半官半民でいく公益財団法人ダンジョンワーカー 現代社会のダンジョンはチートも無双も無いけど利権争いはあるよ

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夏、海、カツオ13

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 不思議なこととは多々あるもので、急にダンジョンが湧いて出てくるなど最たるもの、それにしても目の前で人体が開きになった後、接着剤もなくくっついて元通りに動くとなれば驚くのも無理は無い。どういう奥の手を持っているのか気になるのは人間の本性であり、ただそれもより緊迫感のある異変が目の前に迫っていると気づいてしまえばいったん棚に上げざるを得ないだろう。
 つまり、海側から大きくせり上った波が壁を作って迫っていた。津波である。
「――た、退避!」
 前兆はあった。引き潮によりいつもより海岸線が後退していたのだが時は戦闘中、そんな些細な違いに目を向ける余裕もなく、気付いた時にはどう足掻いても飲み込まれる寸前、万事休すと嘆く余裕も無くなっていた。
 ……ん?
 波がパイプを描いて雪崩込む、その頂点を見て新堂は足を止めていた。白濁とした泡が渦を巻く、その上にいるはずのない人物が見えた気がして――。
「おーい! 色々ごめん、頑張って!」
 半裸の何かの上に乗り手を振り追いかけてくる少女、連れてきたのは死神の大軍か。少なくとも津波の原因に舞が関わっていることが判明したことにむしろ安堵すらするが、それはそれとしてふざけるなと叫びながら新堂は波に揉まれていた。


「いやー、なんて言うかごめんね。私なんにも悪くないんだけどさ」
 本当だろうか、と疑いの目が集中するが事実である。津波の原因はダンジョンコアのあった鯨のような浮島が浮上と潜水を繰り返したせいで発生したもので、そこに舞の意図は微塵も含まれていなかった。しかしこれまでの信頼というものは覆しがたく、特に悪い方の心象が見つめる目にありありと浮かんでいた。
 津波が何もかもを飲み込み、波が引いた頃にはあの穏やかな砂浜だけが残っていた。密猟に来た人々の姿も無くなり、もはや身元も不明、死亡したと断定するしかなかった。
「本当なんだって。ちょっと妹と話してただけなんだから、それに津波を起こすなんて人間の力じゃ無理でしょう?」
「妹は死んでるって聞いたが?」
「あー……死んでるっちゃ死んでるんだけど……なんて言うか、面倒くさい事情があるんですよ。そこら辺は突っ込まないでくれると助かります」
 平にご容赦をと頭を下げるだけで舞は多くを語らない、その姿勢が余計に猜疑心を強めることとなっているのだが気にしていないのか気づいていないのか、要するに人の心が分からない舞は反省の色すら見せる気はなかった。
 コアによって吹き飛ばされて海原のど真ん中に叩き落とされた舞は、たまたま近くを泳いでいた死んだものとは別のカツオさんを見つけその背に乗っていた。どこに向かうのだろうと流れに身を任せていると徐々に波がたち始め、あとはこの様子である。辛は戸事と波平を抱えて近くの大岩の上に跳んで逃げたため無事であったが、新堂は津波を思いっきり一身に受けたせいでずぶ濡れ、1歩間違えればそのまま海に引きずり込まれて死んでいた可能性すらあった。
 それを舞は運が悪かったと笑ったせいで険悪を通り越して殺意すら目に浮かぶようだった。結果として舞は新堂の前で砂の上に正座をさせられていた。
「……わかった。ともかく無事でよかったよ。余計な書類を書く手間が省けたからな」
「辛辣ですねぇ、もうちょっと部下を労わってくれてもいいんですよ? こっちだって無事に帰ってこれたこと自体が奇跡みたいなものだったんですから」
 なんだかんだ説教というパフォーマンスだけで許してしまうあたり、新堂も甘いのだ。
 そこへ影が走り舞に覆い被さる。豊満な身体に包み込まれもがく舞は少しして諦めたように身体を預けていた。
「まいぢゃーん、ごべんねぇ助けられなぐでぇ、心配してたんだけどどうしても、ごべんねぇ」
「はいはい分かってますよ、別に怒ったりしてませんから離してください」
「ごべんねぇ」
 大の大人の号泣する様子を見ると途端に気持ちが冷めてくるのは何故だろうか、顔が半分胸の中に埋もれながら舞は考える。
 そこへもうひとり、近づく人が影をつくり、
「……ちょっといい?」
 戸事の問いに舞は返答出来ない、名目上とはいえ説教中、それに心配をかけたと辛に拘束されているのだ、彼女の何処に自由意志があるというのか。むしろ助けて欲しいと目線で送るも伝わった気配は無い。
「琴子、今じゃなきゃダメ?」
「……お願いします」
「……わかったわ。でも私も一緒でいいわよね?」
 舞の想定通り、何ひとつ了承を得ないまま話は進む。流石ダンジョンという訳の分からないものを相手にしているもの好きなだけあってまともな対応は望めないらしい。
 持ち上げられてぬいぐるみのように後ろから抱きかかえられた舞は、辛からの目線でも飛んだのか、少しだけなと男達が手を振って離れていく姿を目で追っていた。これではまるで生贄ではないか、と恨みがましい瞳がその後ろ姿をしばらく追い続けていた。
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