半官半民でいく公益財団法人ダンジョンワーカー 現代社会のダンジョンはチートも無双も無いけど利権争いはあるよ

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実働1部6

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「えー、判定としては舞の負けだな」
「なんでよ!?」
 辛との一騎打ちが終わり、地面に座る女性2人を前にして新堂が言う。
 ……納得いかないわぁ。
 あのままなら舞が勝っていた。額はジンジンと痛むが辛は立っていることがやっとの状態、ナイフで急所を刺すことすら簡単だった。
 駄々をこねる舞に、新堂は大きく青色のため息を吐いて、
「致命傷喰らってるやつが言うんじゃねえよ」
「生きてる!」
「訓練だからな。あれが実戦用ならお前の頭がトマトスバになってたぞ」
「まあまあ」
 にらみ合う2人を辛がなだめる。汚水まみれになっていた彼女は2リットルのペットボトルを開けると頭から水をかぶり、数回口をすすぐだけで快調していた。
 その表情は明るく、笑みが零れている。リラックスした様子で背中を寝かせ、片膝を立てていた。
 そして一言、
「いやー負けたよ」
「怒っていいんだぞ? 流石にやりすぎだ」
「発破かけたのはこっちだからね。かっこ悪いじゃん」
 その表情には微塵も悔しさはなく、むしろ楽しんでいるように白い歯を見せる。
 ……余裕あるなぁ。
 力の差、そして度量の差を見せつけられているようで舞は少しむくれていた。振り返れば薄氷の上を運とドーピングで走り抜けただけで、実力だなんてひとつも言えない結果だった。 
「というかあれ以外で勝てる方法なくないですか? 普通だったら最初の一振りでのされてたんですし」
「そうね。でもいい線いってたよ」
「心が広すぎだろ」
 女子2人の反省会に新堂が口を挟む。舞自身あれしかなかったと思う反面やりすぎたという反省もある。ついいい所を見せようと見栄が出たことが原因だった。
 言い訳をするなら遠距離武器がなかったことも要因の1つだ。いまだ律儀に銃刀法という法律を守る日本において猟銃ですら免許がないと使えないことはまだしもスリングショットでもあれば……いや、1発打った後急接近した辛に殴り飛ばされる未来しかない。
 ダンジョンで銃は使えない。正しくは使わないことを推奨されていた。火薬の弾ける大きな音は四方からモンスターを呼び集め、反響音で自分だけでなく味方の耳を殺し、跳弾による被害が出るからだ。結果鈍器が1番効率がいいという結論が出ている。
 つまり舞が選べたのは負け方だけで、そう考えると善戦したのではと自分を擁護していた。
「でも困ったね」
 やったと顔に出さず能天気に喜んでいた舞を置いて、辛が新堂に語りかける。眉を寄せ小さく喉を鳴らす姿は異性を魅了する妖艶さがあった。
「何がです?」
 横から口を挟む。辛は舞に困ったような笑みを向けて、
「この後同期の子たちと合同訓練の予定になるんだろうけど、こんな戦い方したら向こうが折れちゃうんじゃないかなって」
「いや、状況に合わせてやりますよ。人のことを何だと思ってるんですか」
 言って、舞は頬を膨らませる。細く線を書く目で辛を見つめると、顎に指を添えて思考の海に潜り込んでいた。
 えぇ……。
 そんなに考えるものなのかとそわそわし出した舞に、突然顔を上げ目を合わせた彼女は、
「子猫のようだけどいたずら好きの猿のほうが近いかな」
 言った瞬間、上から吹き出したように笑う声が降ってくる。
 野郎……。
 舞は貼り付けたような笑みを浮かべて、手元にあった石を投げつける。新堂の眉間目掛けて飛んでいく小石はすんでのところで顔をそらされて空へ消えていった。
 ただ直後に飛んできた2投目はしっかりと眉間を捉え、彼は額を押さえて奇妙な踊りを踊ることとなっていたが。
 よしっ、と舞は拳を強く握る。近頃の彼は美少女のアタックを袖にする玉無し野郎だった。調子に乗る前にわからせることが出来て満足していた。
 のたうち回る新堂を捨て置いて、
「猿って……そういうことをいってるんじゃなくてですね」
「嫌だった? 可愛いし美味いんだけど」
 お、おぅ……。
 辛はきょとんとした顔をして無垢な感想を述べる。味へのコメントには怖くてそれ以上聞けなかった。
 舞が言葉に詰まっていると、何故か目の端に涙を浮かべている新堂が言う。
「俺らはただのヘルプなんだし深く考えなくても実働1部の部長なりが何とかしてくれるだろ、専門はあっちなんだし」
「それもそっか」
 辛も同調して頷く。その他人任せな案が可決されそうなことに舞は唇を尖らせていた。
「他人事だと思っておざなりじゃないです?」
「自分のことで精一杯なだけですぅ。思いっきりしごかれてこい」
「可愛くないからその言い方やめた方がいいですよー」
 うるせえと砂をかけられる。舞い上がった砂煙が目に入り、ぬおぉと叫びながら舞は地面を転がっていた。
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