預けていた。胸以外にも少しだけ肉付きのいい身体は柔らかく、安心する。
 目を閉じて体温を感じる。子供のような熱っぽさが心地よかった。
 もし私が男だったら。先ほどの言葉を思い出してくすりと笑う。今のような状況ならころっと転がっていたかもしれないなと思っていた。
 直後、

「夕凪」

 言葉よりも早く額に唇が触れていた。
 ……えっ?
 状況が理解できないままことは進んでいく。肩を抱く力は強くなり、もう片方の腕が腹を通り過ぎて脇腹を掴んでいた。
 抱きしめられている。頭上に感じる吐息は荒々しさを含んでいて、感触を味わうように指先が動いていた。
 これは……なんだ? なにが起こっている?
 なすがまま、夕凪の頬を掌が包んでいた。ぐっと向きを変え、目にはゆかりの上を向いたまつげが映っている。

「夕凪」

 もう一度名前を呼ばれる。緊張で硬くなった身体は引き寄せられて、お互いの吐息が顔にかかる。
 見つめあい、そして、

「――キス、してもいい?」

「……いや、ダメだろ」

「えーっ!?」

 うるせぇ! と、夕凪は渾身の力で腕を突き出す。掌はゆかりの胸に当たり、あんっと艶のある声を出していた。
 キーンを麻痺した耳が痛い。突然盛り始めたゆかりが怖い。訳が分からず、夕凪は距離をとる。
 目が本気だった。それを思い出して、

「ちょっと! 今日のゆかり、なんか変だよ」

「……そう」

 捨てられた子犬のような目が夕凪を見つめる。
 まさか、そんな。
 頭に浮かんだ言葉が事実ならばと夕凪は頭を抱える。受け入れるべきか、否か。行動に移されては今まで通りとはいかない。
 ゆかりはただ目を向けるだけで動かない。
 やめてよと、夕凪は思っていた。そんな目で見ないでよ。
 と、その時、

「……いやー、冗談が過ぎたかな?」

 一転して明るい口調でゆかりが言う。笑顔を貼り付け姿勢を正し、夕凪の前にあったタブレットを奪うように取っていく。
 突然の様変わりように夕凪は開いた口がふさがらない。そこにいたのはいつもの親友で、一人警戒している自分が滑稽に映っていた。
 どっちだ、どっちなんだ?
 迷宮入りした答えにふつふつと胃の下からマグマが湧いて出る。弄ばれたような気がして、

「ねえ、どっちなの!?」

「何が?」

「レズなのかどうなのかってこと!」

「えっ、いや普通だけど……」

 ゆかりは眉を寄せてよどみなく答えていた。すぐに視線を戻して操作に集中する。
 その態度からは結局どっちなのかわからない。言葉通りの可能性もあって、我慢して目をそむけているそうにも見える。
 いらいらする。気付いた時には横を向くゆかりの服を掴んで引き寄せて、

「ん!?」

 その無防備な唇を奪っていた。
 つたないキスにゆかりは目を丸くする。夕凪はどうだと睨みつけてから顔を離す。
 しかしその後頭部はいつの間にか腕で押さえられていて、

「んんっ!?」

 恐ろしいほどの力で引き込まれて、ゆかりの鼻が顔に触れる。貧相な唇がねっとりとした粘膜の動きを伝えていた。
 ――やめろって!
 夕凪はゆかりの腹部に手を当てる。力いっぱい押してもびくともしないどころか徐々に距離が縮まっていた。
 散々蹂躙された唇が酸素を求めて開く。そこへ貫くように甘い舌がねじりこまれていた。
 薄い紅茶の味がする。
 のしかかるように体重をかけるゆかりに、耐え切れず背中からソファーに寝る。ようやく離れた口がここぞとばかりに荒く呼吸を繰り返していた。

「はぁ…なんで……」

「夕凪が悪いんだよ?」

 そうだろうか、そうかもしれない。
 熱に浮かされたように頭がぼおっとする。下半身がかすかにうずいて、溶けた熱が下着を湿らせていた。

「普通なのに、ちょっとはまりそう」

「普通だったんだ……」

 ちくしょうと内心で独り言ちる。
 完全に藪蛇をつついて、今や絶体絶命の危機。誰のせいかを言えば、ただの自業自得だ。
 このまま花を散らすのかと、目の浅いところに水が溜まる。
 ゆかりの指がゆっくりと動いていた。肢体のあらゆるところをゆっくりとなぞっていく。
 目は見つめあったまま。お互い荒い呼吸を繰り返して、

「責任、とってね」

 ゆかりが告げた言葉に、夕凪は弱くうなずいていた。



「あっ」

「えっ?」

 白いシャツをはだけて、同じ色のブラトップをさらけ出した夕凪は、動きを止めたゆかりの顔を見つめていた。
 目が合ったまま、しんと静かになる。芯にある熱が馴染んで、薄れていく。

「……どうしたの?」

「あー……知ってる?」

 ゆかりは問いかける。その表情はバツが悪そうにはにかんでいた。
 良くないことを言うつもりなのが直ぐにわかって、夕凪は頬を膨らませる。
 しかし声は止まらず、

「カラオケってさ、監視カメラで見てるらしいよ、中」

 瞬間、血の気の引く音を聞いた。こもっていた熱が引き、凍りつく。

「っーー!」

 夕凪は声にならない悲鳴をあげると、覆い被さるゆかりをソファーから蹴り出して床に落とす。返す手で胸元を隠すようにシャツを寄せると、

「馬鹿っ、帰る!」

 鞄を持って乱れた服装のまま個室から飛び出していた。

「あっ、待ってよー」

 後ろから聞こえる声を無視して、夕凪は鬼の形相で会計を済ませると、顔を真っ赤にして外へと飛び出していた。
 すっかり暗くなった街並みの中、
 ──あの馬鹿っ!
 結構溜まっていたポイントもたまり場の一つも失ってしまった。それ以上に、原因のわからない大きな喪失感が胸をすかすかにしていた。
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