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幕間 調査結果1

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 公益社団法人ダンジョンワーカーは、基本完全週休2日制である。基本というのは管理しているダンジョンから突発的にモンスターが溢れ出ることのない限りという注意書きと、休日に行うイベントを除くという意味だ。しっかりと管理、つまり定期的な間引きが出来ていればダンジョンからそう簡単にモンスターが溢れることはなく、イベントも事前に予定されているものなので急に休日が潰れるということは少ない。少ないだけであってまったくないとは言えないところが悲しいことでもあるが。
 さて、社会人、それも独身男性の休日とはどのようなものだろうか。意識の高い人ならば朝は早く、決まった時間に起き、軽い朝食を作りながらドリップコーヒーの味で今日の運勢を占うことだろう。
 では、そうでない男性はどうだろうか。分厚い遮光しゃこうカーテンが日差しを遮る部屋、現在時刻は午前11時、既に日は高く、る光は白く輝いている。それだけで絶好の外出日和だとわかるだろう、しかし部屋の主はそんなことお構いなしと夏にもかかわらず頭まで毛布にくるまり、寝る子は育つと言ってももういい大人、不必要な睡眠はむしろ毒であるというのにエアコンの効いた部屋の中で穏やかな寝息をたてていた。
 いつまで眠っているのだろうか、空腹で目が覚めた時、人は必ずこういう。あぁ、せっかくの休みを無駄にしたな、と。その度に次の休みは有意義なものにしようと決意するも、悲しきかな、日々の業務に押し出されるようにその考えは抜けていき、結局また同じことの繰り返し。まさに後悔先に立たず、彼はいつになったらかえりみるのだろうか、それは誰にも分らない。
 いつも通りならあと1時間はこのままと言ったところで、安眠を妨害するアラームが鳴り響く。ビリリリと音を鳴らしたのは枕元に置いてあるスマホで、惰眠だみんむさぼるトド、いや棺桶にしまわれた骸骨のような痩せ男は否応なしに目を覚ます他なかった。
 布団から飛び出した木の枝のように細い腕が、邪魔者であるスマホに伸びていく。見当違いに枕を2度、3度と叩いていたが、ようやく触れた硬質の物体を大きく広げた手が捉えると、ウツボのように巣穴へと連れ込み音を切って吐き出していた。ただ詰めが甘いところはバイブレーションを切らなかったことで、ものの数秒も経たぬうちに、叱咤しったするようにまたスマホが鳴動していた。
 軽い舌打ちが静寂の間に響き渡る。主たる男性、新堂はまどろみのまま虚ろな顔を外に出し、親の仇を見るような目で叩き起してくれた恩人を見る。
 画面が煌々こうこうと光り輝き、闇に慣れた目を焼く。未だブルブルと震えるそれには、人のシルエット画像と非通知という文字が表示されていた。
 最悪の目覚めに気分を害されながら、新堂は一度手放したスマホを手に取るがすぐには出ず、むくりと身体を起こし、まだ生暖かい毛布の誘惑を名残惜しそうに見送り、ベッドの上で胡座あぐらを書きながら通話ボタンをタップする。
「ちょっと! 1回で出なさいよ!」
 初手罵声ばせい安息あんそくの地を踏み鳴らすような行為に、どんな聖人君子せいじんくんしでも助走をつけてドロップキックをお見舞いするだろう。もちろん昼近くまで寝ていたことは棚に上げてだが。
「なんだよ……叩き起してくれてよぉ」
 不平不満が口に出る。くだらない要件なら切るつもりだったのは明白で、そもそも相手が誰なのか分からないはずなのに新堂には確信があった。
「こんな時間まで寝ていられるなんていい身分ね」
「会社員だからなぁ、はぁあ……」
 小言が耳を打つが、そんなことお構い無しと新堂は欠伸あくびをする。これがデートのお誘いならば反応は違ったのかもしれないが、そんな色のある話ではなく、公安のただの業務連絡に気を使う必要などないと二度寝という言葉が脳裏にチラついていた。
 そのやる気の無い態度が良くなかったのだろう、電話越しから聞こえる声にははっきりと怒気が乗せられ、
「私だって会社員なんですけど、国営なんですけど!」
「知るか」
「あーいいなぁ、今から上司に配置換えお願いしようかなぁ」
「やってもいいけどこっちに書類来た時点で弾くからな」
「横暴じゃん」
 そのくらいの権限は持っている。言っていることは評価されないが何故か勝ち誇った表情でふふんと鼻を鳴らす新堂のなんと器の小さなことか。
 普段悪鬼羅刹あっきらせつのような、人を小馬鹿にすることを生きがいにしている小鬼こおにに体良く打ち負かされているせいか、珍しく言い勝つことほど気持ちのいいことは無い。寝起きと相まって緩みに緩み、人には見せられない顔をした新堂は徐々にエンジンのかかってきた頭で受け答えをする。
「で、朝っぱらからなんのようだよ」
「もう11時過ぎてますけど……対象についてデータまとめたからその報告よ」
「メールでいいだろそんなもん」
「そんな簡単に済めば電話してないわよ、バカ!」
 途端に口が悪くなる電話越しの女性に、更年期障害かと考えたが口には出さない分別があった。言ったが最後、押収品倉庫の中から改造品の機関銃を持ち出して斉射されかねないからだ。
 半分、いや7割くらい面倒だと思い浮かべながら話を聞く体勢を取る。立ち上がり、愛用のデスクに腰を下ろすと取り出したのはアナログなメモ帳だった。ペンを取る動きは緩慢で、しかし後にしろと断ればより面倒くさいことになる、世の中上手くいかないなとうれいながら、
「で?」
 恐ろしく短い問いかけをする。
 当然相手の心情は下がるため、うっすらと冷気が漏れるような声色で、
「聞く態度なのそれ」
「さっさとしないとまぶたが落ちてくるぞ」
「ふわっふわな脅し文句は止めて。で、まずは森 林児」
「舞じゃないのか?」
 予想外な言動に声のトーンが1段上がる。書き出す予定の手が止まり、躊躇いがちに宙をなぞってから、『森』の1字を書き出した。
 余計な茶々に電話越しの声がまた1つ棘を増し、しかし彼女は大人だった、いちいち突っかかっていては話が進まないと苛立ちをため息に変えて、
「簡単なやつから済ませたいの。で、彼は刑事、42歳で独身。普段の勤務態度に目立ったものはなく、ごく普通の一般人よ」
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